表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/17

# 第11章:毒の弟子

# 第11章:毒の弟子


**年齢:8歳場所:霧の沼地(ゾーン2)**


この沼地は、許さない。憐れまない。ただ消化するだけだ。

王国の人々にとって、霧の沼地は「緑の地獄」だ。騎士たちは泥にブーツを奪われ、ヒドラに命を奪われる。地図製作者たちが詳細を書き込むことを恐れる、化膿した傷跡のような場所。


だが俺にとっては、聖域サンクチュアリだった。

ここの空気は硫黄と、腐った植物と、オゾンの臭いがする。普通の人間には吐き気を催す悪臭だろう。だが俺には、好機チャンスの匂いがした。


俺は**ゾーン2**の茂みの中を移動していた。足音は立てない。

俺はもう8歳になっていた。

もし父が今の俺を見たら、泣き出すかもしれない。彼が覚えている柔らかく太った幼児はもういない。その代わりにいるのは、野生の獣だ。

俺は上半身裸で、猪の革を継ぎ合わせたズボンだけを履いている。肌は青白い永遠の霧が日光を遮るせいで、不健康な幽霊のような白さになっている。髪は黒く長く伸び、カーテンのように目を覆っていた。

だが、その青白い肌の下にあるのは、鋼のワイヤーのような筋肉だ。

すべての筋肉が張り詰め、すべての骨は**『天魔骨鍛造てんま・こつたんぞう』**によって一度砕かれ、再構築され、鉄よりも高密度になっていた。


*ズリュ。*


俺は腐った丸太を跨いだ。

前方で、**スワンプ・クロコダイル**が有毒な粘液の中で日向ぼっこをしている。ランク2の魔獣。全長5メートル、矢を弾き返す鱗を持つ怪物だ。

奴は俺に気づいていない。

俺はマナを使っていない。「殺気」も出していない。

ただ沼の一部として存在しているだけだ。影の中の影。


俺は**『名無し(ネームレス)』**巨大な黒鉄の包丁の柄を握った。重く、醜く、錆びついている。英雄の武器ではない。屠殺人の道具だ。


*(効率だ)* 俺は自分に言い聞かせた。*(戦闘にカロリーを浪費するな。始まる前に終わらせろ)*


俺は爆発的に飛び出した。

**『無影歩』**。

足元の泥は跳ねず、わずかに沈むだけだ。20メートルの距離を瞬きする間に詰める。

ワニの黄色い目が開いた。

遅い。


俺は包丁を振り回さなかった。体重と重力、そして慣性を利用して、その重い長方形の刃を真下に叩き落とした。

*ドゴォッ!*

包丁は切断しなかった。粉砕した。

刃は爬虫類の頭蓋骨を貫通し、脳髄を破壊し、その下の泥に深く突き刺さった。

魔獣は一度だけ痙攣した。そして、動かなくなった。


沼に静寂が戻った。

俺は死体の上に立ち、呼吸を整えた。心拍数は上がってすらいない。

「弱い」俺は呟いた。

湿った吸引音と共に、刃を引き抜く。

俺は膝をつき、死体の胸部を切り開いた。内臓と胆汁の悪臭を無視して手を突っ込む。緑色の血にまみれた手で引きずり出したのは、心臓だ。

スイカほどの大きさがあり、まだ微かに脈打っていた。


俺はワニの死体の上に座り、生の心臓にかぶりついた。

金属的で、ひどい味がした。だが肉が胃に落ちた瞬間、馴染みのある熱いエネルギーが広がるのを感じた。**『原初の肉体プライモーディアル・フィジーク』**が生命力を分解し、魔獣のエッセンスを俺自身の「気」へと変換していく。


俺はゆっくりと噛み砕きながら、灰色の霧を見つめた。

孤独な生活だ。

もう1年も人間と話していない。

時折、正気を失いつつあるのではないかと疑うことがある。だが、家族の顔を思い出すたび、孤独は消え去り、冷たく燃える忍耐が取って代わった。


*(もっと強くならなければ)* 俺は軟骨の塊を飲み込みながら思った。*(ランク2程度では足りない。10歳になる前に、基礎構築ファウンデーションの領域に到達しなければ)*


ふと、俺は噛むのをやめた。

凍りつく。

沼は騒がしい。カエルが鳴き、虫が羽音を立て、水滴が落ちる音がする。

だが、そこにあるはずのない音が混じっていた。


*グスッ……。*


すすり泣く声。

セミの鳴き声にかき消されそうなほど微かだが、純粋な悲惨さに満ちた、しゃくりあげるような音。


俺は目を細めた。

*(罠か?)*

セイレーン・スパイダーのような魔獣は、人間の泣き声を真似て獲物を誘うことがある。

俺は口元の血を拭い、立ち上がった。マングローブの影と同化し、音の方へと移動する。


巨大なシダの葉を押し分けた。

そして、泥だらけの小さな空き地で、俺はそれを見つけた。


魔獣ではなかった。

少女だった。


俺と同じくらいの年齢か、あるいは一つ下だろうか。

彼女は黒い泥の水たまりの中に座り込み、膝を抱えていた。

**ダークエルフ**だ。

肌は灰の色深く、暗いグレー。耳は長く尖っており、すすり泣くたびにピクピクと動いている。髪は薄汚れた白で、泥がこびりついていた。

骨が浮き出るほど痩せこけた体には、ボロボロの布切れしか纏っていない。


だが、最も異様なのは彼女の周囲の空気だった。

彼女の近くにあるものは、すべて死んでいた。

彼女が座っている草は黒く変色し、水たまりの水は泡立ち、有毒なガスを放出している。


彼女は手に何かを持っていた。

花だ。青いスワンプ・リリー(沼百合)。

彼女はそれを泥に植え直そうとしていた。その手は震え、涙が頬を伝って花びらに落ちていく。

「お願い……」彼女はひび割れた声で囁いた。「お願い、死なないで……ごめんなさい……ごめんなさい……」


俺が見ている前で、彼女の涙が花に落ちた。

涙は水ではなく、酸のように作用した。青い花びらは灰色に変わり、黒く腐り、最後には塵となって崩れ落ちた。

花は彼女の手の中で死んだ。


彼女は泣き叫んだ。それは希望を捨てた生き物の声だった。

「なんで?!」彼女は自分の手に向かって叫んだ。「なんで私が触ると全部壊れちゃうの?!」


俺は影の中から彼女を見ていた。

憐れみは感じなかった。憐れみは無駄な感情だ。憐れみで腹は膨れないし、刃も研げない。

俺が感じたのは、**興奮**だった。


俺は**『霊視』**を発動した。

見えた。

彼女の体内で渦巻く紫色のエネルギー。無秩序で、暴力的で、圧倒的な質量。それが彼女の毛穴から漏れ出し、世界を毒している。

**『天陰毒体てんいん・どくたい』**。俺は即座に特定した。

武林において、これは七大体質の一つだ。弱者にとっては呪いだが、強者にとっては神ごとき才。正しく修練すれば、その血一滴で都市を滅ぼせる。


*(磨けば光る原石だ)* 俺は顔に笑みが広がるのを感じた。*(無知な者たちに捨てられた宝。俺には最適だ)*


俺は影から歩み出た。

優しくしようとはしなかった。重く、意図的な足取りで近づく。

*バシャッ。バシャッ。*


少女の顔が弾かれたように上がった。

血にまみれ、巨大な包丁を持った人間の少年を見て、彼女の大きな紫色の瞳が恐怖で見開かれる。

彼女は泥を跳ね上げながら後ずさりした。

「あ、あっち行って!」彼女は叫んだ。「来ないで! 壊れちゃうよ! 私が触るとみんな死んじゃう!」


俺は止まらなかった。近づいていく。

俺の赤い瞳は鈍く濁り、感情を見せていない。ゾンビのように見えただろう。


「近づかないで!」彼女は俺から守ろうとするように、自分の手を掲げて叫んだ。「私は呪われてるの! 逃げて!」


俺は彼女の前で立ち止まった。

俺は花があった場所を見下ろした。

今はただの黒い汚泥の山だ。

俺は足を上げた。

*グシャッ。*

俺は花の残骸を踏みつけ、泥の奥深くへと押し潰した。


少女は息を呑んだ。その行為の残酷さが彼女を打ちのめした。

「なんで……」彼女は震えた。「なんでそんなことするの?! 痛がってたのに!」


俺は冷淡な無関心さで彼女を見た。

「それはもう死んでいる」俺は平坦に言った。「お前が殺したんだ」


その言葉は物理的な打撃のように彼女を襲った。

彼女は崩れ落ち、膝に顔を埋めた。

「わかってる!」彼女は再び泣き出した。体は激しく震えている。「わかってるよ! ごめんなさい! 私は怪物なの! 生きてちゃいけないんだ……死ねばいいんだ……」


俺はため息をついた。

*(哀れだな)*

だが、必要だ。鋼を鍛えるには、まず溶かさなければならない。彼女は既に溶けている。あとは型に流し込むだけだ。


俺は彼女と目線の高さを合わせるようにしゃがみ込んだ。

ハンカチは差し出さない。頭も撫でない。

俺は手を伸ばし、腐敗した黒い泥をひと掴みした。


「この泥を見ろ、エルフ」俺は言った。

彼女は指の隙間から、混乱した様子で覗き見た。

「臭いだろう」俺は続けた。「汚い。腐乱死体や排泄物、腐敗の塊だ。人々はブーツを汚さないように避けて通る」


俺は拳を握りしめた。黒い汚泥が指の間から滲み出し、水たまりへと滴り落ちる。


「だが知っているか?」俺は囁いた。「最も美しい蓮の花は、清らかな水の中では育たない。綺麗な水では死んでしまう。蓮はこの汚泥を必要とするのだ。腐敗を食らい、弱者の死体を乗り越えて、太陽へと手を伸ばす」


彼女は俺の手から落ちる泥を見つめていた。


俺は地平線を指差した。

枯れ木の隙間から、遠くに**王都**の微かな白い輝きが見えた。


「あの貴族どもは……」俺は嘲笑った。「白い城に住む『天才』どもは、温室で育った花だ。綺麗な水を与えられ、風から守られている。ああ、綺麗だろうさ」

俺は彼女に向き直った。

「だが屋根を取り払えば……最初の嵐で引き裂かれて死ぬ」


俺は手を伸ばした。

彼女の手を掴む。


「ダメ!」彼女は叫び、手を引こうとした。「やめて! 死んじゃう! 私の肌は」


彼女は俺の肉が腐るのを予想していた。両親がしたように、村人がしたように、俺が恐怖に叫び、後ずさるのを待っていた。

だが俺は離さなかった。

俺は**『天魔の気』**を循環させた。俺のエネルギーが掌を覆い、見えない防壁となって毒を弾くだけでなく*貪り食った*。

俺にとって、彼女の致死の接触は涼しい風のように感じられた。


俺は彼女の手を強く握り、無理やり俺を見させた。

「俺を見ろ」俺は命じた。


彼女は見た。紫色の瞳は混乱で泳いでいた。なぜ腐らないの? なぜ逃げないの?


「破壊するから自分はゴミだと思っているのか?」俺は優しく尋ねた。

「愚かな小娘だ。破壊こそが、最も純粋な力だ」


彼女は息を止めた。


「奴らには『生』と『癒し』を持たせておけばいい」俺の声には確信が満ちていた。「愛させてやればいい。称賛させてやればいい」

俺は顔を近づけた。

「奴らが光の中で遊んでいる間に、お前は奴らが決して治せない『疫病』になれ。温室を粉砕する『嵐』になるんだ」


一瞬、俺の瞳が閃いた。

受動的な鈍い赤ではない。天魔の、燃えるような、暴力的な**深紅**。

殺気が俺から溢れ出し、周囲の霧を切り裂いた。


「枯れた雑草のために泣くのはやめろ」俺は言い放った。「世界がお前を拒絶するなら、お前も世界に義理立てする必要はない」


彼女は俺を見つめ、魅入られていた。

誰も彼女にこんなことを言わなかった。みんな「気をつけろ」と言った。「隠れろ」と言った。「本性を抑えろ」と言った。

この人間の少年は……解き放てと言っている。


「受け入れられることを望むな」俺は言った。手を離す。「奴らに、お前の存在を耐え忍ばせろ」


俺は立ち上がった。

手の泥をズボンで拭う。

俺は彼女に背を向けた。


「俺は飯を食う」俺の声は退屈な無関心さに戻っていた。「ワニの肉が残っている。生だし、不味いぞ」


俺は包丁を肩に担ぎ、歩き出した。

振り返らない。

もし彼女がここに留まるなら、使い物にならない。

ついて来るなら、俺のものだ。


「この泥の中で腐って、怪物として死にたいなら、ここにいろ」俺は肩越しに言った。

「だが、もしその『呪い』を、神をも震え上がらせる武器に変えたいのなら……鼻水を拭いて、ついて来い」


俺は5歩歩いた。

6歩。

7歩。


背後で、音がした。

*ズズッ。*

ボロボロの袖で鼻水を拭う音。

そして、水音。

小さな裸足が、泥の中を走る音。


「待って!」


俺は立ち止まった。ニヤリと笑う。

俺は振り返る前に、顔を無表情な仮面に戻した。


少女はそこに立っていた。顔はまだ泥と涙で汚れている。震えている。未来を恐れている。

だが、彼女はもう死んだ花を見ていなかった。

俺を見ていた。


「私……」彼女は小さな灰色の拳を握りしめ、どもりながら言った。「私……お腹空いた」


それは英雄の誓いではなかった。忠誠の宣言でもなかった。

「生きたい」という、単純な告白。

それで十分だ。


俺は頷いた。

「なら来い、エルフ。遅れても背負ったりしないぞ」


「名前……」彼女は囁いた。「私の名前、リサンドラ。リス」


「いいだろう、リス」俺は霧の方へ向き直った。「俺の名はカインだ。食物連鎖へようこそ」


彼女は俺の後を追って走り出した。短い足で、俺の歩幅に合わせようと懸命に動く。

彼女は自分の手を見たあらゆるものを殺してきた手を。

それから俺の背中を見た触れても死ななかった唯一のものを。


生まれて初めて、彼女は自分が「間違い」だとは感じなかった。研ぎ澄まされるのを待つ「武器」だと感じた。


霧が俺たち二人を飲み込んだ。

怪物と、疫病。

沼地に、新たな捕食者コンビが誕生した

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ