書類作成の為の備忘録
深夜2時。
僕は一階の管理人室で備え付けの机に向かっていた。
「……」
警察官の仕事は80%が地味なものである。
ほとんどデスクワークだと言っても過言では無い。
裁判所や検察に届ける書類、内部資料作成の為の素材集め。更に年配の警察官などは未だ手書きでの作成をしていると言うから頭が下がる。
特に裁判所の書類は厳密に上司のお伺いを立てる必要があり、表現の仕方だけでも全て書き直しという悲劇に見舞われることも少なくない。
なぜそこまでするのか?
それは『警察のメンツ』であると実習期間で指導されたものだ。『こんな言い回しじゃ警察がナメラれるだろうが!』という訳である。
「……」
それに調書の誤字が1つ有っただけでも聞き取りをした本人の母音を取りに職場や自宅に足を運ばなければならないし、あからさまに迷惑そうな対応をされる事も多い。
そんな面倒で時にはむかっ腹の立つ事態を避けるには、事前にメモを取っておく事が必要で不可欠。
いわゆる『備忘録』と呼ばれる物だ。まあ只のどこにでも売っているノートなのだが書類作成時には助けられること甚大なのである。
だから僕もその慣習に習い見聞きしたことをここにメモをしておこうと……こうして夜中に缶コーヒーを相棒に机に座っていると言う訳だ。
さて。
マリ。
本名:茜沢真理 19歳。
『病気』は不明。
大学生だが妙に面の皮が厚い。あれはキライな人間の足を踏みながら『あら、おはよう』などど笑顔で言えるタイプのオンナだ。係長とちょい被っている。
しかし料理はんまい。エビマスターである。
責任感も感じているようで寮の住人に対する庇護欲強し。
モモ。
本名:瀬能桃 16歳
『病気』接続不良(俗称)。
近くの高校に通っているようである。言動にオチは無く躁病の疑いあり。
人が死ぬのが興奮材料の変態である。しかしそんな自分を恥じている向きも見受けられるがホントかどうかは疑わしいものだ。
攻撃性は今のところ感じられない。だれか言っていたが『内弁慶』の称号がしっくりくる、騒がしいヘタレと言ったところか。
ヒトミ。
本名:長崎瞳 14歳
『病気』は不明。
中学生だがモモより成熟度は高いように見える。周囲の空気に敏感なのだろうか、人見知りでもあるらしいのは初対面の印象からも明らか。
一旦打ち解ければごくごく普通の女子中学生に見え、それなりにコズルイしそれなりにうるさい。
サヤ。
本名:野崎沙耶 12歳
『病気』死コピペ(俗称)。
小学生、殺しかけた僕になぜか懐いているようだ。意思疎通が困難で何を考えているかよく分からない。しかし悪意は感じられず一貫して無邪気な笑顔を振り撒いている。マリやヒトミ、モモでさえサヤに対する態度は柔らかいように思える。それにしても僕が驚いたのは、持っていたルービックキューブを瞬時に揃え、崩したあと再度瞬時に揃えていた事。知能は高いのかも。
「……」
もう1人は未だ未見、まあその内顔を合わせるだろうが……どうも食器の類も4人分しか無いように見えた。他の住人たちも4人で居るのが常態のようで違和感が感じられなかったし、話に昇ることも無かった。
「……」
ふう。
こんなもんか。
僕は自分で書いた備忘録の内容を読み返し、思った。
僕って……オンナ嫌いなんだろうか?どうも誰に対しても印象が悪い。
「……」
こんなもん見られたら敵増やすだけである。誰も得しない。
僕はこの備忘録を誰の目にも触れないように机の引き出し、それも鍵の付いた一番上に位置している引き出しにそっと仕舞った。