ブィーヨンブィーヨン
んブィーヨンブィーヨンブィーヨンブィーヨン
食事もひと段落したのだが以前として二人足りない。そろそろマリ辺りを問い詰めようかと思っていると心をざわめかせるキテレツ音が聞こえてきた。
「瀬能よ」
「なんだぁー?」
「言いたい事があるなら分かるようにいってくれないだろうか」
「あれはマリちゃんのケータイだ!!お前の中でわたしのキャラどうなってんだー!?」
両手を真上に突き出し僕に抗議する瀬能モモ。イマイチツッコミ役に慣れていないのだろうか、自分発信のボケの時とは違い勢いが感じられない。
全く困った緊急制圧対象者(そーとー危険)である。
「薄目でこっちみてんじゃねえー!!なんかコイツむかつく!!スゲーはらたつっ!!」
ポンコツなツッコミを晒し余程悔しいのか小刻みにプルプル振動しながら僕を指差す瀬能。こいつのこのポーズよくみるなあ。ヒトに指差すのがこいつのクセかもしれない。
小柄で整った顔立ちから繰り出される粗暴な言葉使い。いまいち迫力に欠ける少女の暴言など係長の悪そうな笑顔に比べたら微笑ましくさえ感じる。ってかぶっちゃけ何が危険なんだこいつの?
「モモ!!沙耶が大変!!」
会話はしていないように見えるがマリはスマホを覗き込みながら瀬能に声を飛ばす。事態は切迫している、そう瀬能に理解させるには充分な緊張感をマリの声は多分に含んでいた。
「場所は!?」
「潮風公園!走っても10分くらいの距離!!」
『沙耶』とは……ああ、思い出した。
野崎沙耶15歳、『丙』ランクの高校一年生だ。しかしこんな時間まで学校だったのか?部活かそれとも定時制のある学校に通っているのか。
僕がマリ達との温度差を感じながらそんなコトを思っていると、まずは瀬能が飛び出していった。
「カンイチも一緒に来て!」
「へ?」
同行するのは全く異議は無いが……何か事件性のある事態に巻き込まれたのだとしたら交番にも連絡したほうがいい。緊急であればあるほど冷静に、頼るものは頼ったほうが絶対にいいのだ。国家権力による数の優位性はどんな犯罪者にとっても絶大な武器になるのだから。
「……マリちゃん」
僕がマリに対応を進言しようとした瞬間、長崎瞳がマリを呼び止めた。
「……分かってるヒトミ。でもしょうがないんだよ。沙耶は、あの子はみんなで守るって誓ったでしょ?」
「そうだけど……木槌さんは」
「ヒトミ!!」
マリが発した『誓う』という単語にどうにも据わりの悪い違和感がまとわりつく。焦り、諦め、悲しみ……マリはおよそ複雑な表情で長崎を睨むが、僕の頭にはネガティブな感想しか浮かばない目をしている。
「責任は私が取る。ヒトミはここで待ってて。沙耶は絶対連れて帰るから」
「……」
ぎゅ、と堅く長崎の両手の平を握り真っ直ぐその目を見据えたマリはグルンと僕の方へ勢い良く振り向いた。
「ついてきて!」
一言まさに浴びせるように僕に言うと、先程の瀬能のように303号室から飛び出していくマリ。とりあえず遅れまいと素早く立ち上がった僕はマリの背中を追って動き出す。
なにがあったのか、などと口を挟む間など無い。
原因不明(僕のみ)の緊急事態(未確認)のようだった。
「ごめん……なさい」
部屋から出て行こうとする僕の背後でぽつりと呟いた長崎。
その声は僕に聞かせるつもりでは無かったのか、独り言のような音量で自らの足元に向けていた。