表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界転生した寿司職人ですが、神の包丁で魔王の呪いごと捌いてやります ~女神様は俺の寿司の虜ですが何か?~  作者: 小宮めだか
1章 凍てついた世界

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

7/9

女神シャウザ・ニーク

 洞窟の奥に俺は足を進める。

 でも自分の意思とは明らかに違うという感覚。

 腰の包丁から、なにか別の大きな思考を感じている。

 この先にお前の求めるものがあるっていう直感めいたもの。


「俺はこの世界で寿司を握るんだ……それが調和につながり……壊れかけた理を元に戻す」


 自分の意思とは無関係に、口の中から紡ぎ出されるその言葉。

 フラフラと歩き続けた先に現れたのは、澄んだ光を称える泉。

 キラキラと泉から発せられる光が周囲に反射し、まるで教会のステンドグラスのようにきらめていている。


「シャウザ・ニーク様の神託の泉が光り輝いている!? まさか……」


 シャウザ・ニーク? 

 俺のぼやけたような頭の中で、洞窟内に反響したフィリナの言葉が何度も駆け巡った。

 その名前は……覚えている。

 いや、覚えているのは俺じゃない。

 この焔刃が覚えているんだ。


「そうさ、相棒。そうやって創元の足跡を辿るんだ。そうすれば、この世界の理がだんだんと姿を現すんだ」


 グリューンが俺の肩の上で、得意げに話す。

 泉の水面が、大きく黄金色の光を放ち始める。


「……ものすごい魔力(エルナ)反応!! 桁違いよ!」


 エレノールが反射的に持っている短杖(ワンド)を構え、詠唱の準備をし始める。

 鞄から顔を出したミンミの黒目が大きく広がっていく。


「祈りを!」


 フィリナがその場に片膝をつき、拳を胸に当てて祈る。

 グリューンが俺の肩から、泉の側に我先にと飛びついた。

 その後を追うようにして、泉のすぐ前で立ち尽くす。


『――あまりにも早い』


 頭の中に響き渡る、あの時に聞こえた声。

 そう、『情報処理(スフェア・バイト)』の異能が発動された時だ。

 ケイブベアの情報が流れ込んできた時に聞こえた女性の声と一緒だ。


「ちょっと待てぇ! まさか本当に現れるのかよ!? 女神さまの権限が、この泉にまだ残っているなんてよ!」


 洞窟内の、何百年も凍り付いていたような空気が揺れ動くような気配。

 泉から発せられる光が更に強まった。

 それは天井の氷に乱反射し、鳴るようにし光の粒が俺達に降り注いだ。


 水面から、ひとりの女性の影が立ち上がってくる。

 透き通るような美しい肌の女神。

 半透明の衣が、風もないのに静かに揺れ動いている。

 肩には2匹の蛇が絡まり、瞳が黄金色に激しく輝く。

 そこに映るは歓喜か驚きか。


「経典に書かれた姿と一緒! 大いなる選択の女神シャウザ・ニーク様!」


 フィリナが深く頭を垂れる。

 エレノールも目の前に突然現れた女神の姿にくぎ付けとなる。瞳の中に映る魔法陣のようなものが、色鮮やかに光り輝いている。


『創元の気配を感じます……彼はどこに?』


 今度は俺の頭の中だけじゃない。その場に居る全員にはっきりとその言葉が伝わった気配。それは女神の言葉に、全員が顔を上げたのが分かったからだ。

 心臓がドクン! と跳ね上がるような音を立てる。


「どうして師匠の名前が出てくるんだ。いったい、創元師匠はこの世界で何をしたんだ」


 フィリナもエレノールも何も言わない。

 グリューンすらも。

 女神が射抜くような視線を自分に送ってきている。

 その奥には懐かしさと、わずかな思慕(しぼ)の念。喜びの涙を帯びているようだ。


『あなた……トラジというのね。トラジの中に彼の光を感じるの。創元が残した七包丁のひとつ――焔刃(えんじん)。この世界に戻ってこれたのね』


 その場の全員の視線が、俺の腰に下がったケースに入っている包丁に注がれる。

 おそるおそるそれを取り出し、女神の前に掲げるようにして差し出す。

 途端、大きな炎の剣に変質する神機。

 渦を巻くようにして、炎が爆ぜるような音を立てる。

 その焔刃の光が女神の瞳と重なり、洞窟内は朱に染まった。


『創元はこの世界を創り、去ってしまった……しかし私は、彼がまたこの世界に戻ることをずっと願っていたのです』


 女神シャウザ・ニークの声は静かに震えている。

 フィリナが魅入られたように思わず手を伸ばす。


『長き永劫の日々。待つのは疲れ果てましたが、私はまだ彼を忘れてはいない。けれど、この世界は彼の愛を知らぬままに理が歪められてしまっている』


 水面が少しずつ波打ち始める。

 冷たい風が吹きつけてくる。

 その時、グリューンの悲しそうな表情に気付く。3本の指を器用に組み、沈むような視線を女神に向けている。


『この地の凍りの理が乱れています。ヒサメはかの者に魅入られてしまった――魔王レイカに。孤独が凍りを呼び、凍りが命を蝕もうとしている』


 魔王レイカという言葉を聞いた瞬間、フィリナとエレノールの表情が固まり、恐怖が前面に押し出てくる。

 手の中にある炎が大きく弾ける。それは魔王の名に挑むかのような勢いだ。


「レイカ……?」


 その名を繰り返した。

 右手に握られている包丁からはっきりと伝わってくるその名。

 焔刃から立ち上る、激しく感情的な波動。そこから伝わるのはどこか懐かしさを覚える、遥か昔より忘れられずに、燃え盛っているような熱とでも言えばいいのか。


『かの者は……創元の理に最も近い者。炎が創造ならば、彼は模倣(もほう)。けれど、どちらも同じ祈りから生まれしもの』


 言っていることが抽象的過ぎて、全く分からない。


『トラジ……どうかこの世界を握り直して。あの時、創元があたしたちに初めて寿司を振舞ってくれた時のように……理を元ある形に変えてもらいたいの』


 シャウザ・ニークの身体が光に解けていく。

 その姿はまるで、太陽が沈む瞬間だけ速度が加速するかのような儚い時間。

 朝露が消えゆくような淡くもろい、それでいて柔らかい刹那。


『いつでも私は貴方を見守っていますよ、トラジ。そしてグリューン、導き手となるあなたに暫し彼を託します。いつの日かトラジの寿司を食べさせてくださいね』


 最後にそうささやいて、女神シャウザ・ニークはその場から消え失せた。

 フィリナの恐れ多いような表情。

 グリューンの目の端からこぼれているのは涙か。

 エレノールは……言わないでおこう。あまりにもこの場にそぐわなすぎる。


 洞窟内に残されたのは、静寂と泉の優し気な光だけだった。

 焔刃が小さく脈打ち、手の中で温もりだけを放っていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ