五月病五秒前
お気軽に珈琲紅茶緑茶煙草酒、何かのお供にどうぞ。
視界に映る、黒っぽい点の集まりとも、ちれぢれになった糸の一部ともとれる、白い光の強い場所では一際よく見えるそれが飛蚊症のそれだということは最近知った。
出来損ないの毛糸のような影を目で追った先に、花の散った桜があった。今年は特に花散らしも降らず、気温もそれなりに安定していたおかげで長持ちしていたそうだが、四月の中旬とも来ればおおよそ桃色の花弁は鮮やかな緑の若葉に入れ替わっていた。
「こういう文章は結構よくある型で……」
教壇では、英語教師が例文の解説をしていた。学期初めの授業は復習が主で、特に聞く必要も無い。
ふと頭を横に向けると、幾人かの生徒の目蓋が閉じている。船を漕いでいる者もいる。僕の席は一番窓側だから必然的に全ての生徒が一望できるポジションなのだが、少し、驚いた。
前で話す教師の声音は落ち着いていて、確かに他人をリラックスさせるような雰囲気があるが、開始十分にしては少々多い過ぎるような気がする。何というか、嘆かわしい。
「自分のイメージの湧き易い単語をうまく使ってみると、日本語にもし易くなる。じゃぁBを読んでみて」
一人の生徒が指名され、そつなく指定された文を読んでいた。教師としては、眠っている生徒に興味が無いらしい。
頭が下を向いていない生徒は、半分くらいだろうか。
「本来もっと短くていい文章がどんなに長く表現されているかというと、aを見てください」
教壇に立つ、中年の少々草臥れた印象を受ける男性は、敢えて悪く言えば典型的な寂びれたサラリーマン、といった風体で(もちろん、教師だって大別すればサラリーマンだが)どことなく柔和な印象を受けるこの教師は、その実中々強かな面があるようで、指名している生徒は皆、わざとだろう、眠気を感じさせない生徒に限っているようだ。声を荒げ、顔を赤くして怒鳴ったりしない、というスタンスは少し人間味の薄いというか、機械のような冷淡さを窺わせて怖ろしい。
残り十分というところで頭の垂れていた生徒から顔を挙げる生徒が出てきた。今更、という気もするしまだ眠気の抜け切っていない顔を平気で教師に向けている様は、少しヒヤヒヤした。
「では皆さん、続いて。リピートアフタミー」
教科書の例文を読み始めた。作業的で情緒を感じさせない読み方は、やはり少し怖ろしい。
すんなりと読み進められたのは数人で、まだ目を閉じていた生徒、慌ててテキストを開く生徒、それでも眠り続ける生徒、多種多様な反応が見られて面白い。
「それじゃぁ、今日はここまで。次の時間は次のページからですから、見といてください」
ちょうどチャイムが鳴った。その音で何人かの目が覚めたようだ。
「じゃぁ号令」
立ち上がる。僕は全員を起こすよう号令をかけた。
ちょっとした随筆?でした。暇すぎる上眠気も起きない状態でどうしようか悩んだ結果、筆を走らせることにしました。
もちろん教師から変な目で見られてましたけど。