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霧島の嫉妬

「センパイ! 倒れたって本当ですか?」

血相を変えて霧島が保健室に飛び込んてきた。

「いや、そんな大したことはないらしくって……そのっ……なんつうか……生理になっちまったらしくって……」

東郷は真っ赤になって口ごもった。

「まあ、そうじゃないかなとは思ったんですけど、慣れるまでは大変だと思います」

霧島は東郷の言葉に、ほっと息を吐いた。

その瞳が慈しみに揺れる。

「まだ痛みますか?」

霧島はそう問うて、東郷の髪を優しく撫でた。

「ううん。そうひどくはない」

その心地よさに東郷はしばし目を閉じた。

「まだ顔色が悪いです。無理せず今日はもう早退しては?」

霧島が心配気に東郷を覗きこんだ。

刹那、席を外していた保健医がかえって来たらしく、引き戸を開ける音がした。

「調子、どう?」

そういって保健医がカーテンから顔を出した。

「あれ? 東郷くん……こりゃ意外」

保健医がきょとんとした顔をする。

「まあいいや。ところで霧島さん、今日はもう無理せずに早退したらどう? 6時間目どうせ2-Cは体育だしさ」

そういって保健医は霧島の枕元に歩み寄った。

「生理痛っていっても、辛い時は無理しない方がいいわ。帰ってゆっくり休みなさい」

東郷自身も体調が限界であることを悟り、保健医の言葉に従うことにした。

「家に連絡いれよっか?」

という保健医を遮り、霧島が立ちあがった。

「あっ大丈夫です。俺が送りますので」

「え? こら、あんたは授業あるでしょ? 受験生」

「ほんと、大丈夫だからさ。執事の坂下さんに電話して迎えに来てもらうよ」

そう言って東郷は力なく笑った。

「じゃあ、せめて迎えが来るまで、傍にいます」

そういって霧島は東郷の手を握った。

「まったく、みんな心配してるんだからね。はやく良くなりなよ。霧島さん」

そう言って保健医は口元に微笑を浮かべた。

「あっ、それと仙台君にお礼いいなよ。意識を失ったあなたを血相かえて抱きかかえてここまで運んでくれたんだから」

「仙台君が?」

東郷がきょとんとする。

(っていうかありえないし。俺仙台君に嫌われてるんじゃなかったのか???)

東郷の頭のなかに疑問符が交差する。

「そうよ。仙台君とても心配してたんだからね」

そういった保健医の横で霧島が小刻みに震えている。

「仙台君に……抱きかかえられて?」

鬼の形相である。

「恐ぇよ! お前」

霧島の迫力に軽く引いてしまう東郷であった。

「いや俺、意識失ってたし、これ不可抗力だからっ」

その迫力に気押されて必死で命乞いをしてしまう東郷であった。

そんな東郷の様子に、霧島は黙り込んでしまう。

東郷は霧島をちらりと盗み見た。

「やっぱり……怒ってる?」

そんな東郷に霧島は盛大に溜息を吐いた。

「嫉妬してます。でもそんな表情(かお)されたら、怒るにおこれないじゃないじゃないですか」

霧島はぷくりと頬を膨らませて見せた。

「ごめん」

「別にセンパイが悪いわけじゃありません」

東郷が謝ると、霧島の声が少し優しくなった。

「じゃあ、行きますか」

そういって霧島は東郷をひょいと抱きかかえてしまった。

「うわっちょっと、おろせ! お前っ」

その腕の中で東郷がじたばたともがく。

「じっとしててください。でないと犯しますよ?」

そう言ってにっこりと微笑んだ霧島に東郷はごくりと生唾を飲み込んだ。

「先生、お世話になりました。じゃあ連れていきますんで」

そういって霧島は東郷を抱きかかえたまま、保健医に一礼し保健室を出た。

「おろして、霧島、自分で歩ける!」

東郷は真っ赤になって抗議するが、どうやら聞き入れてもらえないらしい。

「ん? 却下」

霧島は微笑を浮かべているが、東郷は蛇に睨まれた蛙のごとく身を固くする。

幸い今は授業中のため廊下に生徒がいないことがせめてもの救いである。

エントランスの前にはすでに東郷家の車が横付けされている。

執事の坂下が黒塗りの高級車がら降り立って、後部座席のドアを開けた。

「昼休みに体調を崩して保健室に運ばれたそうだ。よろしく頼む」

そういって霧島は東郷を車に乗せた。

「坊っちゃまの下校をお待ちいたしましょうか?」

坂下が霧島を伺う。

「いや、いい。俺は放課後少し用があるから先に帰ってくれ」

「わかりました。では失礼いたします」

そういって坂下は車を出そうとするが。

「あのっ」

東郷が車の窓を開けて不安そうな顔で霧島を見た。

「なに? そんな顔して」

霧島が東郷に笑って見せる。

「はやく、帰ってきて」

不安定な瞳の色。

「なに? どうしたの」

「俺、お前に傍にいて欲しい」

「光栄です。少しだけ待っていてください。野暮な用事を一つ片付けたらすぐに戻ります」

刹那、霧島の顔が近付き唇を軽く啄む。

「ううう……じゃあ、待ってるからな」

そういって東郷は赤面し、下を向いた。

「では、坊ちゃま、失礼いたします」

坂下の運転する車が静かに校門を出るのを見送って霧島は低く呟く。


「さあて、こりゃあ放課後は楽しい果たし合いになりそうだ」


その瞳に剣呑な光が宿る。

霧島は人けのない廊下を歩き出す。

靴音が気に触るほど耳についた。

剣道場へと続く地下の階段を霧島は進んだ。


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