# 第11章:毒の弟子
# 第11章:毒の弟子
**年齢:8歳場所:霧の沼地(ゾーン2)**
この沼地は、許さない。憐れまない。ただ消化するだけだ。
王国の人々にとって、霧の沼地は「緑の地獄」だ。騎士たちは泥にブーツを奪われ、ヒドラに命を奪われる。地図製作者たちが詳細を書き込むことを恐れる、化膿した傷跡のような場所。
だが俺にとっては、聖域だった。
ここの空気は硫黄と、腐った植物と、オゾンの臭いがする。普通の人間には吐き気を催す悪臭だろう。だが俺には、好機の匂いがした。
俺は**ゾーン2**の茂みの中を移動していた。足音は立てない。
俺はもう8歳になっていた。
もし父が今の俺を見たら、泣き出すかもしれない。彼が覚えている柔らかく太った幼児はもういない。その代わりにいるのは、野生の獣だ。
俺は上半身裸で、猪の革を継ぎ合わせたズボンだけを履いている。肌は青白い永遠の霧が日光を遮るせいで、不健康な幽霊のような白さになっている。髪は黒く長く伸び、カーテンのように目を覆っていた。
だが、その青白い肌の下にあるのは、鋼のワイヤーのような筋肉だ。
すべての筋肉が張り詰め、すべての骨は**『天魔骨鍛造』**によって一度砕かれ、再構築され、鉄よりも高密度になっていた。
*ズリュ。*
俺は腐った丸太を跨いだ。
前方で、**スワンプ・クロコダイル**が有毒な粘液の中で日向ぼっこをしている。ランク2の魔獣。全長5メートル、矢を弾き返す鱗を持つ怪物だ。
奴は俺に気づいていない。
俺はマナを使っていない。「殺気」も出していない。
ただ沼の一部として存在しているだけだ。影の中の影。
俺は**『名無し(ネームレス)』**巨大な黒鉄の包丁の柄を握った。重く、醜く、錆びついている。英雄の武器ではない。屠殺人の道具だ。
*(効率だ)* 俺は自分に言い聞かせた。*(戦闘にカロリーを浪費するな。始まる前に終わらせろ)*
俺は爆発的に飛び出した。
**『無影歩』**。
足元の泥は跳ねず、わずかに沈むだけだ。20メートルの距離を瞬きする間に詰める。
ワニの黄色い目が開いた。
遅い。
俺は包丁を振り回さなかった。体重と重力、そして慣性を利用して、その重い長方形の刃を真下に叩き落とした。
*ドゴォッ!*
包丁は切断しなかった。粉砕した。
刃は爬虫類の頭蓋骨を貫通し、脳髄を破壊し、その下の泥に深く突き刺さった。
魔獣は一度だけ痙攣した。そして、動かなくなった。
沼に静寂が戻った。
俺は死体の上に立ち、呼吸を整えた。心拍数は上がってすらいない。
「弱い」俺は呟いた。
湿った吸引音と共に、刃を引き抜く。
俺は膝をつき、死体の胸部を切り開いた。内臓と胆汁の悪臭を無視して手を突っ込む。緑色の血にまみれた手で引きずり出したのは、心臓だ。
スイカほどの大きさがあり、まだ微かに脈打っていた。
俺はワニの死体の上に座り、生の心臓にかぶりついた。
金属的で、ひどい味がした。だが肉が胃に落ちた瞬間、馴染みのある熱いエネルギーが広がるのを感じた。**『原初の肉体』**が生命力を分解し、魔獣のエッセンスを俺自身の「気」へと変換していく。
俺はゆっくりと噛み砕きながら、灰色の霧を見つめた。
孤独な生活だ。
もう1年も人間と話していない。
時折、正気を失いつつあるのではないかと疑うことがある。だが、家族の顔を思い出すたび、孤独は消え去り、冷たく燃える忍耐が取って代わった。
*(もっと強くならなければ)* 俺は軟骨の塊を飲み込みながら思った。*(ランク2程度では足りない。10歳になる前に、基礎構築の領域に到達しなければ)*
ふと、俺は噛むのをやめた。
凍りつく。
沼は騒がしい。カエルが鳴き、虫が羽音を立て、水滴が落ちる音がする。
だが、そこにあるはずのない音が混じっていた。
*グスッ……。*
すすり泣く声。
セミの鳴き声にかき消されそうなほど微かだが、純粋な悲惨さに満ちた、しゃくりあげるような音。
俺は目を細めた。
*(罠か?)*
セイレーン・スパイダーのような魔獣は、人間の泣き声を真似て獲物を誘うことがある。
俺は口元の血を拭い、立ち上がった。マングローブの影と同化し、音の方へと移動する。
巨大なシダの葉を押し分けた。
そして、泥だらけの小さな空き地で、俺はそれを見つけた。
魔獣ではなかった。
少女だった。
俺と同じくらいの年齢か、あるいは一つ下だろうか。
彼女は黒い泥の水たまりの中に座り込み、膝を抱えていた。
**ダークエルフ**だ。
肌は灰の色深く、暗いグレー。耳は長く尖っており、すすり泣くたびにピクピクと動いている。髪は薄汚れた白で、泥がこびりついていた。
骨が浮き出るほど痩せこけた体には、ボロボロの布切れしか纏っていない。
だが、最も異様なのは彼女の周囲の空気だった。
彼女の近くにあるものは、すべて死んでいた。
彼女が座っている草は黒く変色し、水たまりの水は泡立ち、有毒なガスを放出している。
彼女は手に何かを持っていた。
花だ。青いスワンプ・リリー(沼百合)。
彼女はそれを泥に植え直そうとしていた。その手は震え、涙が頬を伝って花びらに落ちていく。
「お願い……」彼女はひび割れた声で囁いた。「お願い、死なないで……ごめんなさい……ごめんなさい……」
俺が見ている前で、彼女の涙が花に落ちた。
涙は水ではなく、酸のように作用した。青い花びらは灰色に変わり、黒く腐り、最後には塵となって崩れ落ちた。
花は彼女の手の中で死んだ。
彼女は泣き叫んだ。それは希望を捨てた生き物の声だった。
「なんで?!」彼女は自分の手に向かって叫んだ。「なんで私が触ると全部壊れちゃうの?!」
俺は影の中から彼女を見ていた。
憐れみは感じなかった。憐れみは無駄な感情だ。憐れみで腹は膨れないし、刃も研げない。
俺が感じたのは、**興奮**だった。
俺は**『霊視』**を発動した。
見えた。
彼女の体内で渦巻く紫色のエネルギー。無秩序で、暴力的で、圧倒的な質量。それが彼女の毛穴から漏れ出し、世界を毒している。
**『天陰毒体』**。俺は即座に特定した。
武林において、これは七大体質の一つだ。弱者にとっては呪いだが、強者にとっては神ごとき才。正しく修練すれば、その血一滴で都市を滅ぼせる。
*(磨けば光る原石だ)* 俺は顔に笑みが広がるのを感じた。*(無知な者たちに捨てられた宝。俺には最適だ)*
俺は影から歩み出た。
優しくしようとはしなかった。重く、意図的な足取りで近づく。
*バシャッ。バシャッ。*
少女の顔が弾かれたように上がった。
血にまみれ、巨大な包丁を持った人間の少年を見て、彼女の大きな紫色の瞳が恐怖で見開かれる。
彼女は泥を跳ね上げながら後ずさりした。
「あ、あっち行って!」彼女は叫んだ。「来ないで! 壊れちゃうよ! 私が触るとみんな死んじゃう!」
俺は止まらなかった。近づいていく。
俺の赤い瞳は鈍く濁り、感情を見せていない。ゾンビのように見えただろう。
「近づかないで!」彼女は俺から守ろうとするように、自分の手を掲げて叫んだ。「私は呪われてるの! 逃げて!」
俺は彼女の前で立ち止まった。
俺は花があった場所を見下ろした。
今はただの黒い汚泥の山だ。
俺は足を上げた。
*グシャッ。*
俺は花の残骸を踏みつけ、泥の奥深くへと押し潰した。
少女は息を呑んだ。その行為の残酷さが彼女を打ちのめした。
「なんで……」彼女は震えた。「なんでそんなことするの?! 痛がってたのに!」
俺は冷淡な無関心さで彼女を見た。
「それはもう死んでいる」俺は平坦に言った。「お前が殺したんだ」
その言葉は物理的な打撃のように彼女を襲った。
彼女は崩れ落ち、膝に顔を埋めた。
「わかってる!」彼女は再び泣き出した。体は激しく震えている。「わかってるよ! ごめんなさい! 私は怪物なの! 生きてちゃいけないんだ……死ねばいいんだ……」
俺はため息をついた。
*(哀れだな)*
だが、必要だ。鋼を鍛えるには、まず溶かさなければならない。彼女は既に溶けている。あとは型に流し込むだけだ。
俺は彼女と目線の高さを合わせるようにしゃがみ込んだ。
ハンカチは差し出さない。頭も撫でない。
俺は手を伸ばし、腐敗した黒い泥をひと掴みした。
「この泥を見ろ、エルフ」俺は言った。
彼女は指の隙間から、混乱した様子で覗き見た。
「臭いだろう」俺は続けた。「汚い。腐乱死体や排泄物、腐敗の塊だ。人々はブーツを汚さないように避けて通る」
俺は拳を握りしめた。黒い汚泥が指の間から滲み出し、水たまりへと滴り落ちる。
「だが知っているか?」俺は囁いた。「最も美しい蓮の花は、清らかな水の中では育たない。綺麗な水では死んでしまう。蓮はこの汚泥を必要とするのだ。腐敗を食らい、弱者の死体を乗り越えて、太陽へと手を伸ばす」
彼女は俺の手から落ちる泥を見つめていた。
俺は地平線を指差した。
枯れ木の隙間から、遠くに**王都**の微かな白い輝きが見えた。
「あの貴族どもは……」俺は嘲笑った。「白い城に住む『天才』どもは、温室で育った花だ。綺麗な水を与えられ、風から守られている。ああ、綺麗だろうさ」
俺は彼女に向き直った。
「だが屋根を取り払えば……最初の嵐で引き裂かれて死ぬ」
俺は手を伸ばした。
彼女の手を掴む。
「ダメ!」彼女は叫び、手を引こうとした。「やめて! 死んじゃう! 私の肌は」
彼女は俺の肉が腐るのを予想していた。両親がしたように、村人がしたように、俺が恐怖に叫び、後ずさるのを待っていた。
だが俺は離さなかった。
俺は**『天魔の気』**を循環させた。俺のエネルギーが掌を覆い、見えない防壁となって毒を弾くだけでなく*貪り食った*。
俺にとって、彼女の致死の接触は涼しい風のように感じられた。
俺は彼女の手を強く握り、無理やり俺を見させた。
「俺を見ろ」俺は命じた。
彼女は見た。紫色の瞳は混乱で泳いでいた。なぜ腐らないの? なぜ逃げないの?
「破壊するから自分はゴミだと思っているのか?」俺は優しく尋ねた。
「愚かな小娘だ。破壊こそが、最も純粋な力だ」
彼女は息を止めた。
「奴らには『生』と『癒し』を持たせておけばいい」俺の声には確信が満ちていた。「愛させてやればいい。称賛させてやればいい」
俺は顔を近づけた。
「奴らが光の中で遊んでいる間に、お前は奴らが決して治せない『疫病』になれ。温室を粉砕する『嵐』になるんだ」
一瞬、俺の瞳が閃いた。
受動的な鈍い赤ではない。天魔の、燃えるような、暴力的な**深紅**。
殺気が俺から溢れ出し、周囲の霧を切り裂いた。
「枯れた雑草のために泣くのはやめろ」俺は言い放った。「世界がお前を拒絶するなら、お前も世界に義理立てする必要はない」
彼女は俺を見つめ、魅入られていた。
誰も彼女にこんなことを言わなかった。みんな「気をつけろ」と言った。「隠れろ」と言った。「本性を抑えろ」と言った。
この人間の少年は……解き放てと言っている。
「受け入れられることを望むな」俺は言った。手を離す。「奴らに、お前の存在を耐え忍ばせろ」
俺は立ち上がった。
手の泥をズボンで拭う。
俺は彼女に背を向けた。
「俺は飯を食う」俺の声は退屈な無関心さに戻っていた。「ワニの肉が残っている。生だし、不味いぞ」
俺は包丁を肩に担ぎ、歩き出した。
振り返らない。
もし彼女がここに留まるなら、使い物にならない。
ついて来るなら、俺のものだ。
「この泥の中で腐って、怪物として死にたいなら、ここにいろ」俺は肩越しに言った。
「だが、もしその『呪い』を、神をも震え上がらせる武器に変えたいのなら……鼻水を拭いて、ついて来い」
俺は5歩歩いた。
6歩。
7歩。
背後で、音がした。
*ズズッ。*
ボロボロの袖で鼻水を拭う音。
そして、水音。
小さな裸足が、泥の中を走る音。
「待って!」
俺は立ち止まった。ニヤリと笑う。
俺は振り返る前に、顔を無表情な仮面に戻した。
少女はそこに立っていた。顔はまだ泥と涙で汚れている。震えている。未来を恐れている。
だが、彼女はもう死んだ花を見ていなかった。
俺を見ていた。
「私……」彼女は小さな灰色の拳を握りしめ、どもりながら言った。「私……お腹空いた」
それは英雄の誓いではなかった。忠誠の宣言でもなかった。
「生きたい」という、単純な告白。
それで十分だ。
俺は頷いた。
「なら来い、エルフ。遅れても背負ったりしないぞ」
「名前……」彼女は囁いた。「私の名前、リサンドラ。リス」
「いいだろう、リス」俺は霧の方へ向き直った。「俺の名はカインだ。食物連鎖へようこそ」
彼女は俺の後を追って走り出した。短い足で、俺の歩幅に合わせようと懸命に動く。
彼女は自分の手を見たあらゆるものを殺してきた手を。
それから俺の背中を見た触れても死ななかった唯一のものを。
生まれて初めて、彼女は自分が「間違い」だとは感じなかった。研ぎ澄まされるのを待つ「武器」だと感じた。
霧が俺たち二人を飲み込んだ。
怪物と、疫病。
沼地に、新たな捕食者コンビが誕生した




