あなたへ。
思い出していました。
あなたと出会ったときのことを。
引っ込み思案な私に声を掛けてくれた。
今では、その時に何を言われたのか思い出せないけれど。
すれ違ってもおかしくはなかった二人の間に、その時、とても細いつながりが出来た。
思い出していました。
あなたと初めて気の合う会話をしたことを。
楽しくて、楽しくて。おもちゃ箱をひっくり返して遊ぶ子どものようで。
今では、その時何を話して笑ったのか思い出せないけれど。
とても穏やかで、安らぐ時間を過ごしていたのは間違いありません。
密やかな想いに、どうしたらいいのかわからず、苦しんだこともありました。
取り囲む壁を壊すほどの勇気も力もなくて、闇夜に泣いたこともありました。
大きな大きなあなたに出会って、小さな小さな私は、押し潰されそうになっていたんです。
迷いに迷って、迷子になって、行き先を見失った私に、手を伸ばしてくれた。
その手を握ることを恐れた私に、「ここで諦めたら後悔するから」と、それでも手を伸ばしてくれた。
がんばって握ったあなたの手は、とても温かかった。
温かくて、優しくて、涙がずっと、止まらなかった。
弱い弱い私の手を、あなたはどんな人混みでも離すことなく引っ張ってくれた……。
「あなたに会えて良かった」と、そう伝えられる時がいつか来るでしょうか。
その時、私に出会って良かったと、あなたにそう思ってもらえるでしょうか。
遠い未来の約束はない、なんだか行き当たりばったりな人生だけど。
私より先立つことは絶対にしないと、そう言ってくれた人。
愛しているという言葉を、初めて私に言ってくれた人。
いつかあなたのために多くの涙をこぼせるなら、その時、「幸せでした」と呟きたい。
「笑顔に癒やされる」と言ってくれた、あなたに笑って伝えたい。
「たくさん愛してくれてありがとう」と、そう伝えたい――。