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第7章:門での選択

# 第7章:門での選択


**年齢:7歳場所:辺境の町、オークヘイブン**


出発の日は、灰色と泥の色で塗りつぶされていた。


空は冷たく、骨まで染み入るような小雨を泣くように降らせていた。それはまるで葬列のような天気であり、王都という政治の掃き溜めへと引きずり戻される亡命家族にはおあつらえ向きだった。


俺は馬車の隅に座り、ラベンダーと防虫剤の匂いがするビロードのクッションに背を預けていた。

口の中では、干し肉をリズミカルに噛み砕いていた。

*クチャ。クチャ。ゴクリ。*


「にーに、なにたべてるの?」

5歳になる妹、エレナが身を乗り出してきた。大きな青い瞳が、無邪気な好奇心で輝いている。彼女はボロボロになったウサギのぬいぐるみを抱きしめていた。

この陰鬱な天気の中でも、彼女は発光していた。肌から微かな黄金のオーラが脈動し、彼女を暖かく乾燥した状態に保っている。神を動力源とする歩くラジエーターだ。


「ジャーキーだ」

俺は短く答え、もう一片を噛みちぎった。


「ぎゅうにく?」


「ヘビだ」俺は訂正した。「乾燥マムシ。昨日、小屋の裏で捕まえた。高タンパク低脂質。骨密度に良い」


「うえぇ!」エレナは鼻に皺を寄せ、ウサギを強く抱きしめた。「にーにキモい! ヘビなんて怖いよ!」


俺は彼女を無視して窓の外を見た。

*(怖い?)*

俺は思った。

*(違うぞ、エレナ。怖いのは飢餓だ。怖いのは弱さだ。ヘビなんぞ、エネルギーに変換されるのを待っているただの筋肉のチューブに過ぎない)*


向かいには、父である**アーサー・ヴァレリウス男爵**が座っていた。

彼は惨めな様子ではなかった。剣士らしく背筋を伸ばし、両手を膝の上に静かに置いていた。顔には年齢と病による皺が刻まれていたが、その目は鋭かった。

彼はこの召喚の意味を正確に理解していた。我々はバカンスのために王都へ行くのではない。毒蛇の巣窟へと足を踏み入れるのだ。


「門が近づいている」アーサーは低く、落ち着いた声で言った。「私のそばを離れるな」


そして、俺がいる。

**カイン・ヴァレリウス**。「口のきけないゴミ」。

死んだ魚のような目をし、朝食に毒ヘビを食らう7歳の少年だ。


---


**【渋滞】**


1時間後、馬車はきしむ音を立てて停止した。


「どうしたのです?」数珠を握りしめた母が不安げに尋ねた。


「検問だ」父は窓の外を見てため息をついた。「遅れているようだな」


俺たちはオークヘイブン領と「大荒野」を隔てる巨大な木の門の前にいた。普段、この検問所は閑散としている。だが今日は、旅人や難民、商人たちの長い列で詰まっていた。


俺は窓の隙間を開けて覗き見た。

ここでは雨が強くなっていた。濡れた羊毛、洗っていない体、そして馬糞の臭いが充満していた。


「さっさと失せろ、ゴミめ!」


雨音を切り裂くような怒鳴り声が聞こえた。

俺は視覚を集中させた。**『知覚強化』**が列の最前列をズームアップする。


そこには門番が立っていた。

典型的な悪役だ。太っていて、脂ぎっている。サイズが二回りほど小さいチェインメイルを着込み、腹がベルトの上に垂れ下がっている。

泥だらけの地面には、一人の老人が丸くなって横たわっていた。ボロ布をまとった骸骨のような男で、汚れた布袋を胸に抱きしめている。


「言ったはずだ!」門番は老人の脇腹を蹴り上げた。*ドカッ。* 「出国税は**銀貨2枚**だ! 例外はない!」


「お、おねげぇしますだ……お役人様……」老人は泥水を吐き出しながら懇願した。「あっしには銀貨なんて……銅貨180枚しかねぇんです……」


「銅貨180枚?」門番は嘲笑した。「酒場で一杯も飲めねぇな! 列から失せろ汚物め!」


「息子が……」老人は泣きながら、震える手で門番のブーツを掴んだ。「隣町で息子が病気なんです……『黒い疫病』で……薬を買わねぇと……慈悲を……」


「慈悲だと? 慈悲は別料金だ!」

門番は重い革のブーツを振り上げ、老人の手を踏みつけた。

*グシャッ。*


「ぎゃあああ!」老人が絶叫した。


馬車の中で、エレナが息を呑んだ。「お父様! やめて! おじいちゃんが痛がってる!」


アーサー男爵の表情は変わらなかったが、目が剣呑けんのんに細められた。

「あの衛兵……」アーサーは危険な響きを含んだ声で呟いた。「私の領地で貧民を恐喝しているのか? 税は銅貨10枚だ。銀貨2枚ではない」


「お父様、なんとかして!」エレナが懇願した。


アーサーは泣いている娘を見、そして外の光景を見た。

彼はため息をついた。弱さからではない、疲労からだ。壊れた人間を一人ずつ救うことが非効率だと知っていたが、彼の騎士道精神がそれを無視することを許さなかったのだ。

「御者、止めろ」


アーサーはドアを開けて外に出た。

彼は走らなかった。支配者の重く、計算された足取りで歩いた。

貴族のコートが雨を弾き、胸につけられたヴァレリウス家の紋章が灰色の光を反射した。


蹴り上げようとしていた門番が凍りついた。紋章を見たのだ。男爵の冷たい、鋼鉄のような目を見たのだ。

彼の傲慢さは一瞬で消え失せた。


「だ、旦那様!」門番は鼻が泥につくほど深くお辞儀をした。「こ、これは馬車が見えませんでした! あっしはただ……その……道の掃除をしておりまして!」


アーサーは門番を見下ろした。怒鳴らなかった。感情を露わにしなかった。

ただ、道路のシミを見るような目で男を見た。

「兵士よ。税はいつから銀貨2枚になった?」アーサーは静かに尋ねた。


「い、いいえ! 滅相もございません、旦那様! ただの……誤解でして!」


アーサーは財布に手を伸ばした。

「通してやれ」アーサーは命令口調で言った。

彼は**銀貨を2枚**取り出し、門番に投げた。

「彼の通行料だ。そして後ろの10人分も私が払う。もし再び不当な値をふっかけたという噂を聞けば……私の剣に申し開きをすることになるぞ」


門番は震えながら硬貨を受け取った。「はい! はい、旦那様! なんという慈悲深さ! まさに聖人であらせられる!」


エレナは窓から顔を出し、満面の笑みを浮かべた。「やったぁ! パパは英雄よ!」


アーサーは老人に手を差し伸べ、立ち上がらせた。

「行け」アーサーは優しく言った。「息子の元へ行ってやれ」


老人は感謝の涙を流した。「ありがとうごぜぇます……ああ、なんという……神のご加護がありますように!」


美しい光景だった。

高貴なる慈善行為だ。

群衆は称賛の声を上げ、エレナは幸せそうで、父は義務を果たしたと感じていた。


俺は馬車の中で、その全てを見ていた。

吐き気がこみ上げてきた。ヘビ肉のせいではない。

あまりの愚かさに、だ。


*(馬鹿どもが)*

俺は目を細めた。


俺はドアを蹴り開けた。

*バンッ。*


「カイン?」母が呼び止めた。


俺は泥の中に飛び降りた。

俺はまっすぐに「感動的な再会」へと歩いていった。

「カイン?」近づいてくる俺を見て、父が眉をひそめた。「馬車に戻りなさい。雨だぞ」


俺は無視した。俺はまだ父の名前を称えている老人の元へと歩み寄った。


「ありがとうごぜぇます、坊ちゃん……」老人は俺を見て、哀れっぽく震える笑顔を作った。「旦那様は立派なお方で……」


俺は彼を見上げた。

笑わなかった。彼の目を凝視した。

ほんの一瞬、俺は制御を緩めた。魔法は使わない。ただ、前世で数万人を虐殺した男の**『殺気』**を、彼に見せただけだ。


老人がビクリと震えた。

「哀れな老人」の仮面がひび割れた。一瞬、震えが止まり、目が鋭くなった。彼は俺を子供としてではなく、怪物として見た。


「お前」

俺は囁いた。


老人は凍りついた。「は、はい、坊ちゃん?」


「彼の手を見ろ」俺は大声で父に向かって言った。


アーサーは瞬きした。「何?」


「彼の手を見るんだ、父上」俺は平坦な声で繰り返した。「あなたは剣の達人グランドマスターだ。誰よりも『肉体』を読むことに長けているはずだ」


アーサーは視線を落とした。眉をひそめる。戦士としての本能が目覚め、同情心を上書きする。

「タコがない」俺は指摘した。「すきを握った傷もない。鍛冶場の火傷もない。彼の手は柔らかい」


俺は彼の鼻を指差した。

「破裂した毛細血管。雨でも洗い流せない顔の赤み。そして臭いだ……」

俺は空気を嗅いだ。

「ただの泥じゃない。安い蒸留酒だ。密造酒の臭いだ」


老人が冷や汗をかき始めた。「あ、あっしは……精神を落ち着けるために一杯やっただけで……息子のために……」


「嘘つき」俺は遮った。「お前に息子はいない」


群衆が静まり返った。


「先週、結婚指輪を売ったな」俺は彼の左薬指に残る、指輪の跡の白い皮膚を指差した。「そしてその金を飲み代にした。今ここにいるのは、薬のためじゃない。王都の酒の方が安いからだ」


老人の顎が震えた。「ち、違う! 嘘だ! この悪魔のガキが!」


「悪魔?」

俺は小首を傾げた。

「お前が死ぬほど強く抱きしめているその袋……中を改めれば、病気の子供の着替えが出てくるか? それとも、空の酒瓶が出てくるか?」


老人は反射的に袋を強く抱きしめた。

*カチャリ。*

ガラスとガラスがぶつかる、明確な音がした。


アーサーの顔が曇った。

目から温かみが消えた。彼は惨めに見えなかった失望しているように見えた。民が守るに値しなかったことを悟った王のように。

彼は俺が正しいことを悟った。騙されていたのだ。


「父上」俺は言った。「馬車に戻って」


「カイン……」アーサーは囁いた。「もう行こう」


「ああ。あんたは行くべきだ」


アーサーは躊躇したが、威厳ある沈黙と共に背を向け、馬車へと歩き出した。彼は乞食を振り返らなかった。彼は名誉を提供したが、それは拒絶されたのだ。


俺は残った。

俺は太った門番と、偽の乞食の間に立った。


門番が引きつった笑いを浮かべた。「へっ! 賢いガキだぜ! 全部お見通しってか! さあ失せろ、この飲んだくれ! 本気で殴るぞ!」


老人は震えていた。門番がポケットに入れた銀貨を見た。泥を見た。彼は失敗した。彼はここで死ぬのだ。飢えと、アルコールの離脱症状で。


「おい」

俺は老人に話しかけた。


彼は憎しみを込めて俺を見上げた。「満足か、貴族のクソガキ。俺を暴いて楽しいか?」


「金か?」

俺はポケットに手を入れた。

「俺は金になど興味はない。金はただの金属だ。一日分の飯にしかならない」


俺は手を抜いた。

握っていたのは硬貨ではない。

**『ナイフ』**だった。


それは**『名もなき包丁ネームレス』**の弟分だ。俺がくず鉄から鍛造した、ギザギザで醜い鉄の塊だ。

俺はそれを放り投げた。

*ドスッ。*

それは泥に突き刺さった。切っ先を下にして、老人の膝の真ん中に。


門番が目を見開いた。「おい! ガキ! 危ねぇぞ!」


俺は門番を無視した。俺は顔を老人の数センチ手前まで近づけた。

俺の目は、微かに、薄い赤色に光っていた。


「俺はお前に銀貨はやらない」俺は囁いた。「銀貨はお前を弱くする。銀貨はお前を乞食にする」

「俺は、鉄をやる」


老人はナイフを見つめた。「な……これで何をしろってんだ?」


「**選べ**」

俺はいなないた。


俺は森を指差した。

「それを持って狩りをしろ。ウサギでも、鹿でも、ネズミでもいい。殺せば食える。働けば生きられる」


そして、俺は指をずらした。

わずかに右へ。

太った門番のベルトからぶら下がっている、財布へ。


「あるいは……」

俺の声は悪魔にしか聞こえないレベルまで落ちた。

「……夜まで待て。この太った豚が居眠りするまで待て。その鉄を使って、奴の喉を切り裂け」


老人が息を呑んだ。


「あの財布には金貨が10枚は入っている」俺は誘惑するように囁いた。「一生分の酒が買えるぞ。あるいは新しい人生を始めるのにも十分だ。二度と物乞いをしなくて済む」


「だ、だが……」老人は震えた。「そりゃ……人殺しだ」


生存サバイバルだ」俺は訂正した。「奴はお前を蹴った。唾を吐いた。お前を動物扱いした。動物なら噛みつき返せ。お前は人間か? それとも犬か?」


俺は立ち上がった。

最後にもう一度、彼の目を見た。

「泥の中で乞食として死ぬか。金を持って罪人として生きるか。俺はどちらでもいい。だが、俺の前で泣くのはやめろ」


俺は背を向けた。

馬車へと歩き出す。


背後で、沈黙が続いた。

だが、老人はもう泣いていなかった。

彼はアーサーが与えた銀貨(門番が盗んだもの)を見た。

そして、泥の中で振動している、ギザギザのナイフを見た。


彼の震える手が伸びた。

指が革のつかを掴んだ。

冷たい。重い。

それは**『力』**の感触だった。


彼はナイフをボロ布の中に隠し、静かに森の影へと足を引きずって行った……遠くへではない。日が沈むのを待てるだけの距離へ。


---


**【馬車の中】**


俺は乗り込み、ドアを閉めた。

車内の空気は窒息しそうだった。


エレナは窓に顔を押し付け、震えていた。「にーに……どうしてナイフなんかあげたの? ナイフは怖いよ! ハグしてあげればよかったのに!」


母は数珠を握りしめ、俺を見知らぬ他人のように見ていた。


だが、父は……。

父は無言だった。

彼は目を閉じ、深く、リズミカルな呼吸をしていた。


彼は**剣聖グランドマスター**だ。その感覚はカミソリのように研ぎ澄まされている。雨音越しでも、俺が囁いたとしても……彼は一言一句を聞いていた。

あの提案を。

あの選択を。

そして何より、あの**『変化シフト』**を感じ取っていた。


老人がナイフの柄を掴んだ瞬間、アーサーはそれを感じたのだ。

「哀れな被害者」のオーラが消滅したことを。

その代わりに、鋭く冷たい**『殺気』**の棘が生まれたことを。

乞食が死に、捕食者が生まれたのだ。


「カイン」アーサーが目を開けて言った。その声に怒りはなかった。あるのは重い「悟り」だった。「お前は、彼のためだけにアレをしたわけじゃないな?」


俺はクッションに背を預けて目を閉じ、干し肉を手に取った。


「この世界じゃ」俺はエレナの泣き声を無視して静かに言った。「人々は力がマナから来ると思っている。剣を千回振れば強くなれると思っている」


俺は肉をかじった。*グチャ。*


「間違っている」


俺は父を見た。

「真の力は**『洞察インサイト』**から来る。世界のことわりを理解することから来るんだ。あの老人は……行き詰まっていた。自己憐憫じこれんびんに溺れていた。いくら金を与えても、彼は救われなかっただろう」


俺は窓の外、森へと消えていく老人の背中を指差した。


「俺は彼に洞察を与えた。自分は被害者ではなく、プレイヤーだという理解を。俺は彼のボトルネックを破壊したんだ」


アーサーは俺を見つめた。

瞳孔が震えていた。

何年もの間、アーサーもまた行き詰まっていた。「マナ詰まり」が肉体を制限していたが、彼の精神もまた壁にぶつかっていた。彼は自分が弱いと信じていた。王の政治の被害者だと信じていた。


だが、あの老人を見て……壊れた魂が、ただ**『考えマインドセット』**を変えただけで、一瞬にして危険な凶器へと変貌する様を見て……。

アーサーの中で何かが砕けた。


*(もし乞食が一瞬で狼に変われるのなら……)*

アーサーは無意識に剣の柄を握りしめた。

*(私を止めているものは何だ?)*


**ゴゴゴゴ……。**


外の雷鳴ではない。

アーサーの魂がシフトする音だった。

年間澱よどんでいた彼の**『剣意』**が、渦を巻き、研ぎ澄まされ、進化し始めた。彼が心に築いていた柔らかい「盾」に亀裂が入り、その下の鋭い「刃」が露出し始めたのだ。


俺は心の中でニヤリと笑った。

*(いいぞ。分かったようだな、親父殿)*


これは俺から彼への贈り物だ。

俺は乞食にナイフを与えただけではない。父に**『生存のタオ』**を教えたのだ。

もし王都で生き残りたいなら、もう「高潔な騎士」ではいられない。「飢えた狼」にならなければならない。


馬車は夕闇の中へと進んでいった。

車内は静かだったが、父の周囲の空気は嵐のように荒れ狂っていた。彼のオーラは凝縮し、鋭くなり、進化していた。


俺は最後の一切れのヘビ肉を飲み込んだ。

「昼寝をする」俺はフードを目深に被って宣言した。「峡谷に着いたら起こしてくれ」


エレナは緊張を恐れて母の方へと身を寄せた。

だが父は動かなかった。窓に映る自分の姿を見つめていた。そこには、今までとは違う男が映っていた。

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