ぐるぐると
ああ、と思った。
汚泥に包まれ最早心地よい混濁の中もがく事さえしない僕は、自分の表情も分からないまま嗤った。
いつも飽きてしまう。
それが全てだった。
申し訳ない、そう思う。
いつも、誰に対しても。
取り繕った仮面は古いバンドエイドのようにはらりと剥がれ落ちる。もう毎度のことでそれに対しては何の感慨も無い。
途中まではうまくいっていた。努力もした。
およそ自分のメンタリティーとは程遠い職も選んでみた。
誰に対しても何に対しても僕が『第三者』なのは……やはり変えられなかったけど。
…………。
・・・・
どこから?
僕は一体どこからうまくいったと思って、どの時点で誤ってしまったのか。
いや、『誤ってしまった』と勘違いしたのか。
もう、いいか?
救いは無く、希望は無い。
そのことに何らかの恨み言も無い。
でも。
レアだったな。
あんなことも、あるんだなあ。
僕は『沙耶』の妙な力についてしばし思考することでせめてもの慰みにしようと試みる。只の戯れなのだが……それ以上の価値はいらなかった。
猫は確かに死んでいた。
沙耶は猫を助けた訳じゃないんだろう。
ただ複製したのだ。
明らかに余計な不幸をコピーしたら最期、拡散しなければ自分が死んでしまう。
…………。
結局は『死が増えた』という事実だけが残される。
『病気』なのだという。
確かに沙耶の『力』は自分にも周囲にも不利益しか齎さない。誰かを殺したければ極論すれば木刀の方が余程有益だ。自分にまで危険が降りかかり、誰かに感染させなければ自分に被害の出る能力の使い道など無い。
なるほど。
『欠陥』であり
『劣性』であり
『病気』だ。
…………。
『うずまき寮』の他のやつらもそんな不具合を抱えているんだろう。
今となってはどうでもいいが。
…………。
無責任は……毒だ。
自分の可能性を無価値と断じてしまうし、他人の可能性まで滑稽なものでしかないと思ってしまうから。
いや、違うか。
これは元々の僕が持っていた特性なんだろう。
無責任で主張も無く、ただ薄ら笑いを浮かべる肉の塊。
それでも……これはレアだった。
ここで頑張ってみたいと、僕はそう思っていたかもしれない。
しかし、まあ。
係長の『木槌』と叫んだ時の顔、凛々しかった。
マリの沙耶への思い、眩しかった。
二人とも何かに対して真剣に向き合っていた。
…………。
ああいうのは、いい。
あれがいい。
…………。
僕は思考を止め、ぐるぐる溶ける。
詮無い事に割く心など、僕はとうに亡くしているのだから……これだけ『思い出』があれば暫らくは穏やかになれるだろう。
ぼくは、ぐるぐると、とけていく。