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# 第12章:沼の道場

# 第12章:沼の道場


**年齢:9歳場所:霧の沼地(ゾーン2・毒の湿地帯)**


沼地には時計がない。あるのは苦しみのサイクルだけだ。

霧が沸騰し、蚊が拳ほどの大きさになる熱のサイクル。泥が凍りつき、鋭い棘となる冷気のサイクル。

そして、**痛み**のサイクルだ。


「熱い! マスター、熱いよ! 皮膚が溶けちゃう!」


湿った空気をつんざく悲鳴が響き、ギザギザのくちばしを持つカラスの群れが頭上の林冠から飛び立った。

枯れて黒ずんだ木々の茂みの中心に、天然の池があった。

中の液体は水ではない。ドロドロとした粘液で、暴力的なネオンパープルの色合いで泡立っている。

それは**ヴェノム・リーチ(毒ヒル)**の巣窟だ。血を吸うのではなく、獲物の組織を液状化させる壊死性の神経毒を注入する、指ほどの大きさの盲目の寄生虫たち。


この地獄のスープの中に、顎まで浸かっているのが**リサンドラ(リス)**だ。


枯れた花の前で泣いていた彼女を拾ってから、1年が経っていた。

彼女はもう、出会った頃の飢えた骸骨ではない。肩幅は広くなり、腕には引き締まった筋肉がついている。

だが今、彼女は煉獄れんごくの魂のような顔をしていた。

灰色の肌は危険な紫色に上気している。額の血管が浮き上がり、狂ったような心拍に合わせて脈打っている。顔から流れ落ちる汗は、沸騰する毒液に触れた瞬間に蒸発して湯気になっていた。


「もう無理!」彼女は叫び、泥の岸を爪で引っ掻いた。「出して! 明日はもっと頑張るから! お願い、出して!」


*パシッ。*


小さな滑らかな小石が空を切り、正確に彼女の額の真ん中に当たった。

強く投げたわけではないが、彼女の頭を仰け反らせるだけの「気」が込められていた。


「座れ」俺は静かに言った。


俺は5メートルほど離れた、毒ガスの範囲外にある乾いた大きな岩の上に座っていた。手には**鉄木アイアンウッド**の枝を持ち、小さなカービングナイフで削っている。

箸を作っているのだ。

沼地は未開の地だが、だからといってゴブリンのように手づかみで飯を食う理由にはならない。


「でもマスター!」リスが喘ぎ、涙と汗が混じり合う。「ヒルが……服の中に入ってくるの! うごめいてるのがわかるの!」


「当然だ」俺は薄い木屑を削ぎ落としながら答えた。「奴らはお前のマナに引き寄せられている。お前を食べようとしているんだ」


「全然慰めになってない!」


俺は手を止めた。

顔を上げ、赤い瞳で霧を貫くように彼女を見る。

「リス。**『天陰毒体』**の第一原則を覚えているか?」


彼女は嗚咽を飲み込み、熱が増すにつれてさらに深く汚泥に沈んだ。

「制御……」彼女は喘いだ。


「正解だ。制御だ」俺は立ち上がり、池の縁まで歩いた。「お前の体は壊れた器だ。無限の陰毒を生み出しているが、それを留めておく蓋がない。だから漏れる。だから殺す」


俺はナイフの切っ先を泡立つ池に向けた。

「この池の毒は、**陽属性**の毒だ。熱く、攻撃的だ。お前の血の中にある冷たい**陰属性**の毒とは対立する」


俺はしゃがみ込んだ。普通の騎士なら気絶するような有毒ガスを無視する。

「これは攻城戦だ、リサンドラ。外部の毒がお前の体を攻撃している。生き残るためには、お前の内部の毒は外へ漏れるのをやめ、内側へ撤退して臓器を守らなければならない。俺はこの池の圧力を利用して、お前のエネルギーを経絡けいらくへと強制的に押し戻しているんだ」


「痛いよ……」彼女はすすり泣き、目がわずかに裏返りそうになっていた。


「痛みとは、弱さが体から抜け出していく感覚に過ぎない」俺は武林の古い格言を引用した(主に彼女を苛立たせるためだが)。「今這い出せば、封印は壊れる。陰毒が外へ爆発し、お前はこの森全体を不毛の荒野に変えるだろう。また歩く疫病に戻りたいのか?」


リスが凍りついた。

彼女は死んだ花を思い出した。数年前の、母親の恐怖に歪んだ顔を思い出した。

彼女は歯を食いしばった。顎の筋肉が隆起する。

「……イヤだ」彼女は唸った。


「なら呼吸しろ」俺は命じた。声をオクターブ下げ、催眠的なリズムで響かせる。「熱と戦うな。受け入れろ。痛みを川だとイメージしろ。それを背骨に沿って下ろし、丹田に溜めろ。圧縮しろ」


リスは目を閉じた。

彼女の呼吸は荒く、恐ろしいほど速い。

*ヒュッ……ハァ……ヒュッ……ハァ……*


俺は**『霊視』**で観察した。

彼女の体内で、混沌とした紫色の嵐が荒れ狂っている。ヒルの熱が彼女のオーラを押し返し、鍛冶屋が鋼を打つように圧縮していた。

ゆっくりと、苦痛を伴いながら、彼女の周囲の漏れ出すガスが止まった。

普段肌から漂っている紫色の霧が、毛穴へと吸い込まれていく。

彼女のオーラが凝縮された。より鋭く。より暗く。より高密度に。


*ポンッ。*

彼女の首に張り付いていたヒルの一匹が破裂した。

血を吸おうとしたが、彼女の血があまりに強力になりすぎて、許容量を超えたのだ。

*ポンッ。ポンッ。ポンッ。*

さらに多くのヒルが破裂し、死んだ魚のように表面に浮き上がった。


「いいぞ」俺は囁いた。「器が硬化している」


俺は岩に戻り、ナイフを拾った。

「あと30分だ」俺は叫んだ。「気絶したら引きずり出してやる。だが途中でやめたら、晩飯抜きだ」


「晩飯」という言葉を聞いた瞬間、リスの目が見開かれた。新しい炎がそこに宿った。

「……やめない」彼女は唸った。


俺はニヤリとした。

胃袋こそが、最強のモチベーションだ。


---


**【地獄の厨房】**


2時間後。

霧の沼地に夜が訪れた。

気温は急激に下がり、湿った空気は骨まで凍みる冷気へと変わった。昼間の音羽虫の音、猿の叫び声は消え、夜行性の怪物の鳴き声に取って代わられた。


だが、俺たちの小さなキャンプ地は暖かかった。

俺は**骨白木ボーン・ホワイト・ウッド**で焚き火を作っていた。

ゾーン3にしか自生しない、巨大な骸骨亀の背中に生える希少な木材だ。採取は困難だが、それだけの価値はある。純白の炎で燃え、高温を発し、煙をほとんど出さない。隠密キャンプには最適だ。


俺は鉄板として使っている平らな粘板岩の前に立っていた。

石の上で、巨大な肉の塊がジュージューと音を立てている。


**ランク2・ヒドラのテールフィレ**だ。

9歳でヒドラを狩るのは自殺行為だ。再生能力があり、酸を吐く。

だが欠点を見つけた。ヒドラは食い意地が張っている。俺は爆発性のスワンプ・ラットの束で釣り、頭を吹き飛ばし、再生する前に尻尾を切り落とした。


肉質は最高だ。有毒な脂肪が霜降り状に入っており、適切に処理すればスパイシーな和牛のような味がする。


*ジュウウウ。*

俺は包丁で肉を押し付け、表面を黄金色に焼き上げた。

香りが空き地に漂う。

複雑な香りだ濃厚で野性的、鉄とオゾンの香りが混じり合い、そこに**ゴースト・ペッパー**と野生の**スター・ガーリック**の刺激的なスパイスが層を成している。


「完成だ」俺は呟いた。


背後で足音がした。

リサンドラが影の中から這い出てきた。

ひどい有様だった。服はヘドロまみれ。髪は頭蓋骨に張り付いている。毒の訓練の余韻で、制御不能なほど震えている。

だが、生きていた。


「マスター……」彼女はしわがれた声で言った。「天国の匂いがする……」


「洗え」俺は濾過した雨水を溜めた丸太を指差して命じた。「スライム・モンスターみたいだぞ。俺はスライムとは食事しない」


リスはうめき声を上げたが、従った。ボロボロになった上着を脱ぎ、紫色の汚泥を肌から洗い落とす。

汚れが落ちると、変化が見て取れた。

彼女の肌はもう、死体のような鈍い灰色ではない。

つやを帯びていた。磨き上げられた黒曜石か、黒い赤鉄鉱ヘマタイトのように見える。月光の中で微かに輝いている。経絡からの漏出はなく、気配は完全に内包されていた。

彼女は真の修練者カルティベーターになりつつある。


彼女は予備の革服(死んだ冒険者から剥ぎ取ったもの)に素早く着替え、膝を抱えて火のそばに座った。

鋼鉄さえ溶かしそうな熱視線で、ステーキを見つめている。


「皿」俺は言った。


彼女は即座に、清潔なバナナの葉を差し出した。

俺はヒドラのステーキをスライスした。ナイフはバターのように肉を通り抜ける。内側は完璧なミディアム・レアのピンク色だ。

俺は巨大な一切れを、彼女の葉の上に叩きつけた。


「食え」俺は言った。「丹田が空っぽだ。高グレードのエネルギーで満たさないと、体が筋肉を共食いし始めるぞ」


リスは待たなかった。

湯気の立つ肉を素手で掴み、口に押し込む。

「んぐっ! んふっ!」

彼女は熱い息を吐き出し、目を見開いた。


味が口の中で爆発した。

ヒドラの脂が舌を覆う。濃厚で旨味がある。次にゴースト・ペッパーのキックが来る副鼻腔を突き抜け、凍えた芯を温める鋭く痺れる辛さ。スター・ガーリックが土のような力強い後味を加える。


「ああっ……」リスは目を閉じてうめいた。一筋の喜びの涙が頬を伝う。「マスター……あなたは悪魔だけど……料理は神様だよ」


「お世辞を言ってもおかわりはないぞ」俺は冷たく言い、自分の分を盛り付けた。

俺は向かいに座り、削りたての箸を使った。

一口食べる。

よく噛んで味わう。


*(食感はいい)* 俺は分析した。*(高温の焼き(シア)で肉汁を閉じ込めた。だがゴースト・ペッパーが少し強すぎるな。脂とのバランスを取るために酸味が欲しい。次はレモン・アントの腹の汁を絞ってみるか?)*


「マスター」リスが口いっぱいに頬張りながら尋ねた。「どこで料理を覚えたの? 人間の貴族はみんなこんな料理を作るの?」


俺は鼻で笑った。「貴族? あの役立たずの豚どもは湯の沸かし方も知らんよ。野菜を灰色の泥になるまで煮込むのが『料理』だと思ってる」

俺は飲み込んだ。

「俺が覚えたのは、生き残るだけじゃ不十分だからだ。効率的に生きるには士気の維持が必要だ。美味い飯は精神を研ぎ澄ます。不味い飯は人間をダメにする」


リスは俺を見た。

焚き火の光の中、長い髪で顔を隠し、赤い瞳を光らせる俺は、恐ろしく見えたに違いない。魔獣を狩り、エルフを拷問する9歳の少年。

だが彼女にとって、俺は食事を与えてくれた唯一の人間だった。

両親は触れるのを恐れて遠くから残飯を投げた。村の長老は腐ったパンを小屋の外に置いた。

でもカインは……カインは彼女のために料理し、一緒に座り、彼女に触れた。


「ありがとう」彼女は葉を見つめながら囁いた。


「食え」俺は感傷を無視した。「体力が必要になる」


「なんで?」彼女は咀嚼を止めた。


俺は箸を彼女に向けた。

「リーチの池は、ただの準備運動だからだ」


リスの顔から血の気が引いた。「準備……運動?」


「コアは安定した」俺は説明した。「体内に毒を保持できるようになった。つまり、フェーズ2の準備が整ったということだ」


「フェーズ……2?」


俺はニヤリとした。歯を見せすぎる、鋭くギザギザな笑みだ。

実戦コンバットだ。明日から、サンドバッグ役は終わりだ。殴り返してもらうぞ」

俺は背後から武器を取り出した。

剣ではない。去年殺したワニの歯から削り出した、一対の**双短剣デュアル・ダガー**だ。粗雑だが、ギザギザの刃には天然の神経毒が塗られている。


俺はそれを彼女に投げた。

*カラン。*

彼女の足元に落ちる。


「拾え」俺は命じた。


リスは肉を置いた。手を伸ばし、骨の柄を握る。

軽い。バランスがいい。致死的だ。

「これ……私に?」


「暗殺者は正々堂々とは戦わない」俺は火を見つめながら言った。「お前は小さい。弱い。騎士を力でねじ伏せることはできない。魔法使いと撃ち合うこともできない」

俺は彼女の目を見た。

「だから、より速く。より静かに。そして、より致命的になれ」


俺は立ち上がり、焚き火に土をかけて炎を小さくした。

「寝ろ、弟子よ。楽しい夢を見ろ」

俺は背を向け、寝床へと歩き出した。

「日が昇ったら……俺がお前を狩るからな」


リスは薄暗い光の中に一人残された。

手の中の短剣を見る。

人生で最高の食事が乗っていた空の葉っぱを見る。

拷問者であり、救世主でもある少年の背中を見る。


彼女の背筋を震えが走った。恐怖ではない。

武者震いだ。

彼女は短剣を強く握りしめた。紫色の瞳が闇の中で光る。

「失望させないよ」彼女は闇に向かって囁いた。「マスター」

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