人達なんじゃないの?
「カンイチ」
「お、おお」
不意に名前を呼ばれドキッとした。この緊張感はなんだろうか?
マリは沙耶に向いているので僕には背を向けている格好だが、僕の存在には気が付いていたようだ。ってか、コイツ何とかしてくれないだろうか……瀬能がなんだかサカってるんだが。
「私はあの猫受け取るからあんた沙耶頼める?ちょっと興奮してるみたいだから気を付けて」
マリは近くまで慎重に歩を進めてきた僕に向かって背中で語る。ダンディズム溢れる背中である。
「……う……あぁ」
確かに沙耶を見ると落ち着きが無く視線は虚空を彷徨っている。
何がこの子をそんなに追い詰めているのか全く分からないが、幼さの抜けない容姿からでも焦燥感はヒシヒシと伝わってくる。
「僕でいいのか?マリが行ってあげた方が良い様にも思えるけど?」
明らかに体力的に秀でては居ないであろうあの少女の視線は僕とマリを何度も往復する。不安を体で叫んでいるような眼球運動、半開きの口から漏れる意味を為さないうめき声でさえ悲壮な響きを伴っており……
とまあ色々思ってはいるんだが。
要は、『女の扱い』に対して絶望的に自信がないのだ(ばばーん)。
もし僕がおかしなトコロに触れてしまったとして、その事実を明るみに晒されてしまったとしたら『現職巡査少女にいたずらし、同巡査は懲戒免職』とヤフーニュースに消費される運命は目に見えてるわけで……あの少女をオモンバカルにやぶさかではナイのではあるが配属早々不祥事でクビってどうなのさそこんとこ。
「カンイチ!急いで!」
音量を極限まで押えながら僕に命令口調で指示するという器用なマネをするマリは、あくまで表情は優しく沙耶の不安を助長する事はない。
僕は慎重に沙耶に近づく。パキパキ音を立てるような不恰好な笑顔だったろうが僕はマリを見習いなるべく穏やかに接する事にする。まったく人騒がせな少女である。巧い事背後に回りこみ左腕をネジりあげ行動不能にした後、説明責任を果たさせよう。
んで、この騒動の理由がしょうもないものであったら……バツとしてモノマネでもさせるか。
瀬能に。
「なんにもしないから落ち着いてくれよ?僕はロリは専門外なんだから安心していいぞ」
じりじりと距離を詰める僕。すると不思議な事に沙耶の方も僕に近寄ってくるではありませんか!
「あ……あ」
伝わるもんだなあ。そうそう、僕には君をどうこうする意図はないのさ!国民の生命、財産を守るセーギのミカタそれが僕!ダテに10ヵ月間毎日欠かさず国旗に頭下げてないのだ!日の丸バンザーイ(空虚な瞳)。
「おとなしく……おお、いい調子だ沙耶さん」
よたよたと猫の死体を抱えた腕を片方僕に向ける。
そしてあともう数センチと言うところでポッシュ、という間の抜けた機械音が聞こえ……すぐに次の瞬間にはギンッ、と鈍い炸裂音。二つの音がほぼ同時に耳に残った。
「ゆっくり下がりなさい木槌巡査。沙耶も動かないで」
「……」
タバコを吸わない人間はタバコの匂いが敏感に感じ取れる。自分の周りに通常存在しない匂いだからだ。
そしてこの鉛の焦げた匂いも……こんな公園で感じることなどない。
嫌になるほど訓練で嗅いだ硝煙の匂いだった。
「係長?」
「早く沙耶から離れなさい。死ぬわよ」
突然現れた一井係長はサイレンサー付き拳銃を沙耶に向けながら僕にぶっきらぼうにそう告げる。
「……一井さん」
マリは係長と面識があったようでその名を口に出した。
しかし友好関係が築かれてるとは到底思えない、絡み合うような視線のぶつかり合いを繰り広げる二人。
「三回目よ茜沢マリ。沙耶は処分します」
「させない。沙耶は殺させない」
「だからマリ、あんたはここに木槌巡査を連れて来た。そういう認識でいいの?」
「……そうよ」
置き去りであった。
なんという疎外感、僕は幸運にもイジメにはあったことないけど……ムシって辛いなあ。なんか僕の名前出てんのに僕に対する説明一切無しでエキサイトしてはる。
「木槌巡査」
「お呼びですか一井係長殿っ!」
係長の掛けてくれた声が嬉しかったワケでは断じてないが……僕は良く躾けられた番犬のように返事をする。
「あんたが信じないのは折込んで話すけど、この野崎沙耶は死を『コピー、ペースト』する」
「……………………お、おう」
僕はいかにも事情通な難しい顔をして聞いていたが、係長が何を言っているのか分からない。なんせこのとき脳内の僕は事態がワカラなすぎて鼻を垂らしてひまわりを摘んでいた。しかし!僕は乗るしかないのだ!
このビッグ・ウェーブに!!
「……分かってないのはしょうがないから端折るけど、沙耶が厄介なのはコピーした死はペーストしないと自分が死ぬことになるの」
まあ僕は理屈や事情はどうせ分からない。
分からないからゲームのように『ルール』だと考えるようにする。
「あー、つまり。僕は沙耶さんの『コピー』した死を受け取る為にマリに呼ばれたエサってことですか?身内を死なせたくないから」
「飲み込み早くて助かるわ。そうでしょマリ」
受けて答えるマリ。
エプロン姿のエビの天才はもうそこには居なかった。
「今までだってしてきた事じゃない。一井さんだって昔そう言ってた。なんでカンイチだけ特別なの?『管理人』って私達の為に死んでくれる人達なんじゃないの?」
「組織を刷新すると言った筈。今まで私達は間違って……ずっと間違い続けてきた。それを責任を持って糾す。木槌は私が見込んだ人材だ、『エサ』にするために配属させた訳じゃない」
僕はオロオロと所在無く突っ立っていた。
上を見上げれば夜空に星、12月なので正直寒いが空のキンとした静寂感はキライじゃない。
なのに。
僕らはこんなトコで何してるんだろう、と。
係長とマリの緊張感の枠にどうしても入れない僕は。
スタスタと沙耶に歩み寄った。
「ネコ埋めてやるから……貸しな」
そういって沙耶の抱えていた猫に手を伸ばす。
なんだかつまらない。さっぱり事情は知らないが……面白くないよなあ。
「木槌っ!?」
ムダ。
係長の位置と沙耶の位置との対角線上に僕は居る。沙耶を撃ち抜くのはそっからじゃ不可能だ。
「う……ぁ」
「うわ、早く帰って着替えな。ネコの血が乾いて黒くなってきてる」
申し訳無さそうに僕にネコを渡した沙耶は……動かない。
なんかこう、無いのか?呪文的なヤツとか。お札みたいなもんとか。
「沙耶っ!!早く手をっ!!握るのっ!!」
「逃げろ木槌っ!!」
おおう、手か。またベタだったなあ。
「……ん?どした?」
僕はわざわざ手の平を差し出しているというのに沙耶は何が気に入らないのか僕の手を放置プレイである。ガキのくせにそんなマニアックなプレイに興じるとは……マリはどんな教育してんだ?
「んじゃ、握手と」
仕方が無いので僕の方から沙耶の手を握った。
こんな死に方見たことも聞いた事も無い。『死を貼り付けられる』という体験に僕は心が踊っていたのだ。
この少女を救いたい。そう思っていたならば僕はマトモですと胸を張れるんだろうが……あいにく『警察官』なんて仕事についても僕は僕でしか無かったと……そういう事なんだろう。
今回koso f
さが ndjfklssw
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