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フォークとスプーンで視力検査



「あ、あの……どうぞ」


「あふぃがふぉう」


僕はウーロン茶を持って来てくれた長崎瞳にお礼を告げる。『ありがとう』と言ったのだが伝わっている自信はまるでない。


「……」


もくもくを食事を遂行する僕を呆れたような視線で眺めるメスガキは現状三匹ほど現認出来るがマリとモモ、長崎瞳以外の顔は見当たらない。つまり二人足りないと言う事になるが……まあそれは後で聞いてみよう。


「戦後かぁ?なんでこんな鬼気迫るイキオイで喰ってんだこのケーカン」


「さあねぇ……あ!モモちゃんと手洗った?」


「くちうるせーなーマリちゃん!ヒトミーん、わたしの箸ー!!」


「目の前にあるよモモ……チッ」


「舌打ちしたー!?ヒトミん相変わらずわたしにはテキビシーぞー!!」



ふむ。

僕の予想とは若干齟齬が見受けられるようだ。

危険レベルが上の者が立場的に上位に位置しているんだろうなあとなんとなく思っていたがそんな素振りは全く無い。

『丁』のモモ相手に対応する『乙』の長崎との間に上下関係は希薄のように見えるしそもそも最低ランク『甲』のマリが一番実権を掌握しているように見える。


これは一見単純な年功序列に見えなくも無いが。


「ときに天才……このエビの天ぷらもう無いのか?」


僕は空になった皿をカツンと箸で指す。

これはんまかった、もっとくれ。


「テンサイ?へ……私?」


「そうだお前が天才だこのEカップ。エビうまかった。コレ喰いたい」


神々しささえ伺えるそのエプロン姿、メシが作れる人材は貴重で重要なスキルとして認定しようじゃないか。


「なんでカタコトなんだーコイツ?やたら態度デケーゾー!!」


「黙れエキセントリック少女、今この場での貴様の発言権など認めん」


「なんだとお!?いいドキョーだクサレ官憲がー!!」


「……」


僕は椅子から軽く腰を上げ瀬能モモの眼前に立つ。

瀬能モモは先程から自分に取り分けられているパスタをいたずらにこねくり回しローストビーフをペタンペタンと練り込みサラダを取り分けるための大きなフォークとスプーンで視力検査をしている。

食料補給を軽んじた者に明日は来ないのだ。


「ああもう!カンイチもモモも座って!!ついでに言うとコレは天ぷらじゃなくてフリッターね!すぐ作るからおとなしくしてて!」


「心得た」


「素直か!!マリちゃんの言いなりかー!?わたしとの決闘のサイチューだろうがー!!」


しゅしゅ、と僕に向け拳を交互に突き出す瀬能モモを眺めつつ大げさにため息を吐いてみせる長崎瞳。


「モモ……恥ずかしいから」


「内乱ボッパツー!?裏切り者だー!!そんなだから未だにカレシいねーんだぞ小心者ー!」


「……内弁慶」


「あぁああああっ!?気にしてんの二いっ!!そこエグんなよヒトミん!!」



…………。


なんとまあ騒がしい食卓である。学校時代は食事中の音など皆の咀嚼する音と食器の音が少々。『いただきます』と『ごちそうさまでした』以外意味のある言葉が発せられる事などなかった。

食べ終えればクラス単位で2列縦隊で速やかに寮まで移動、消灯までの短い時間を利用して教科書とにらめっこしたもんだ。


「ごめんねうるさくて。はいおまたせ」


マリは先程より気持ち多めに盛られた『フリッター』を僕の前に置くと自分も僕の隣の席に座る。


「いつもはもっと静かなのに……とくに新しい管理人さんが来た時はみんな緊張しちゃってさ?モモなんかはほとんど何にも食べなくて夜中に『マリちゃーんはらへったー』って転がり込んでくるの。毎回よ?」



やいやい言い合いながらも食事している瀬能モモと長崎瞳を頬杖を突いて眺めるマリ。僕には母親の記憶など無いが、居ればこんな目をした女性であって欲しいと感じるほどソレは穏やかで落ち着いているように見える。


「カンイチって管理人さんっぽくないよね?」


「そうなのか?」


「うん!まだ誰も殴ってないしモモもヒトミもリラックスしてるみたいだし」


「殴る?」


「ま、しょうがないんだけどね。生活費も学校の手配もみんな防衛省の管轄で手続きされてるし。私ら他にどこにもいけないし」



…………。

ワケが分からない。世間話をしているつもりで話すマリは自分の言っていることが理解できているんだろうか?


「ほらモモの首筋」


「?」


あれは……なんだろう?

ちらちら見え隠れする襟の奥、ネックレスのような物が見えるようだが。


「前のヒトがモモのおでこにスタンガン思いっきり充てちゃってヤケドみたいな跡残っちゃったんだ。綺麗に消えてくれるといいんだけど」


「スタンガン?」


市販されているスタンガンを最大出力にしたところであんな跡は残らない。市ヶ谷の特注品ってことなんだろうが……額の衝撃が反対側の首筋から弾けている。明確な殺意が無いと出来ることでは無い。


「カンイチはさ」


「ん?」


「手加減してあげてくれないかな?みんな悪い子じゃないの、ただちょっと普通じゃ無い病気持ってるだけなんだからさ、ね!お願い!」


「……」


私は別にいいから、と僕に向けいたずらがバレタ子供のように両手を合わせ拝むような格好をするマリ。その長袖の奥から覗く手首には何重にも巻かれた包帯が痛々しく存在感を放っていた。

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