第8章:待ち伏せと跳躍
# 第8章:待ち伏せと跳躍
**年齢:7歳場所:囁きの峡谷**
雨は止むどころか、激しさを増していた。峡谷の未舗装路は、泥の川へと変わりつつあった。
**『囁きの峡谷』**。
それは地図上に刻まれた地質学的な傷跡だ。両側に切り立った崖がそびえ、獣の顎のように街道を圧迫している。暗く、湿っており、待ち伏せの臭いが充満していた。
馬車の中、沈黙が重くのしかかっていた。
3日前の検問所での一件以来、父は変わった。口数が減り、瞑想の時間が増えた。穏やかな好々爺のような雰囲気は消え、長い眠りから覚めた戦士の、研ぎ澄まされた鋼のような気配に取って代わられていた。
「止まれ」
アーサーが目を開けた。その青い瞳は氷のように鋭かった。
「何かがおかしい」
俺は既に起きていた。
最後の一切れの乾燥マムシを噛み締め、その塩気と獣臭い風味を味わっていたところだ。
俺は**『知覚範囲』**を展開した。
*(心音30)*
俺は即座に分析した。
*(上の岩場に潜んでいる。呼吸のパターンが荒く、同期していない。アドレナリン値が高い)*
窓の隙間から外を覗く。
見えた。革鎧と錆びついたチェインメイルを纏った男たちが、ロープを使って崖を降りてきている。傭兵だ。
*(脅威レベルを評価する)*
俺は内部データベースを検索した。
この世界では、強さは**『ランク』**で分類される。武林で言う「三流」「一流」のようなものだ。ここでは称号が使われる。
- **ランク1(従者):** 雑魚。農民より強い程度。自分の足を切り落とさずに剣を振れるレベル。
- **ランク2(歩兵):** 運動能力が高い。ゴロツキ3〜4人を相手にできる。町の衛兵の多くはこのレベルだ。
- **ランク3(正規騎士):** ここからが危険だ。彼らは**『鉄皮』**を持つ。マナ(または気)で体を覆い、矢や軽い打撃を弾くことができる。
- **ランク4(熟練騎士):** **『オーラ・ブレード』**を使える。剣が発光し、鋼鉄の鎧をバターのように切断する。
- **ランク5(精鋭騎士):** **『放出』**が可能。飛ぶ斬撃。火の玉。
俺は崖をスキャンした。
*(ランク1が25人……ゴミだ)(ランク2が4人……鬱陶しいゴミだ)(リーダーが1人……ランク3。正規騎士レベルか)*
ランク3の傭兵団長に対し、病気の男爵と、女子供を乗せた馬車。
通常なら、一方的な虐殺になるだろう。
だが奴らは、俺の向かいに誰が座っているのかを知らない。
父、**アーサー男爵**は、マナ詰まりのせいで身体的には障害者と見なされていた。
だが、純粋な**『洞察』**において、彼は**ランク7(超越者/グランドマスター)**の領域にいる。
アーサーはマナを使えないため物理的にはランク7ではない。だが、彼の『精神』はそこにある。そして門での俺の「授業」のおかげで、彼の精神にもはや迷いはなかった。
**ズドォォォン!**
巨大な岩が10メートル先の道を塞いだ。泥が空中に爆発する。馬が悲鳴を上げ、前足を上げて暴れた。
馬車が激しく揺れ、停止した。
「敵襲!」御者が叫んだ。
*ヒュッ。ヒュッ。*
二本の矢が御者の胸を貫いた。彼は座席から転げ落ち、泥にぶつかる前に絶命した。
「サラ、エレナを守れ! 伏せていろ!」
アーサーがドアを蹴り開けた。
彼は雨の中へと踏み出した。
すぐに剣を抜いたりはしなかった。貴族のコートから雨水を滴らせながら、馬車を取り囲む30人の男たちを静かに見回して立っていた。
「殺せ!」崖の上から声が轟いた。「ドラヴェン伯爵が奴らの首をご所望だ! ガキにはボーナスが出るぞ!」
傭兵たちがロープを滑り降り、重い音を立てて泥に着地した。
傭兵団のリーダー巨大なグレートアクス(大斧)を担いだ大男が一歩進み出た。彼は黄色い歯を見せてニヤリと笑った。
「おやおや。足の悪い男爵様か。娘を差し出せば、苦しまずに殺してやるぜ」
アーサーはリーダーを見た。
恐れているようには見えなかった。むしろ……退屈そうに見えた。
「**『鉄皮』**使いか」アーサーの声が雨音を切り裂いた。「ランク3。野盗にしては上出来だな」
「俺様は傭兵団長だ!」プライドを傷つけられたリーダーが吼えた。「死ね!」
彼が突進した。
大斧が振り下ろされる。マナを帯びて唸るその一撃は、岩を真っ二つに砕く威力があった。
アーサーは動かなかった。
斧が鼻先数センチに迫るまで。
*シフト(移行)。*
アーサーは避けなかった。ただ……異なる場所へ存在を移しただけに見えた。
一歩前へ。斧の内側の死角へ。
彼は剣を抜いた。
**閃。**
派手な技ではない。単純な「抜き打ち」だ。
だが、そこには**『剣意』**が込められていた。
「意」は耐久力を無視する。「意」は標的という概念そのものを切断する。
*スッ……。*
リーダーの「鉄皮」本来なら普通の剣を弾き返すはずの防御が、濡れた紙のように両断された。
リーダーが凍りついた。
首筋に、細い赤い線が現れた。
「な……ぜ……?」リーダーが喉を鳴らし、唇から血の泡を吹いた。「俺の肌は……」
「肌など無意味だ」アーサーは囁いた。「魂が遅ければな」
リーダーの頭が肩から滑り落ちた。
*ドサッ。*
残りの29人の傭兵が凍りついた。
ランク3の強者であるボスが、「不具者」に一撃で殺されたのだ。
「次」アーサーは剣についた血を払いながら言った。
「や、やっちまえ! 所詮はジジイ一人だ!」
群衆が襲いかかった。
それは間違いだった。
アーサーは幽霊のように動いた。防御にエネルギーを浪費しない。受け流し(パリー)、誘導する。
槍の突きが来れば、柄を軽く叩き、穂先を隣の仲間の喉へと送る。
剣が足を狙えば、刃を踏みつけ、使用者の眼球を貫く。
虐殺だった。
30秒で、10人が死んだ。
*(美しい)*
俺は窓の隙間から見ていた。
*(武林の長老のような戦い方だ。最小の努力で、最大の致死性を発揮している。彼は本当に教えを理解したようだ)*
だが、その時。
俺は見た。
アーサーの顔が紫色に変色するのを。
彼が胸を鷲掴みにした。
「ガハッ!」
**マナの詰まり。**
「剣意」の使用は、強烈な集中とエネルギー流動を必要とする。彼の詰まった心臓は、グランドマスターレベルの負荷に耐えられなかった。
発作だ。
アーサーは片膝をつき、血を吐いた。剣を泥に突き立てて体を支えるのが精一杯だ。
「お父様!」エレナが悲鳴を上げた。
残った傭兵たちがそれを見た。
「倒れたぞ! ジジイが死にかけてる! 今だ!」
彼らが殺到した。
アーサーは必死に剣を振るい、彼らを寄せ付けまいとするが、動きが鈍くなっている。視界が失われつつある。もう限界だ。
その隙に、4人の傭兵が本隊から離れた。
彼らは馬車に向かった。
「ジジイは放っておけ! 女を確保しろ!」
*(チェックメイト)*
俺は思った。
戦況を分析する。
1. **父:** 行動不能。援護がなければ60秒以内に死亡する。
2. **母とエレナ:** 無防備。
3. **敵:** アクティブな戦闘員が15名。
戦うことはできる。
俺の**ランク3(上)**の肉体なら、この4人を殺せる。
だが、他の奴らに見られる。「ヴァレリウスの息子は化け物だ」という噂が広まる。
国王がそれを聞くだろう。聖教会が聞くだろう。
俺は10歳になる前に徴兵され、研究され、兵器として隷属させられる。
*(陽動が必要だ)*
俺は冷徹に計算した。
*(特大のな。敵戦力を分断するほどの)*
その時、ある考えが脳裏をよぎった。
俺はずっと、適切な修練場所を探していた。
屋敷は安全すぎる。制限が多すぎる。メイドや父にバレないよう、四六時中修練を隠さなければならない。非効率だ。
ランク9の力を取り戻すために必要なのは、ふかふかのベッドじゃない。地獄だ。この体をかつての栄光へと焼き戻すための、絶え間ない、生命を脅かす危険が必要なのだ。
俺は雨越しに崖の縁を見た。
眼下には**『霧の沼地』**が広がっている。魔獣と毒で満たされた死の領域。
普通の人間にとっては墓場だ。
だが**天魔**にとっては、**専用ジム**だ。
*(一石二鳥だ)*
俺は内心でニヤリと笑った。
*(ヘイトを引いて家族を救い、死を偽装して国王の目から逃れる。そして、沼地で5年間の邪魔が入らないソロ・レベリングを行う。完璧だ)*
俺は隣の座席を見た。
父のコートがある。そこには**男爵家の紋章**が留められていた。
純金製で、ルビーが散りばめられている。家宝であり、莫大な価値がある。
薄汚い傭兵にとっては、ただの宝石ではない。引退資金だ。
俺は紋章を掴み取った。
俺はエレナを見た。彼女は母にしがみついて怯えている。
「目を閉じていろ」俺は優しく言った。
俺は馬車のドアを蹴り開けた。
「イヤだ! 来るなァァァァ!」
俺は絶叫した。
いつもの平坦な声ではない。甲高く、恐怖に引きつった悲鳴だ。俺は内なる「甘やかされたクソガキ」をチャネルした。
傭兵たちが振り返った。
「ああん? あの弟か?」
俺は馬車のステップに立ち、雨の中でガタガタと震えてみせた。黄金の紋章を頭上に高く掲げる。雷光を受けて、それがギラリと輝いた。
「金が欲しいんだろ!?」
俺は叫んだ。頬には(嘘の)涙が伝っている。
「これはヴァレリウス家の家宝だ! **金貨一万枚**の価値があるんだぞ! やるよ! 欲しいなら持って行け! だから僕を殺さないで!」
傭兵たちが止まった。
金貨一万枚?
強欲は強力な麻薬だ。論理を上書きし、命令を上書きする。
死にかけている老人を殺したり、厄介なガキを誘拐したりするより、金塊を拾って南国で王のように暮らす方がいいに決まっている。
「紋章だ!」一人が叫んだ。「ガキを追え! 紋章を奪え!」
「俺のもんだ!」別の一人が吼えた。
成功だ。
15人の男たちが、殺意を俺に向けた。
俺は一番近くの男に石を投げた。*ゴッ。* 鼻に直撃する。
「捕まえられるもんなら捕まえてみろ、このブタ野郎ども!」
俺は泥の中に飛び降りた。
だが、崖の方へは走らなかった。
俺は、街道沿いに広がる**『深い森』**へと走った。
木々は鬱蒼と茂り、影は深く、下草は背が高い。
狩りには、おあつらえ向きの場所だ。
「森へ逃げたぞ! 追え!」
「金を逃がすな!」
15人の傭兵が、闇の中へと俺を追いかけてきた。
背中で、父の絶望的な視線を感じた。彼は俺が死にに行くのだと思っている。
違う。
俺は逃げているのではない。
羊たちを、屠殺場へと誘導しているのだ。
---
**【森の奥深く】**
俺は2分間疾走した。**『無影歩』**を使い、あえて足跡を残しつつ、視界に入らないギリギリの距離を保った。
傭兵たちが藪をかき分ける音が近づいてくる。不器用で、騒がしい。
*(距離チェック)*
俺は思った。
*(街道から500メートル。雨音が悲鳴をかき消してくれる。ここなら十分だ)*
俺は立ち止まった。
巨大な古木に囲まれた、小さな広場のような場所に立つ。
雨が葉から滴り落ちる。*ポタッ、ポタッ。*
傭兵たちが広場になだれ込んできた。泥だらけのブーツで地面を踏み荒らし、息を切らしている。
「見つけたぞ……このクソガキ」リーダー格の男が喘ぎながら言った。「もう逃げ場はない」
彼らは俺を取り囲んだ。15人の武装した大人対、一人の7歳の少年。
彼らは下卑た笑みを浮かべた。金塊を握りしめて震える子供を見て、勝利を確信している。
俺は紋章を下ろした。
震えるのをやめた。
背筋を伸ばす。顔から恐怖が消え、冷たく、絶対的な無関心が取って代わった。
「逃げ場?」
俺は静かに尋ねた。
もはや子供の泣き声ではない。深く、静かで、奇妙な共鳴を帯びた声だった。
「なぜ、肉屋が家畜から逃げる必要がある?」
傭兵たちが動きを止めた。空気が変わった。
広場の空気が急激に重くなる。気温が下がる。鳥のさえずりが止まった。
「何を言ってやがる?」傭兵の一人が剣を振り上げて前に出た。「気でも狂ったか? さっさとそれを」
俺は彼を見た。
俺の目が**深紅**に閃いた。
**『殺気』**。
それは魔法ではない。前世で数百万を虐殺した魂の、圧倒的な質量だ。
傭兵が凍りついた。彼の本能が**『捕食者』**だと叫んだ。
「大いなる道において」俺は雨の中に亡霊のように声を響かせた。「善も悪もない。あるのは強者と弱者。喰らう者と、喰われる者だけだ」
俺は一歩踏み出した。
「人は鳥が餌のために死ぬように、富のために争う。だが、お前たちは一つ忘れている」
俺は消えた。
**『第一式:無影歩』**。
彼らにとって、俺はただ消滅したように見えただろう。
俺にとって、世界はスローモーションだった。
俺は最初の傭兵の背後に現れた。
剣はない。
俺は自分の手を使った。**『第三式:砕心爪』**。
骨鍛造で硬化した指が、革鎧を貫通し、喉へと沈み込む。
*ブチッ。*
「背後の蟷螂が見えていなかったな」
鮮血が噴き出した。
傭兵は喉を押さえて崩れ落ち、ゴボゴボと音を立てた。
「なっ!?」
「どこだ!?」
「ガキが……消えた!?」
パニックが爆発した。
俺は彼らに思考する時間を与えなかった。
俺は雨の中の影となった。黒と赤の残像。
*バキッ。* 膝が砕ける音。
*グシャッ。* 首が180度ねじれる音。
*ドスッ。* 胸への正確な一撃で心臓が停止する音。
俺はただ殺したのではない。**『収穫』**したのだ。
男が死ぬたびに、俺は深く息を吸い込んだ。
**『第七式:吸星渦(内部版)』**。
恐怖、死にゆくエネルギー、生の魂の力それらが灰色の霧となって死体から立ち昇り、俺の鼻腔へと吸い込まれていく。
*(美味だ)*
俺は舌なめずりした。
*(ランク1の魂などゴミだが、質より量だ)*
「悪魔だ!」一人が武器を捨てて逃げ出そうとした。「こいつは悪魔だ!」
「正解だ」
俺は彼の耳元で囁いた。
俺は彼の後頭部を掴んだ。そのまま木の幹へと顔面を叩きつける。
*グシャッ。*
頭蓋骨が陥没した。
広場に静寂が落ちた。
15人の男たち。60秒で全滅。
雨が血を土へと洗い流していく。
俺は死体の山の中心に立っていた。
両手は赤く染まっていた。
丹田が唸るのを感じた。15人分の魂のエネルギーが定着し、俺の基礎を強化していく。
俺は黄金の紋章を、最後に殺した傭兵の胸の上に落とした。
金などいらない。俺に必要なのは自由だ。
「ご馳走様」
俺は死体に向かって言った。
俺は殺戮の現場に背を向けた。
街道へは戻らない。
俺は森のさらに奥深く、**『霧の沼地』**の方角へと歩き出した。
俺の修練は、まだ始まったばかりだ。
---
**【その後】**
1時間後。
雨が止んだ。雲が切れ、太陽が木々の間から光を差し込み始めた。
アーサー・ヴァレリウス男爵は、よろめきながら森へと入った。
体力がわずかに回復し、立つことができたのだ。彼は馬車に残っていた残党を始末したが、心臓はまだ痛みを訴えていた。
彼は泥の上の足跡を追った。
「カイン!」彼はしわがれた声で叫んだ。「カイン!」
彼は息子の小さな遺体を見つけることを恐れていた。山賊たちに切り刻まれた姿を想像して震えていた。
彼は茂みをかき分け、広場に出た。
そこで、彼は凍りついた。
アーサーは兵士だった。戦争を知っていた。戦場を見てきた。
だが、**『これ』**は見たことがなかった。
15人の傭兵が死んでいた。
だが、ただ殺されたのではない。……解体されていた。
素手で引き裂かれた喉。正確で重い打撃によって陥没した胸部。外科手術のように正確にへし折られた首。
彼らの顔は、純粋で原初的な恐怖の仮面で凍りついていた。
「神よ……」アーサーは囁いた。
彼は中央へ歩いた。
そこには**黄金の家紋**があった。泥が拭き取られ、死体の上に丁寧に置かれていた。
だが、カインの姿はない。
アーサーは膝をつき、死体を検分した。
喉の傷を見る。
剣傷ではない。爪の跡だ。小さな指。人間の指だ。
アーサーの呼吸が止まった。
彼は広場を見渡した。泥に残された足運び(フットワーク)のパターンを見た。
効率性。残虐性。
それは、門でカインが見せたあの「洞察」と全く同じものであり、それが百倍に増幅されたものだった。
*(怪物……)*
寒さとは無関係の悪寒がアーサーの背筋を走った。
*(怪物がこれをやった。そしてその怪物は、私の息子だ)*
彼は森の奥を見た。足跡は続き、危険な沼地の方角へと向かっている。
追いかけたかった。
だが、胸が再び痛んだ。*ドクン。*
彼は街道の方を振り返った。そこには妻と娘が、恐怖に震えながら無防備な状態で待っている。
彼は真実を悟った。
カインは死んでいない。恐怖で逃げたのでもない。
カインはゴミを掃除し、金を置いて、家が自分には狭すぎるという理由で、荒野へと歩み去ったのだ。
アーサーは立ち上がった。黄金の紋章をポケットに入れる。
彼はもう、カインの名を呼ばなかった。
カインが答えないことを知っていたからだ。
「生き延びろ」アーサーは森の闇に向かって囁いた。「生き延びるんだ、息子よ。そしてお前が帰還した時……神よ、我らを救いたまえ」
アーサーは背を向け、馬車へと戻った。
彼が姿を現すと、エレナが叫んだ。
「お父様! にーには? にーには見つかったの?」
アーサーは娘を見た。顔の血を拭う。
「彼は行ってしまったよ、エレナ」
「死んだの?」サラが口元を押さえて息を呑んだ。
「いいや」アーサーはきっぱりと言った。その目は鋼のように硬かった。「死んでいない。行方不明だ。だが、彼は必ず戻ってくる」
*(世界を食らい尽くした後に)* 彼は心の中で付け加えた。
馬車は再び動き出し、王都へと向かった。
その背後で、森の深淵から一対の深紅の瞳が彼らを見送り、やがて霧の中へと消えていった。




