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第4章:剣とスナック菓子

# 第4章:剣とスナック菓子


**年齢:3歳(深夜)**


世界は不公平だ。

銀のさじをくわえて生まれてくる奴もいれば、類まれな魔法の才能を持って生まれてくる奴もいる。


そして、俺の妹のような奴もいる。


俺はベビーベッドの中で横になり、木の柵越しに隣のベッドを見つめていた。

エレナはぐっすりと眠っていた。よだれを垂らし、どこにでもいる1歳児のように見える。

ただ一つ、強烈な違いを除けば。


彼女は、人間常夜灯ヒューマン・ナイトライトとして機能していた。


一定のリズムで、**『黄金の光』**の波が部屋中に押し寄せている。

*パルス。パルス。パルス。*

うざったい。まるで灯台の中で眠ろうとしているようなものだ。


*(消せ)*

俺は心の中で彼女に命じた。

*(エネルギーの無駄だ。どれだけの気を垂れ流しているか分かっているのか? もし俺がそれを収穫できたら、今頃空を飛んでいるぞ)*


もちろん、彼女には聞こえない。彼女は寝返りを打ち、「にーに……」とむにゃむにゃ呟き、さらに明るく発光した。

俺はため息をついた。

まあいい。少なくとも、部屋の中を歩くのに蝋燭はいらない。


俺は体を起こした。


部屋の空気が重い。夜になると大気中のマナ密度が上昇するからだ。普通の魔術師にとって、今は瞑想の「ゴールデンタイム」だ。

だが「マナ・ヴォイド」の俺にとっては、重力が50%増したようなものだ。


重圧で肩が下がる。圧縮された血管に血液を送り出すために、心臓が早鐘を打つ。

普通の幼児なら泣き出しているだろう。


俺は首を鳴らした。*ポキッ。ポキッ。*


*(コンディションは最高だ)*

俺は自己診断した。

*(自動的な抵抗トレーニングになっている。ただ座っているだけで強くなっている)*


俺はベビーベッドの留め具に注意を向けた。

単純な鉄のラッチだ。3日前、俺は昼食のチキンの骨をくすねて石壁で研ぎ、それを使ってロック機構を解体しておいた。


俺はゲートを押した。

*カチャリ。*

音もなく開く。


俺は床に降りた。

*トンッ。*

膝に気を循環させて衝撃を吸収する。サイレント・ランディング。完璧な遂行だ。


窓を見た。

外では風が唸っている。この国境地帯の夜は、気温が氷点下近くまで下がる。

普通の人間なら、暖かい部屋に留まるだろう。


だが俺には任務がある。


今日の昼間、父が**ランク1の『ホーネット(一角蜂)』**を投げ捨てた。

彼にとって、それは危険な害虫だ。

俺にとっては、マナコアで包まれたプロテインバーだ。


*(目標:索敵および捕食)*


俺はムカデのような流動性を持って窓へと這い進んだ。

ラッチを外し、庭へと滑り出る。


冷気が即座に俺を襲った。

薄いパジャマを通して肌の温もりを奪おうとする。

俺は震えなかった。震えるのはカロリーの無駄だ。代わりに毛穴を引き締め、血流を体の中心部に循環させた。


*(快適さは死人のためにある)*

暗闇の中で白い息を吐きながら、俺は思った。

*(生者はあがかねばならない)*


俺は庭を進んだ。

月明かりの下、バラの茂みが影を落としている。かつて俺が「蟻の戦争」を指揮した場所は、今や泥の水たまりになっていた。

俺はフェンスの境界線へと忍び寄った。そこから先は森だ。父が虫を投げた場所だ。


フェンスまであと10メートルというところで、俺は立ち止まった。


……静寂。


風が止まった。コオロギの声が止まった。

葉擦れの音さえ消えた。


不自然な静けさが裏庭に降りていた。

この感覚を知っている。

武林ではこれを**「龍の息吹」**と呼ぶ。あまりに危険な捕食者がエリアに侵入した時、自然そのものが恐怖で息を潜める現象だ。


*(暗殺者か?)*

俺は濡れた芝生に体を密着させ、心拍数を極限まで落とした。

*(教会がエレナを見つけたのか? それとも高ランクの魔獣が結界を越えたのか?)*


俺はバラの茂みの隙間から覗き込んだ。


そこには、修練場の中央に立つ一人の男がいた。

暗殺者ではなかった。

父、**アーサー男爵**だった。


彼は鎧を着ていなかった。汗でびしょ濡れになった薄いリネンのシャツと、緩いズボン姿で立っていた。その足は素足で、凍えるような泥を踏んでいる。

手には彼の剣全盛期を過ぎたように見える、重く、刃こぼれした鉄の塊が握られていた。


彼は哀れに見えた。

肩を落とし、呼吸は荒く、喘いでいる。税金の心配をしている疲れた中年男のように見えた。


*(何をしている?)*

俺は眉をひそめた。

*(寝ろよ、親父。風邪をひくぞ)*


だがその時、彼の呼吸が変わった。


*吸って。*


彼の周囲の空気が消滅したように見えた。

丸まっていた肩が伸びる。疲労、心配、弱さ……それら全てが蒸発した。

一瞬にして、「男爵」が消えた。

代わりに何かが彼の場所に立った。鋭く、冷たく、絶対的な存在感。


彼が剣を振り上げた。

マナは集まらない。青い光も、魔法の火花もない。

この世界の法則によれば、マナのない剣はただの鉄の棒だ。鎧は切れない。モンスターも殺せない。


アーサーはこの世界の法則など気にしなかった。


彼は一歩踏み込んだ。

泥は跳ねなかった。


*斬ッ。*


彼は剣を垂直に振り下ろした。

単純な動きだ。上から下へ。

だが俺の目武林の最高峰の達人たちが覇権を争うのを見てきた目は、純粋な衝撃で見開かれた。


その剣は、空気を「切った」のではない。

目の前の空間を**削除**したのだ。


音はなかった。

音がしたのは、たっぷり1秒後だった。


*ブォンッ。*


真空の波が庭を引き裂いた。

10メートル先にある、男の太ももほどもある太いカシの枝が、音もなく木から分離した。

割れてもいない。ヒビも入っていない。ただ滑り落ちたのだ。切断面は鏡のように滑らかだった。


*ドサッ。*


枝が地面に落ちた。


俺は息をするのを忘れた。

俺が「弱い父親」だと見下していた男の背中を見つめた。


*(あれはマナじゃない)*

思考が疾走する。

*(あれは**『剣意ソード・インテント』**だ)*


武林には剣術のレベルがある。

レベル1:力で斬る。

レベル2:気で斬る。

レベル3:心で斬る。


レベル3に至るには、狂っていなければならない。現実が自分の想像に合わせて歪むほど、自分の刃を深く信じなければならない。

かつて俺には、そんな部下がいた。『剣魔』。彼は「ハサミには殺意インテントがない」という理由で、大剣を使って足の爪を切るような狂人だった。


親父には……同じオーラがあった。

グランドマスター(剣聖)。

田舎者の皮を被った剣聖だ。


「ガハッ……!」


オーラが砕け散った。

アーサーは膝をつき、胸を鷲掴みにした。


「ゴフッ! ゲホッ! ハァ……!」


彼は激しく咳き込み、体が痙攣した。

純白のスノードロップの花の上に、どす黒い血の飛沫が散った。


**「マナの詰まり」。**

俺の心眼には見える。彼の心臓のすぐ隣にある、硬化したマナ動脈の濃密な結び目。

彼が力を発揮するたび、あの「殺意」をチャネルするたび、その反動がハンマーのように心臓を打ち据えるのだ。


彼は、自分の生物学的限界に鎖で繋がれたドラゴンだ。

もし3分以上戦えば、彼の心臓は破裂するだろう。


「くそっ……」

アーサーは震える手で唇の血を拭いながら囁いた。

「まだ足りない。あの子たちを守るには、足りない」


彼は落ちた枝を見た。その目は自己嫌悪で満ちていた。彼は自分が起こした奇跡を見ていない。また血を吐いてしまったことだけを見ている。


「もし王都の連中が来たら……」

彼はよろめきながら立ち上がり、呟いた。

「もっと強くならなければ」


彼は剣を鞘に納めた。もう達人のようには見えなかった。ただの病気で疲れた父親に見えた。

彼は足を引きずりながら、家の方へと戻っていった。


俺は茂みの中で、冷たい泥が膝に染み込むのも忘れて立ち尽くしていた。


*(……敬意を表する)*


俺は思った。

それは俺にとって稀な感情だった。普段は軽蔑か無関心しか感じない。


*(俺はお前をただの財布だと思っていた。衣食住の提供源だと。だが間違っていた)*


俺は見事に切断された枝を見た。

*(お前は戦士だ、アーサー。マナの加護なしで技術の頂点に達した。お前は裸足でいばらの道を歩いている)*


俺は自分自身に頷いた。

*(認めてやる。お前には天魔の父親たる資格がある)*


俺はスノードロップを汚す黒い血を見下ろした。

俺には彼の病状が正確に分かっていた。この世界の医者はそれを「マナ詰まり」と呼び、不治の病だと言った。

*(素人どもが)* 俺は心の中で鼻で笑った。


武林なら、これは**「心脈乖離しんみゃくかいり」**と呼ぶ。

確かに厄介なエネルギーの結び目だ。だが死刑宣告ではない。百会ひゃくえ膻中だんちゅうのツボに数本の鍼を打ち、純粋な天魔の気を流し込んで詰まりを押し流せば、新品同様に治る。

いや、ただ治るだけではない。詰まりが取れれば、おそらく次の境界へと突破するだろう。


俺は自分の小さく、むくんだ手を見た。

*(だが、今日じゃない)*


俺は拳を握りしめた。

*(今の俺の気は弱すぎる。この惨めな微量のエネルギーで彼の心臓を治そうとすれば、圧力で即死させてしまう。手術を安全に行うには、少なくともステージ3まで戻さなければならない)*


俺は家の中に消えていく彼の背中を見送り、心の中で静かな誓いを立てた。


*(まだ死ぬなよ、親父。お前はこの家族を守るために体を壊している。その借りを返すために……俺が治してやる。いつか、その壊れた体を完璧に鍛え直してやる。これは天魔の約束だ)*


庭に静寂が戻った。


*グゥゥゥゥ。*


腹が鳴った。肋骨を振動させるような、低く、野太い音だ。

そうだった。

感動的な瞬間は終わりだ。

敬意は素晴らしいが、敬意では丹田は満たされない。


*(任務再開)*


俺はフェンスを潜り抜けた。感傷は一瞬で消え失せた。

茂みをスキャンする。

どこだ? 俺の獲物はどこだ?


シダの葉を押し分けた。


あった。


**ホーネット(一角蜂)。**

泥の水たまりの中に横たわっていた。羽はくちゃくちゃだ。死んでいて、冷たく、濡れている。

普通の人間に見れば、ただのゴミだ。

俺にとっては、5つ星のフルコースだ。


俺はそれを拾い上げた。

重い。外骨格はプラスチックのように硬い。

俺は袖で泥を拭った。(すまない母上。洗濯が大変だろうが頼む)


俺は毒針を検査した。

*(毒嚢どくのうは無傷だ。よし。毒はピリッとする。俺はスパイスが好きだ)*


俺は口を開けた。

躊躇ちゅうちょはしなかった。躊躇は、力に飢えていない奴がすることだ。


**カリッ。**


まず頭を噛み砕いた。

静かな夜に、音が大きく響いた。乾いた葉を踏むような音だ。


次に、味が来た。


「うぐっ……」


最悪だ。

バッテリー液に、腐ったレモンと古い10円玉を混ぜて飲んだような味がする。

食感はもっと酷い。飲み込む時、脚が喉をくすぐる。腹部のスライムが舌に苦い膜を張る。


*(風味プロファイル:絶対的なゴミ)*

俺は顔をしかめて咀嚼そしゃくしながら批評した。

*(シェフの推奨:食べるな)*


だがその時……。

*熱が来た。*


死骸が胃に落ちた瞬間、小さなマナコアが溶け出した。

大した量ではない。全盛期の俺の0.001%程度だろう。

だが、空っぽで飢えきった俺の体には、焚き火のように感じられた。


- *『原初の肉体フィジーク』**が目覚めた。

それはエネルギーを吸収するだけではない。引き裂いた。

毒は? 熱に変換。

マナは? 気に変換。

タンパク質は? 筋肉へ。


*ドクン、ドクン。*


心臓が強く打つ。

目の赤色が増し、燃える石炭のように暗い茂みを照らした。

気が経絡へと流れ込んでくるのを感じる。汚く、野生的なエネルギーだが、俺の体は即座にそれを浄化した。


俺は尻尾まで完食した。

指を舐める。


*『もっとだ』*

俺の中の悪魔が囁く。

*『今のじゃ前菜にもならん。メインコースが必要だ』*


俺はフェンスの向こうに広がる暗い森を見た。「ゾーン1」の森だ。

狼の遠吠えが聞こえる。ゴブリンの獣臭がする。


一瞬、あの中に入って狼を狩ってやろうかと考えた。

そして自分の、ムチムチの幼児の脚を見た。


*(……まだだな)*

俺は冷徹な論理で判断した。

*(俺には虎の魂があるが、体はハムスターだ。今あそこに入れば、コヨーテへのウーバーイーツになるだけだ)*


俺は家の方へ向き直った。

わずかな力を得た。

父への敬意を得た。

そして口の中には、虫の内臓の味が残っている。


*(生産的な夜だった)*


俺は結論づけた。

俺は気を抑え、赤い目を消しながら窓へと這い戻った。

明日は武器の訓練を始めよう。もし父がマナなしで空間を斬れるなら気と、彼の血統の両方を持つ俺が弱いままでいる言い訳などない。


俺は部屋へと滑り込んだ。

エレナはまだ発光していた。


*(おやすみ、懐中電灯)*

俺はベビーベッドに登りながら思った。

俺は目を閉じた。スズメバチの味がまだ残っている。


それは……「可能性」の味がした。

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