**第10章:黄金の檻**
**第10章:黄金の檻**
**時間経過:1年後年齢:エレナ(6歳)、カイン(8歳)場所:王都ルミナ、王宮**
兄が死んでから、1年が経った。
いや、兄が「行方不明」になってから、と言うべきか。
父は兄が生きていると言い張る。母は雨が降るたびに泣く。
けれど、私はもう泣かない。涙は塩と水だ。水分を失うのは非効率的だ。
*彼*ならそう言うだろうから。
私は姿見(全身鏡)で自分を見た。
私は6歳だ。
小さな村が一つ買えるほど高価なドレスを着ている。白絹に金糸の刺繍、そして重苦しいほどのレース。
髪は完璧に巻かれ、顔には白粉がはたかれている。
人形のようだ。高価で、壊れやすい人形。
「お美しいですよ、エレナ様」メイドが首元のリボンを直しながら言った。「王太子殿下もお喜びになるでしょう」
私はドレスの内側に隠されたポケットに触れた。
中には、小さく、石のように硬くなった乾燥マムシの肉が入っている。私のお守り。私の錨。
*『仮面を被れ、エレナ』* にーにの声が頭の中で響いた。*『世界は舞台だ。素顔を見せれば食い殺される。捕食者のように笑うんだ』*
私は深呼吸をした。
完璧で、無垢な笑顔を顔に貼り付ける。
「ありがとう」私は鈴を鳴らすような声で言った。「パーティーが待ちきれないわ!」
---
**【大広間】**
扉が開き、伝令官が叫んだ。
「聖女候補、ご入場! ヴァレリウス家のエレナ嬢!」
私は舞踏会場へと歩み入った。
数百人の貴族が一斉に振り返る。宝石とベルベット、そして偽りの笑顔の海だ。
「あれが、例の娘か」彼らはささやいた。
「金の卵だ」
「教会が首輪を握っているらしい」
「兄の方は『ゴミ』だったんだろう? 清々したな」
私は彼らを無視した。王族が座る壇上へとまっすぐ歩く。
**ローランド王**は疲れた様子でワインを回していた。**イザベラ王妃**は冷たい計算高い目で私を見ていた。彼女は子供を見ているのではない。政治的資産を見ているのだ。
そして、そこにいたのは子供たち。この大陸の未来の支配者たちだ。
一人目、**ユリウス王太子(10歳)**。
彼は王のように見せようと背筋を伸ばして座っていた。金髪で、「ノー」と言われたことのない少年の傲慢な笑みを浮かべている。
彼は私を見て、舌なめずりした。
「誕生日おめでとう、エレナ」彼は立ち上がって言った。「君は……僕の隣に立つに相応しいようだ」
*(相応しい?)* 私は思った。*(私はアクセサリーじゃないのよ、このクソガキ)*
だが表面上、私はカーテシーをした。「光栄ですわ、殿下」
二人目、彼から離れた場所に座り、退屈しきっているのは、**第一王女エララ(13歳)**。
彼女は異質だった。
正装のドレスを着ているが、裾からはコンバットブーツが見えている。手は腰に下げたレイピアの柄に置かれていた。
銀色の髪と、鋼のような瞳。**『剣の天才』**。
彼女は私を見て、それから私の手を見た。指にある(秘密の訓練による)マメに気づいたのだ。
彼女はニヤリと笑った。本物の笑みだ。
「握力はマシになったようだな、聖女様」エララは気だるげに言った。「だが構え(スタンス)が甘い。今私がフォークを投げたら、お前は死ぬぞ」
「エララ!」王妃が叱責した。「行儀良くなさい」
三人目、エララの隣に立っているのは、客人だ。
翡翠色の髪と優しい瞳を持つ少女。**ヴァーダント王国のあまら王女(13歳)**。
精霊術師だ。彼女は柔らかく、悲しげな表情で私を見ていた。
「彼女の魂が泣いてる」アマラはエララにささやいた。「すごく重い……」
エララは目を回した。「誰の魂だって泣いてるさ、アマラ。タルトを取ってくれ」
---
**【対立】**
音楽が始まった。
ユリウス王太子が私に歩み寄った。彼は手を差し出した。
「踊ろう、エレナ」
それはリクエストではない。命令だった。
もし彼と踊れば、ヴァレリウス家は王太子の派閥を支持するというシグナルを貴族たちに送ることになる。私は彼に縛り付けられる。
私は彼の手を見た。
彼が大嫌いだった。彼は弱い。羽根ペンより重いものを持ったことのない、柔らかい手だ。
私がまだ幼児で、起きている時間のすべてをにーににしがみついて過ごしていた頃、私は理解していなかった。兄とはそういうものだと思っていた。
でも今は? 王国の「神童」と呼ばれる子供たちに囲まれている今、私は恐ろしい真実に気づいてしまった。
彼らを兄と比べるなんて、冗談にもならない。
にーにの体は……彼がまだたった3歳の時でさえ……その腕は柔らかい肉の感触ではなかった。絹で包まれた岩のようだった。筋肉は鉄のワイヤーのようだった。
あの頃、彼を抱きしめるたび、私は温もりだけを感じていたわけではない。彼の奥底にある何かを感じていた。何か暗いものを。静かで、恐ろしい、終わりのない深淵を覗き込むような何かを。
もちろん、当時はそれが何なのかわからなかった。けれど訓練を始め、エネルギーを感じ取る方法を知った今ならわかる。
人々は私を天才と呼ぶ。高位の司祭たちが何十年も祈ってようやく得るような膨大な聖なるマナを、生まれつき持っているから祝福されていると言う。誰よりも強力な存在になると言う。
でも、彼らは間違っている。
私は王太子を見た。他の貴族の子供たちを見た。彼らはただの人間だ。
私の兄は……全く別の何かだった。
誰もが彼をゴミと呼んだ。けれど今、覚醒した感覚を持ってここに立つ私には、真実がわかる。
彼はゴミなんかじゃない。彼は人の皮を被った怪物だ。
そして、にーになら、この王太子を枯れ枝のように真っ二つにへし折っていただろう。
「恐れ入りますが、殿下」私は胸を押さえ、咳き込むフリをした。「今日は……体調が優れないのです。聖なるエネルギーが強すぎて……」
ユリウスは眉をひそめた。「僕を拒絶するのか?」
「殿下のブーツの上で気絶するのを拒絶しているのですわ」私は愛らしく微笑んだ。「殿下の素晴らしいベルベットを汚したくありませんもの」
ユリウスの顔が赤くなった。彼は一歩近づき、声を落とした。
「駆け引きはやめろ、エレナ。君は王国のものだ。つまり、君は『僕』のものだということだ。16歳になったら、君と結婚する。教会は既に事前協議に同意しているんだ」
血の気が引いた。
結婚? この豚と?
怒りがこみ上げてきた。
突然、影が私たちを覆った。
**エララ王女**が割って入ったのだ。
彼女は弟よりも背が高く、強く、そして無限に怖かった。
「下がりな、ユリウス」エララは彼の胸を小突いた。「彼女は6歳だぞ。必死すぎてキモいぞ」
「姉上には関係ないだろ!」ユリウスが怒鳴った。
「デザートテーブルを塞いでるなら関係あるね」エララは気だるげに言い、私を見下ろした。
「おい、ガキ。聖女様。なんでもいいが」
彼女は顔を近づけた。
「私の弟はバカだ。だが一つだけ合ってる。お前は道具だ。利用されたくなければ……研ぎ澄ませ」
彼女は剣の柄を叩いた。
「政治なんてのは、言葉を使った戦争に過ぎない。斬れなきゃ、斬られるだけだ」
私はエララの鋼の瞳を見つめた。
彼女は、ほんの少しだけ *彼* を思い出させた。
「わかります」私は囁いた。
エララはニヤリとした。「よろしい。さあ座ってな。誰かに噛み付きそうな顔だぞ」
---
**【一方:沼地にて】**
**場所:霧の沼地(ゾーン2)カイン:8歳**
エレナがクリスタルのシャンデリアの下で踊っている間、俺は泥の中で踊っていた。
*ズリュ。*
俺は**ランク2・スワンプクロコダイル**の胸郭から足を引き抜いた。
全長5メートルの巨大な魔獣だったが、今やただの肉塊だ。
俺は沼の中心に立っていた。緑色の血と黒い汚泥にまみれて。
上半身は裸だ。体は小さいが、高密度の、鋼のような筋肉で覆われている。肌は青白く、半透明に近いが、**『骨鍛造』**の技術によって硬化されている。
黒髪は長く伸び、乱雑に目を覆っていた。
瞳は闇の中で深紅に輝いていた。
片手には**『名無し(ネームレス)』**(包丁)を握っている。
もう片方の手には、クロコダイルの心臓を持っていた。それはまだ脈打っていた。
*(誕生日おめでとう、エレナ)*
俺は思った。
俺は心臓を月に向かって掲げた。
「乾杯だ」俺は何もない、有毒な空に向かって囁いた。「生き残るために吐く嘘にな」
俺は心臓にかぶりついた。生で。
熱が丹田に溢れ出した。
俺は拳を握りしめ、力が骨髄に定着するのを感じた。
ついに**ランク2の極に到達したのだ。
俺の気功修練**は**第3段階**で固まった『骨鍛造』は完了だ。俺の骸骨は今や、鉄よりも硬くなっていた。
俺は口を拭った。
俺は沼のさらに奥、**ゾーン3**の方角を見た。
霧が渦巻き、密度と毒性を増している。その奥深くで、より強力な魔獣たちが待っている。
「稼ぎ時だな」俺は虚空に向かって囁いた。
俺は闇の中に一人だった。
だが、俺は闇の方が好きだった。光と違って、闇は嘘をつかないから




