# 第17章:帰ってきた幽霊
# 第17章:帰ってきた幽霊
**年齢:12歳場所:王都ヘリオス ― 貴族街**
ヘリオスの王都は、醜さを決して許さない街だった。
通りは白大理石で舗装され、下級の水魔術師たちが毎日それを磨き上げている。空気からは馬糞やゴミの臭いはせず、焼きたてのパン、ラベンダーの香水、そしてあらゆる街角で鳴り響くマナ・ランプの微かなオゾンの香りが漂っていた。
それは文明の楽園だった。
そして私は、それが大嫌いだった。
私は大通りの角に立ち、麻袋の紐を直した。
袋は泥と乾いたヒドラの血で汚れていた。動くたびに中のモンスターコアと骨がチャリチャリと音を立てる。
私の服装は大惨事だった。布というよりは暴力のツギハギだ。沼ワニの分厚い皮をなめして作ったズボン、固まった狼の毛皮のベスト、それら全てを、数年前に死体から剥ぎ取った腐りかけの灰色のマントの下に隠していた。物乞いには見えない。舞踏会に迷い込んだ野生の獣に見えただろう。
通り過ぎる貴族たちにとって、私は彼らの無垢な絵画に落ちたシミだった。
「ボス」ガレスが丸い額から絶え間なく流れる汗を拭いながら囁いた。「みんな見てますよ。その……嫌悪感を抱いてる目で」
「見せておけ」私は屋台で買ったばかりのリンゴをかじりながら呟いた。「嫌悪感は一種のカモフラージュだ。誰も自分が嫌いなものを直視しようとはしない」
ガレスは落ち着かなげに身じろぎした。彼は上質な商人のシルクを着ていたため、私のような野蛮人の隣に立つとさらに滑稽に見えた。
「本当に入らなくていいんですか? 荷物持ちますよ。『スワンプの征服者、カイン卿のおなり!』って紹介しましょうか?」
私は道の先にある巨大な鉄の門を見つめた。
**ヴァレリウス家の屋敷**。
丘の上にあり、地区を見下ろしている。白い石壁、青い瓦屋根、そして1インチの狂いもなく手入れされた広大な庭園。
美しかった。威圧的だった。
そして、恐ろしかった。
「いいや」私はリンゴの芯を飲み込んだ(無駄にはしない)。「お前には任務があるだろう、黄金の豚よ。商人ギルドへ行け。ランク2のコアを現金化してこい。市場を飽和させるなよ。少しずつ別の業者に売れ。必要なのは流動資産だ、インフレじゃない」
ガレスは背筋を伸ばした。商人の本能が恐怖を上書きした。「了解です。ランク3はどうします?」
「持っておけ。後で交渉材料に使う」
私は彼を見た。
「行け。3日後に宿屋『錆びたジョッキ亭』で会おう。騙されるなよ」
ガレスは深くお辞儀をし、顎を揺らした。「幸運を、ボス。食われないようにしてくださいね」
彼は人混みの中へとよちよちと歩き去り、シルクとベルベットの海へと消えていった。
私は一人になった。
深呼吸をする。空気の味が綺麗すぎる。沼地の腐敗が持つ正直さが欠けている。
「年貢の納め時だな」私は囁いた。
私は門へと歩き出した。
---
**【剣聖の門】**
公爵家の入り口は二人の男によって守られていた。
地元の民兵ではない。**近衛騎士**だ。彼らはヴァレリウス家の紋章青い盾に銀の剣で飾られた磨き上げられた鋼鉄の鎧を着ていた。
彼らは彫像のように立ち、ランク1(上位)戦士のオーラを放っていた。
私が近づくと、彼らの目が私を捉えた。
泥だらけのブーツ、破れたズボン、そして肩に担いだ血まみれの袋を視線がなぞる。
「止まれ」左側の衛兵がハルバードを向け、吠えた。
退屈そうな声だ。おそらく一日に十人は物乞いを追い払っているのだろう。
「ここは元剣聖、アーサー・ヴァレリウス公爵の邸宅だ。物乞いはお断りだ。勧誘もお断り。炊き出しなら西地区にある。消え失せろ、ゴミめ」
私は止まらなかった。ハルバードの先端が胸の一インチ手前に来るまで歩いた。
「スープを貰いに来たんじゃない」
長らく使っていなかった私の声は枯れていた。石をこすり合わせるような音がした。
衛兵は眉をひそめた。「聞こえなかったのか? 俺は」
彼は私を突き飛ばそうと手を伸ばした。
鉄の手甲が私の肩に向かってくる。
沼地において、突然の動きは死を意味する。私の体は思考よりも先に反応した。
*ピクリ。*
筋肉が収縮する。手が腰の錆びた包丁の柄へと動く。
*『殺せ。腱を切れ。喉を突け』*
天魔の本能が血を求めて叫んだ。
私はそれをねじ伏せた。拳を握りしめ、掌に爪を食い込ませて自分を現実に繋ぎ止める。
*『違う。これは敵じゃない。従業員だ』*
私は彼に突き飛ばさせた。よろめいて一歩下がり、弱さを装う。
「俺はここに住んでいる」私は静かに言った。
衛兵は笑った。耳障りな、吠えるような音だった。
「ここに住んでるだと? 自分の姿を見てみろ。豚小屋に住んでる間違いだろう。アザだらけにして叩き出す前に消えろ」
私は左手を上げた。
午後の太陽が雲間から射し込み、薬指にある物体を照らした。
**ヴァレリウス家の印章指輪**。
傷だらけだった。銀は沼のガスで変色していた。彫刻には泥が詰まっていた。
だが、その紋章は紛れもないものだった。剣と盾の精巧な彫刻、そしてそれを取り囲む家訓:*『Virtus in Ferro』(鋼鉄の美徳)*。
衛兵の笑い声が喉で詰まった。
彼は息を呑んだ。目が大きく見開かれ、指輪に釘付けになる。
その指輪を身につけているのは世界に三人しかいない。公爵。公爵夫人。そして跡継ぎだ。
彼は手から私の顔へと視線を上げた。
私は絡まった黒髪をかき上げ、目を見せた。
淡く、赤みがかった瞳で彼を直視する。
私には父の顎のラインがある。だが、顔立ちは母そのものだ。
衛兵の顔から血の気が引いた。まるで亡霊を見たかのように真っ白になった。
ハルバードが手から滑り落ちる。
*ガシャン。*
静かな通りに大きな音が響いた。
「まさか……」彼は震える唇で息を漏らした。「そんな……あり得ない」
彼はよろめきながら一歩下がった。
「その顔……指輪……あなたは……」
「親父はいるか?」私は首をかきながら尋ねた。「腹が減ったんだ」
衛兵が叫んだ。
軍人の号令ではない。純粋で混じりけのないパニックの悲鳴だった。
「隊長! 隊長! 門を開けろ!!」
彼は振り返り、鉄格子を拳で叩きつけた。
「帰ってきたぞ! 幽霊が帰ってきた! 若様が生きてたぞ!!」
---
**【復活】**
騒ぎは一瞬で広がった。
巨大な鉄の門が軋みながら開いた。
使用人たちが中庭に溢れ出した。洗濯かごを持ったメイド、干し草フォークを持った馬丁、ネクタイを直す年老いた執事。
彼らは半円を作り、囁き合い、指差し、怯えていた。
彼らは私を、墓場から蘇ったゾンビを見るような目で見ていた。
その時、本邸の重厚なオークの扉が勢いよく開いた。
*バンッ。*
一人の男が出てきた。
**アーサー・ヴァレリウス公爵**。
私の記憶にある彼は巨人だった。鋼鉄と静寂の男だった。
ポーチに立っているその男は……衰えていた。
かつて漆黒だった髪には白髪が目立ち、広く誇り高かった肩は丸まっている。鎧は着ておらず、緩いリネンのシャツを着ていたが、その手が震えているのが見えた。
心臓近くにある**マナ詰まり**が彼を殺しつつあるのだ。ここからでも感じ取れる彼の生命力をゆっくりと窒息させている、暗く膿んだエネルギーの結び目を。
彼はそこに立ち、ドア枠を掴んで体を支えていた。
彼は群衆を見渡した。
その目が私を捉えた。
沈黙が永遠に続いた。風が観賞用の木々の葉を揺らす音だけが聞こえる。
私は重心を移し、急激に居心地の悪さを感じた。
ヒドラとも戦った。毒虫も食べた。敵を拷問したこともある。
だが、これ? 死んだと思っていた父親の前に立つこと?
こっちのほうが遥かにキツい。
「カイン?」
彼の声は囁きだった。壊れそうな、脆い音だった。
私は咳払いをした。
「よう、親父」私は何気ない風を装って言った。「遅れてごめん。渋滞が……ひどくてさ」
「カイン……」
彼はドア枠から手を離した。
一歩踏み出した。そしてもう一歩。
そして彼は走った。
剣聖は、たとえ体が不自由でも、恐ろしいほどの速度で動いた。
彼は階段を飛び降り、泥に足を取られながらも、威厳も階級も無視して駆け寄った。
彼が私に衝突した。
*ドスン。*
彼は止まらなかった。私の肺から空気を搾り出すような勢いで私を抱きしめた(タックルした)。
彼は私の汚れた血まみれの首筋に顔を埋めた。その力は鉄のようだった。肋骨がきしむほど強く抱きしめられた。
「生きてる……」彼は嗚咽した。
大の男が、戦士が、崩れ落ちて泣く音というのは恐ろしいものだ。生々しく、無様だった。
「息子よ……私の息子……失ったと思っていた……守れなかったと思っていたのに……」
私はそこに立っていた。板のように硬直したまま。
私の両腕が空中で彷徨う。
*『脅威判定』* 脳が自動的に信号を送る。 *『対象は組み付いている。首が露出している。急所攻撃可能』*
古い習慣はなかなか消えない。
私は無理やり手を開いた。気を丹田へと押し戻す。
*『違う。愛情だ。これは愛情だ』*
私はゆっくりと、ぎこちなく手を下ろし、彼の震える背中を叩いた。
「俺はここにいるよ、父さん」私は囁いた。「実体はある。幽霊じゃない」
「アーサー! 何事なの!?」
女性の叫び声が屋敷から裂けた。
**サラ公爵夫人**。
彼女は走り出てきた。生霊のように見えた。痩せこけて頬骨が浮き出ており、目は長年の不眠で赤く充血している。彼女はシンプルな黒いドレス喪服を着ていた。5年間、ずっと着ていたのだ。
彼女は階段の下で立ち止まった。
夫が泥の中で薄汚い物乞いを抱きしめて泣いているのを見た。
アーサーの肩越しに、私の顔を見た。
「カイン……?」
彼女は走らなかった。崩れ落ちた。
足の力が抜け、這うようにして最後の数メートルを進んだ。
「カイン!」
彼女は私たちの上に身を投げ出した。
震える手で私の顔を掴み、私が本物かどうか確かめるように目、鼻、頬に触れた。
「あの子だわ……アーサー、あの子よ……」彼女は泣き叫んだ。顔中を涙で濡らしながら。「私の赤ちゃんが帰ってきた……」
彼女は私の額に、汚れた頬に、髪にキスをした。沼の汚物など気にしなかった。臭いなど気にしなかった。
「ごめんなさい」彼女は何度も泣きながら繰り返した。「本当にごめんなさい、あなたを置いていって……」
彼女の反応は父よりも遥かに壊れていた。
父は森での痕跡を見ていた。ソーンからの報告も受けていた。心の奥底で、戦士の勘として
50%の希望を持っていた。私がまだ生きていると。
だが母は?
彼女にとって、私は死んでいた。5年間、彼女は見つからぬ死体を悼んできたのだ。彼女にとって、これはただの再会ではない。死者の復活だった。彼女は私が霧のように消えてしまうのを恐れるかのように激しく震え、指を私の腕に食い込ませていた。
喉の奥に塊ができた。硬く、痛みを伴う結び目が。
私は天魔だ。泣かない。感じない。
だが、彼らの体の温もりを、その圧倒的な愛の重みを感じた時……
「悪魔」の中の何かがひび割れた。ほんの少しだけ。
私は目を閉じた。
「帰ってきたよ、母さん」私はかすれ声で言った。「腹が減ったんだ。飯にしてくれないか?」
---
**【浄化】**
次の一時間は混沌の極みだった。
私は壊れやすい磁器の人形のように中へ案内された。
メイドたちは泣きながら風呂にお湯を溜めた。セバスチャンという名の老執事は、私の物乞い服を燃やしながら泣いていた。
私は浴槽に座った。お湯は熱かった。ローズオイルの香りがした。
水面に映る自分を見る。
体は引き締まり、傷だらけだった。狼の噛み跡。スライムによる酸の火傷。包丁を振り続けた手の平のタコ。
泥を洗い流す。
水が黒く、そして赤く変わった。
皮膚がヒリヒリするまでこすった。
風呂から上がった時、私はもはやスワンプ・モンスターではなかった。
濃紺に銀の刺繍が入ったベルベットのスーツを着せられた。柔らかかった。柔らかすぎた。雲を着ているような気分だ。
鏡を見る。
見つめ返してくる少年はハンサムだった。白い肌、鋭い顔立ち、貴族的な骨格。
だが目は……目は同じままだった。
死んでいる。赤い。疲れている。
「立派な若様に見えますぞ、旦那様」セバスチャンは鼻をすすりながらタオルを渡してくれた。
「標本にされた蝶みたいだ」私は襟を引っ張りながら呟いた。「ネクタイが苦しい」
---
**【黄金の嵐】**
私は食堂へ案内された。
テーブルは20人は座れるほど長かった。上質な銀食器がセットされている。
シャンデリアの蝋燭が揺らめいている。
アーサーとサラはすでにそこにいた。彼らも身なりを整えていたが、目はまだ腫れていた。彼らは私が入ってくると、まるで私が宇宙で一番大切なものであるかのように微笑んだ。
だが、空席が一つあった。
その隣に、少女が立っていた。
**エレナ**。
私の妹。
彼女は今、10歳になっていた。
そして彼女は……眩しかった。
ただ立っているだけで、微かな羽音のような音がする。彼女の周りの空気は金色の粒子できらめいていた。髪は液体の黄金のように波打ち、腰まで届いている。教会の太陽のシンボルが刺繍された、**聖女見習い**の白い儀礼服を着ていた。
美しかった。この世のものとは思えない。光の生き物だ。
彼女は背筋を伸ばし、手を組んで祈りのポーズをとっていた。静寂と優雅さの体現だ。
使用人たちが畏敬の念を込めて囁いた。「聖女様……なんて落ち着いておられるんだ」
私は中に入った。
目が合った。
彼女の青い瞳が、私の赤い瞳をロックオンした。
静寂が消えた。優雅さが蒸発した。
彼女の顔がくしゃくしゃになった。
「にぃ……に?」
彼女の声はネズミのようだった。
私は小さく、疲れたように手を振った。「よう、エレナ。背が伸びたな。それに……眩しい」
**ドカンッ。**
床板が悲鳴を上げた。
彼女は走らなかった。発射された。
黄金の光が超新星のようにフレアした。彼女は白と金の残像となって部屋を横切った。
「にぃに!!」
彼女は砲弾のように私に激突した。
「ぐっ!」
私はよろめきながら彼女を受け止めた。
彼女はコアラのように私の首に腕を、腰に足を巻き付け、しがみついた。
「バカ! バカ! バカ!」彼女は私の肩に顔を埋めて叫んだ。「大バカ者!!」
彼女は私の胸を叩き始めた。
*ドスッ。ドスッ。ドスッ。*
手加減なしだ。聖なる身体強化を使っている。普通の人間なら肋骨が折れているだろう。
「置いてった! 約束したのに! 守るって言ったのに! 嘘つき!」
「痛い痛い」私は抑揚なく言った(痛くはない)。「ここにいるだろう? 商品を傷つけるな」
彼女は身を引いた。顔は鼻水と涙でぐちゃぐちゃだった。「聖女」のイメージは完全に崩壊していた。
「死んだと思ったのよ!」彼女は泣き叫んだ。「祈ったんだから! 毎日! 4時間も! 膝が痛いのよ!」
彼女は聖なるローブのポケットに手を入れた。
小さく、黒く、石のように硬い物体を取り出した。
石炭のように見える。あるいは化石か。
それは、**干し肉**だった。
「持ってたんだから!」彼女はしわくちゃになった肉片を私の顔に押し付けながら泣きじゃくった。「これを食べてたでしょ……馬車の中で……あの悪い人たちが来た日に!」
彼女の手が震えていた。
「にぃにが飛び出した後、拾ったの。5年間ずっと持ってたのよ! 一緒に寝たの! にぃにの形見はこれしかなかったんだから!」
私はジャーキーを見つめた。ポケットの綿ゴミまみれだ。間違いなくカビている。
「エレナ……」私は顔をしかめた。「汚いぞ。それはバイオハザードだ。捨てろ」
「イヤ! 私の宝物なの!」彼女は涙目で私を睨みつけながら、それを胸に抱きしめた。「みんな、にぃには死んだって言った! お父様でさえ疑い始めたのに! でも私はこれを持って、知ってたもん! にぃにはおやつを食べ終わる前に死んだりしないって!」
両親を見ると、涙を流しながら笑っていた。
エレナを見ると、電球のように光りながら、鼻水を垂らし、腐った肉を聖遺物のように抱きしめている。
*『こいつ、本当に狂信者だな』* と私は思った。
私はため息をつき、彼女の頭をポンポンと叩いた。
「帰ってきたよ、泣き虫。もうどこにも行かない」
彼女は鼻をすすった。黄金の光が柔らかくなり、暖かく居心地の良いものに変わった。
「約束?」
「約束する」
「うん」彼女は私を離し、地面に降りた。袖で鼻を拭う(教会が見たら卒倒するだろう)。「じゃあ座って。ステーキ焼かせたから。牛一頭分よ」
---
**【真実と嘘】**
夕食は宗教的体験だった。
祈りのせいではない。**ステーキ**のせいだ。
完璧に焼かれた巨大なTボーンステーキが、ペッパーコーンソースの海を泳ぎ、トリュフ入りのマッシュポテトが添えられている。
私は獣のように食べた。ナイフは使わなかった。骨を掴んでかじりついた。
使用人たちは恐怖していたが、両親は嬉しそうだった。
「お食べ、お食べ」サラは私の皿にさらにポテトを盛りながら勧めた。「こんなに痩せちゃって」
アーサーはワイングラスを回していた。彼は愛おしさと、分析的な眼差しの両方で私が食べるのを見ていた。
「それで」アーサーは声を落とし、真剣な口調で言った。「5年間だ、カイン。沼地は死の領域だ。騎士でさえ命を落とす。7歳の子供がどうやって生き延びたんだ?」
私は止まった。
肉の塊を飲み込む。
来たな。尋問だ。
ナプキンで口を拭う。
私は最高の「無実で混乱した被害者」の表情で彼らを見た。
「全部は覚えてないんだ」私は声をわずかに震わせて話し始めた。「事故で……頭を打って。気がついたら洞窟にいた。ゾーン1の。隠された場所だった」
水を一口飲む。
「怖かった。お腹が空いてた。キノコを見つけたんだ。青いやつ。光ってた」
サラが息を呑んだ。「ブルー・スピリット・キャップ?」
「たぶん。それを食べた。体が燃えるみたいに熱くなって、気を失ったんだ」
私は手を上げた。
拳を握る。
体内のバルブをほんの少しだけ開く。生々しく混沌とした天魔の気を、「不純物」の層を通して濾過し、汚く精製されていないマナに見せかける。
掌の上で、頼りない青い炎がパチパチと音を立てて揺らめいた。
「目が覚めた時」私は滑らかに嘘をついた。「マナ詰まりが消えてたんだ。まあ、ほとんどね。少しだけ魔法が使えるようになった。足の強化くらいならできる。逃げるために使ったよ」
「ああ、神よ……」サラは口元を覆った。「奇跡だわ……覚醒したのね!」
「だいたい**ランク2(下位)**くらいかな」私は炎を消し、肩をすくめた。「強くはないよ。ただ逃げ回ってただけだ。狼から隠れて、虫を食べて、木の上で寝て。そうやって生き延びた」
それは傑作の嘘だった。
すべてを説明できる。
なぜ生きてる? 運だ。
なぜ体が丈夫? モンスターから逃げていたから。
なぜマナが変? 野生のキノコのせい。
「ランク2(下位)」というパワーレベルは完璧だ。生存を説明するには十分強く、しかし王都の脅威からは「一般人」として無視される程度に弱い。
「ランク2……?」サラはフォークを皿に取り落とし、息を漏らした。「カイン、自分が何を言ってるかわかってるの?」
それは単に「すごい」だけではなかった。常軌を逸していた。
この世界において、才能はそれほど珍しいものではない誰もが何らかの可能性を持っている。だが**ランク2**というのは、多くの大人が一生かけても越えられない壁だ。
門にいた衛兵? 彼らはランク1だ。何十年も訓練したベテラン兵士? たいていはランク1(上位)止まりだ。
貴族の子供がランク2に到達するには、通常、何百万もの金貨を費やしてエリクサーやマナ浴、人工的な強化を行う必要がある。王なら金に物を言わせて子供をランク3にすることもできるが、それは中身のない力だ。
だが私は、ランク2に独力で到達したと言ったのだ。洞窟の中で。銅貨一枚も、教師もなしに。
「私……私なんてまだ**ランク1(上位)**なのに」エレナは大きく、崇拝に満ちた目で私を見つめて囁いた。「教会最高の家庭教師と、無限の聖なるマナがあるのに! にぃに……それを一人でやったの?」
彼らは私を、天から遣わされた神童か何かのように見ていた。不屈の意志で呪いを力に変えた天才だと。
私は笑いを隠すために静かにステーキを噛んだ。
*『ランク2でこんなに驚くなら』* 私は父を横目に見ながら思った。 *『俺が実は**ランク4(上位)**全盛期の親父より強いだと知ったら、このテーブルで心臓発作を起こすんじゃないか?』*
「勇敢な子だわ」サラは泣いた。
「ランク2なんてすごい!」エレナは歓声を上げた。「にぃには魔法使いなんだ!」
だがアーサーは……
アーサーはすぐには笑わなかった。
彼は揺らめくマナを見た。
そして私の目を見た。
彼は息子を見ているのではなかった。生存者を見ていた。
アーサーの脳裏に5年前の記憶がフラッシュバックした。
森の中の**死の空き地**。
彼は15人の傭兵を思い出した。
喉を小さな指で引き裂かれたランク3の指揮官を。粉砕された胸郭を。外科的かつ残虐な効率で解体された死体の山を。
「ランク2(下位)」で狼から逃げ回っていた少年が、15人の武装した男たちをレゴブロックのように分解できるわけがない。
怯えた子供が、戦場をあんなに綺麗に片付けられるわけがない。
アーサーは知っていた。
彼は私を見た。
私は見返した。
私の目は死んだように穏やかなままだった。瞬きもしない。
*『さあ』* 私の目は語った。 *『言えばいい。俺はバケモノだと言ってみろ』*
アーサーは目を閉じた。ワインを長くすすった。
グラスを置く。
彼は微笑んだ。
それは悲しく、そして全てを察した笑みだった。息子が地獄を歩き、その代償として無邪気さを置いてきたことを悟った父親の笑みだった。
「そうか」アーサーは優しく言った。「運が良かったんだな。森がお前を守ってくれたんだ」
私はリラックスした。彼は秘密を守ってくれる。
「ランク2か……上出来だ」アーサーは続け、声を強めた。「それなら十分だ」
彼は身を乗り出し、顔つきを真剣なものにした。
「だが……言いにくいことだが、カイン。お前は悪い時期に帰ってきた」
「なんで?」私はパンを手に取りながら尋ねた。
「お前は12歳だ」アーサーはため息をついた。「そしてローランド王の布告により……すべての貴族の子弟は、地位に関わらず、**ジェネシス・アカデミー**に入学しなければならない」
彼は北の方角を曖昧に示した。
「三大帝国のちょうど中間、**中立地帯**にある。戦争を防ぐために作られた『人種のるつぼ』だ。貴族、平民、大陸中から集まった天才たち全員があそこへ行く」
アーサーの目がわずかに曇った。
「アカデミーには一つの絶対的なルールがある。**『壁の中では身分は無意味。実力のみが意味を持つ』**。弱い者にとっては危険な場所だ、カイン」
「アーサー!」
**バンッ。**
サラがテーブルを叩き、銀食器が音を立てた。
「やめて! この子は5分前にドアをくぐったばかりなのよ! 沼の泥にまみれて、数年ぶりに温かい食事をしているの! 政治や学校の話で退屈させないで!」
アーサーは身をすくめた。剣聖が妻を恐れていた。
「い、いや……私はただ説明を」
「今夜はダメ」サラは彼を睨みつけた。「ステーキを食べさせてあげて」
アーサーは気まずそうに咳払いをした。「あ、ああ。すまない。アカデミーの話はまた後にしよう」
私はパンを噛みながら、ニヤつくのを隠した。
*『ジェネシス・アカデミーか。身分が無意味?』*
完璧じゃないか。身分が無意味なら、教室の後ろにいる「ただの人」になれる。「ランク2の男爵の息子」なんて誰も気にしない。
*『第2部の未来は明るいな』*
私はパンを飲み込み、フォークを置いた。
「いいよ、父さん。学校の話はまた今度で。でも今は……」
私は彼の手の震えを見た。
「手首を見せて」
アーサーは瞬きをした。「なんだ、カイン?」
「詰まりだよ」私は彼の胸を指差した。「チェックしたい」
アーサーは悲しく、疲れた笑みを浮かべた。「カイン……王国の最高の名医たちが試したんだ。ランク5への突破に失敗した反動だ。固まったマナなんだ。動かせないよ」
「俺は自分のを治した」私は滑らかに嘘をついた。「森で呼吸法を習ったんだ。マナを逆回転させる。それで詰まりが取れた。父さんにも効くかもしれない」
アーサーは躊躇した。
彼は私たちの状態が全く違うことを知っていた。私の「詰まり」(と彼が理解しているもの)は先天的な欠陥マナ・ヴォイドだ。彼のは傷跡と高密度エネルギーが絡み合った残骸だ。打撲を治す技術で複雑骨折を治そうとするようなものだ。効くはずがない。
だが彼は私の顔を見た。目の真剣さを見た。
私の希望を壊したくなかったのだ。
「わかった」アーサーは静かにため息をつき、震える手をテーブル越しに差し出した。「お前がそうしたいなら」
私は彼の手首を掴んだ。
「ラッキーな森の技術」は使わなかった。
私は**ランク4(上位)の天魔の気**を流し込んだ。
高密度で、支配的で、精密な気だ。
私は極細の気の糸を彼の腕から肩へ、そして心臓を取り囲む黒い結び目へと送り込んだ。
*『汚いな』* 私は即座に分析した。 *『だが不可能じゃない。一度に吹き飛ばせば心臓が破裂する。浸食するんだ。石に落ちる水滴のように』*
私は押した。
*パキッ。*
彼の胸の中で、固まったマナの欠片が一つ砕け、溶けた。
アーサーが息を呑んだ。目が見開かれる。
「カイン……?」
彼は感じた。5年ぶりに、心臓を締め付けていた万力が1ミリだけ緩んだのを。新鮮な空気が肺に入ってきた。
私は手を離した。
「頑固だね」私は背もたれに寄りかかり、ステーキナイフを手に取った。「でも削れるよ」
私は彼の目を見た。
「一年くれ。週に一回治療する。ランク4に戻してやるよ」
アーサーは自分の手を見つめた。拳を握る。震えはまだあるが、微かになっていた。
彼は衝撃と畏敬の入り混じった目で私を見た。どうやったのかはわからない私の「ランク2」という話の裏に、もっと深い何かが隠されていると疑ってはいるが結果が本物であることはわかっていた。
「一年……」アーサーは囁いた。再び目に涙が浮かぶ。「お前は本当に奇跡だ」
「俺はただ、俺の代わりに悪者をぶっ飛ばせるくらい親父に強くなってほしいだけだよ」私は冗談めかして言った。「俺が怠けるためさ」
アーサーは笑った。
サラは微笑んだ。
エレナは輝いた。
今夜、怪物は眠りについた。
今夜、私はただのカイン・ヴァレリウス。ステーキが好きで、壊れたものを直すのが得意な少年だった。




