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泣きたい。



僕はマリの後を追いマンションを出た。

しかし……なんだ。こうあからさまにされると力抜けるというかなんというか。

無個性のブラックセドリック、似たような車をさっきの曲がり角でも見た。全く『公用車』丸出しである。ナンバーは一般の車両に偽装されてはいるが間違いない。


住宅街の暗がりに設置されている街灯にうっすら照らされる車の後部、当然真っ黒なスモークガラスで中は見えないがこの手のクルマってのは簡単に見分けられるのだ。


「……」



毎日の洗車が日課なのは警察も同じ、税金で購入しているのだから粗雑に扱うなど以ての外。しかし毎日ワックスかけてピカピカに磨くヒマの無い公務員たちは水洗いでゴシゴシと力任せに擦ってしまうから……非常に細かい傷が車体に無数に付いてしまい、これが結構目立つのである。



しかしニッサンかー。警察に採用されてる車両もあるし、どうだろ?

市ヶ谷と無関係なはずは無いしかといって警察関係者ならデカイ顔で僕に『指示』という名の絶対服従命令をニヤニヤ告げてくるはずだし。

マリの言に寄ればどうやら『うずまき寮』は市ヶ谷管轄で間違いないんだけど、警官の僕が配属になってるのは納得いかないなあ。


ま、配属後『納得いく事』に遭遇したことなんかないし、細かい事か。



「沙耶っ!!」


僕がどうでもいいことを考えながら走っていたら件の公園にマリは着いたようで『沙耶』と叫んだ。


「……」


この辺りは駅も近いしコンビニやカラオケなども多くは無いが在ったはず。そして今は夜の10時だ。果たして。


「まずソレ置きなさい。ね?一緒に帰ろう」


ここまで誰も居ないものだろうか?いくら住宅街だとはいえこの不自然極まりない環境を生み出したのは多分あのセドリックの搭乗者達なんじゃないだろうか?


「あぅ……う」


「落ち着いて!お姉ちゃん迎えに来たよ」



両の目が全て隠れるほど前髪を伸ばした『沙耶』と呼ばれた少女は震えるように公園の真ん中辺りでしゃがみ込んでいる。恐る恐ると言った表現が正しいのかは分からないがマリは爆弾処理訓練のような鈍重さで『沙耶』に優しく声を掛け続けていた。


「うぁあ……にゅぐむ」


なんだろうか?マリの問いかけにマトモに応じようとしていないように見える。何か庇う様に膝と肘を地面に付けうつ伏せのまま『沙耶』は意味を為さないうめき声をか細く漏らすのみだ。


「沙耶はウマク話せねーんだ」


「いたのか瀬能」


紛れた闇から染み出すように僕の背後に瀬能モモは立つ。いつものエキセントリックさはナリを潜めクールビューティーを気取っているようだ。


「って、なんで顔赤いんだ瀬能よ」


「な、なんでもねーし」


ここまで走ってきたからかな?まあ所詮ガキだし小娘なのだから恥じる事は無い。ここが警察学校ならそんなショボイ体力してたら……日が暮れるまで校庭を声出して走る羽目になったろうがな。しかもクラス全員『連帯責任』でな!!

ざまあみれ!!


「軍曹みたいな目で見てんじゃネーよカンイチ」


「ふん、まあいいや。で今ってどんな状況なんだ?『沙耶』見つかってメデタシメデタシ?」


「……」


ぐ、と一瞬言葉に詰まったように見えた瀬能は意を決したように僕を見上げた(コイツちっせーからな)。状況説明のはじまりはじまりーで拍手しそうになる僕を濁った二つの眼球で捉える瀬能は『ほぅ』と溜息を吐き出す。


「へ?」


「……」


瀬能は何も言わない。

ただ僕を見詰め赤い顔で重そうな溜息をぽとりぽとりと地面に落とすだけ。なんだコレは?なんでコイツ……



・・・・・・・・・・・

僕を見て興奮してるんだ?



「ソレわたしなさい沙耶。ちゃんと準備してあるから。沙耶はイイコなんだから誰も意地悪しないよ?」



不自然極まりない程の静寂の中、マリの声だけが氷柱のようにすとんと響く。その声は母親の子供に掛ける愛情でさえ見て取れるほど……真に心配し、芯に届き、信に足る重量のある囁きだった。


「……あ、あぁあ」


マリの問いかけに反応しゆっくり立ち上がる『沙耶』。抱えていたソレとは猫のようだった。


「心配いらないの。さ、こっち」


ごろりと『沙耶』の腕に纏わりつくように頭、おかしな方向に折れている足、『沙耶』の衣服にべったりと付いた血からも……いや、誰がどう見たって死んでるよねあの猫。ねえ?


助けを求める相手としては非常に心許無いが背にハラは代えられないらしいので僕は近くに居た瀬能に声を掛けようとすると……


「……く、ふふ」


瀬能は未だ興奮しているようだった。


「……」



泣きたい。



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