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ばーれーてーたー

「……」


頬を風が撫でた。

硬質の足音が耳に付く。


「あ、起きられました?」


ピンクの白衣の女性が僕に声を掛けるが、僕はまだなにかしらの返答を避ける。ややこしくしたくなかったからだ。



・・・・・・・・・・・・ ・・・・・・・・

ここがどこで僕が誰なのか、確認できていない。


「麻酔で少し意識が薄いかもしれませんね。でも安心してください、元々外傷は無かったんですよ」



体が……堅い。

ベッドの上で姿勢をズラしバキバキと腰を鳴らしながら僕は時計を確認する。


「……」



丸い飾り気の無い壁掛け時計は14時を指し、日付は12月4日。



「……」



おそらく看護師でありここは病院で……僕の反応が虚ろなのを気にも留めていない女性は、何やら幾つか言葉を僕に投げかけると満足して病室を後にする。


「……」


目が重い。

目ヤニがまぶたを繋げてしまっていて瞬きがまともに出来ないが、腕を上げて目を擦ろうにも上手く腕は上がらなかった。


「……」



外傷なし、で三日間昏睡状態。

じゃあ麻酔は何の為に?そんなことってあるんだろうか?

まとまらない頭を幾ら捻ってみても満足いく回答など望めない。この辺りは慣れたものである。

僕は状況の推移を見極める為、暫らくは無言で通そうと決めた。


「……」


廊下に足音、とりあえず1人のようだ。真っ直ぐこの部屋へ向かうその足音に淀みは感じられない。目的のある人間の歩調。医師だろうか?

ちょうどいい、その医師の様子で大方判断できるだろう。僕はベッドの上で扉とは反対側を向き様子を伺う。


「……」


スルスルとドアはスライドし、ドンと鈍い音が病室に響く。

慌てていたんだろうか?

そういう音をさせない為に病室の扉は設計されているというのに。


「ぐえっ!?」



唐突に腹部に強烈な圧迫感、そののち僕の額に小さな黒い鉄製の筒が押し当てられる。


「死にたいならここで今申告しろ木槌巡査。ここが病院であろうと即死させる自信はある」


「か、係長?銃口がコッチに……それにソレ安全ゴム付いてないし」



恥も外聞もないんだろうかこのヒト。

係長はスカートであるにも関わらず僕に思いっきり大股で跨り、自分の髪を僕の顔に垂らしたままで命の選択を迫っていた。

いずれマトモな大人のすることじゃない、ってイタイそれ。デコにゴリゴリ当たってるから。


「あんたの勝手な行動で人間が二人死ぬところだった。あんたと沙耶だ」


「沙耶……どうなったんですか」


「幸か不幸か無事だよ。あんたが死んでないからね」


「へ?」


「ペーストされた『死』はあんたが呑み込んだんだ。そしてそのおかげで沙耶の『病気』に疑問符が付き処分は見送られる事になった。本来ならあんたに対する殺人容疑だったが……そのバカ面が死に損なってるからとりあえず咎は無いだろう」



…………。

係長はたしか『三人目だ』と言っていた。

100%の致死率が僕のせいで3分の2程度に落ちたのだから『病気』自体の信憑性に穴が開いたと、そういうことなんだろう。



「……で?」


「で、とは?」



高そうな黒い下着が丸見えなんだが平気なのかこの独身女医は?



「あんたが私のパンツに興味持ってる間、私はあんたをどうやって猛省させようか悩んでるの。分かる?」


「イタイす。デコ」


ばーれーてーたー。



「大量の麻酔打ってあんたの体調べぬいたのに何の異常も見当たらない。医学的には『睡眠』の状態のあんたがなんで沙耶のペーストから免れたのか……今まで膨大な時間と労力と人生を割いてきた研究者たちにまず謝りなさい。ね?」



こわい。

久々に係長の笑顔を見たが、やっぱりこわい。

苦労してきた『研究者たち』に当然自分も入っているのであろうから、その迫力は尋常ではない。


「で、死ぬ?死にたい?」


「めっそーもござりません。僕には国民の生命と財産を守るギムが……ってイタイすって。痛くてコワイすって」


「二度と勝手なマネすんじゃないわよ。二度目は無いと思いなさい」


「キモにめーじて」



そうか。

僕は……生きていたのか。


…………。



少々の失望感と同程度の多幸感。

僕にとってそれはとても稀な事例、奇異な出来事と言っていい。


気持ち多めに『死ななくて良かった』とほっとしている自分がなんだか嬉しかった。

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