降臨せし者
太陽暦一八八二五年。
広大な森林の向こうから、太陽が昇ってくる。朝日が城に届く先触れが放たれる。
その瞬間、城のテラスに飾ってあった一抱えもある銀盤に光が満ちる。
わずかな凹凸が光を決められた方向へと反射し、城の内部に光が伝播されていく。
大地に固定された城が目覚める瞬間だ。
“あれから、何年の月日がたったのだろう。俺は、あの世界にいたことさえ、忘れかけている。
星々の煌めき、踊る火線、血の滾り、絆。
そのすべてから、ここは離れてしまっている。そして、仲間さえ、ここにはいない。
俺は、今、どこへ行こうとしているのか。その未来さえ見出せないままに……”
遙かな過去からの伝承に、眠りし大地に朝日が射す、その一瞬に眼下のすべてが黄金色に満たされる、そんな日は素敵な知らせのある日と言い伝えられていた。
急峻な山の中腹に建てられた難攻不落な城塞の主は山裾にCの字型に、形成された大きな湖を見下ろしていた。
鋭さとなだらかな線を持つ城塞は神の牙より恐るべき、いかづちを過去に放たれている。
幾度となく……。
スクー・ワトルアというこの国には似たような城塞が、他に六ヶ所ある。
そのどれもが天に向かって一本の長き牙を伸ばしている。
その牙は、継ぎ目のない金属らしいものによって造られているらしい。
その神のいかづちは、その長き牙より出るといわれている。
「ふむ、運命の星が降臨しようとしている。我が城に…か…」
城に造られたテラスから、その湖を見つめていた男が何かの兆候を掴んだようだ。
控えの間に居る侍従に命を下す。
「プロイ、力場を構成しろ。目標、神の牙頭頂部だ!」
打てば響くような答えが返る。
「陛下! 降臨者ですか?」
「そうだ」
男は肯きを返す。
「直ちに!」
彼の花が一斉に開花した。魔法の花が咲いたのだ。
作り出された力場の構成とその安定のために力を放出している。
神の牙の頭頂部に重厚な時の扉が出現した。
降臨の瞬間が来たのだ。
「陛下! 安定しました。お出迎えを…、く…どうぞ!」
かつてない程の力場の安定に掛かるエネルギーはいかほどのものか、プロイの顔を彩る苦渋が物語っていた。
降臨者の持つ存在の力が顕現する際にこちらに漏れてくるためだ。
その漏れてくる力に男の何かが反応した。直感だった。
「この波動は、『姫』の波動、では…」
「プロイ様、私たちも支えます。今、同調します!」
城内の術者たちが声を揃えた。
咲き誇る花たち。そして、放たれる七色の力。
「済まぬ。さあ、リュウ様、お出迎えを!」
すべての術者たちの放つ力によって支えられたその扉に、男は、テラスから飛び出した。
「フライ!」
空へ、彼に咲く魔法の花の持つ力の行使によって。
そう、『姫』を迎えに……。
時の回廊の中で、再び、巡り逢うために…。
花は咲き誇る…、まるで夢のように…。