真意
(いつまで魔力茸の力が持つかは分からない。高まった最大限の魔力で一気に叩く!)
焔が吠えた。
雪原を薙ぐ凍てつく力と、春の息吹を思わせる全てを溶かす力。
俺は軸足に力を入れると一気に前に飛んだ。
攻撃こそ最大の防御。
左手に煌めく凍りの大剣を軽々と抱えるヒサメ。兄弟子の姿が目の中に鮮明に映る。
ヒサメはそのまま無造作に振りかぶると、突き進む自分に向けて上から薙ぎ下ろす。
神の包丁から恐ろしいばかりの冷気が発せられ、周囲の大気が瞬時に結晶となる。
その魔力を押し切るように、自分の焔刃の高められし焔の魔力で受け止める。
「ハアアア!!」
俺と兄さんは鍔迫り合いをするようにして、近距離で相対する。
普通であればこれだけの大きな長剣だと、一気に間合いに入ってしまえば剣の長さ故にうまく振るえず無力化できるはずだった。
しかしそれは大きな間違いだとすぐに気づかされる。
『そんな簡単にいくと思うな虎次!!』
鍔迫り合いをした刹那。凍凪はあり方を変え、目の前の俺の身体に巻きつくかのようにしなやかにうねっていく。
閉じ込めようと変化する凍凪を振り払うように焔刃で弾き返す。
焔が凍りを掻き砕くように、高く固い音が響き渡る。
右、左と辛うじて躱していく。
摺り足で後ろに飛びのく。
俺が寸前まで立っていた場所を、凍りの触手のような魔力の腕が空を割いた。
「どうして蔵に火を付けたんだ! なぜ俺を……なぜだ兄さん!」
本人を前にしてまだ信じられないという気持ちが動きを若干鈍らせてしまっていることは否めない。
俺と氷雨兄さんの周囲のモンスターたちが、囲むようにして空を舞い襲い掛かってくる。
『拳聖流――息吹の掌』
『獣鋼洛撃斬』
フィオナの拳に込められし魔力が勢いよく軍勢たちに放たれる。それはまるで魔力のマシンガンようだ。その魔力に載せるようにして、大斧を雪原に向かって振ろ下ろすベルガ。
ベルガの筋肉が異常な盛り上がりを魅せる!
雪が割れ、穿たれた大地が飛び出すようにして四散する。
『爆炎障壁』
ドラゴンの背に乗り、金髪から逆巻くような魔力を放つ。
冷涼な空気が震えるほどの魔紋錬成。
完成された魔導は爆炎となり、ヒサメ軍の中央付近で弾け、一瞬で焼け焦げたくぼ地を形成するほどだ。
魔王のような恍惚とした表情で、エレノールがなりふり構わなくなってきているのは明白。あーの魔力陶酔エルフ娘!
「エレノール、ふっざけんな! 危ないだろうが!! 俺達まで消し炭にする気か!」
「うっるさいわね!! この高鳴る魔力、大いなる血潮、たぎる心の臓! 最っ高よ! これを味わわないのは愚の骨頂ね!」
あいつに魔力茸は今後一切口にさせないことを誓おう。
そうそうそこら辺に生えているモノではないはずだけどな。
「トラジ! ふざけている場合か……ヒサメが魔力を練っているぞ!」
ベルガの激が飛ぶ!
視線を戻せば、氷雨兄さんの腕に握られた凍凪が周囲の魔力を吸い取るようにして、空気を結晶化させていく。
まるでそこに何も無いかのような、透き通るような氷柱。
槍状に練られた魔力の周囲に、更に紐ねくように冷気が絡まり合っていく。
「創元師匠はお前を選んだのです。それだけ。そしてそれが一番許せませんでした」
捻り出すようにして出された答えは一番聞きたくなかった言葉。
それだけなのか。
それだけのことで氷雨さんは俺のことを?
別に俺は師匠の後を継ぎたいなんて思っちゃいなかった。
恩を返したいと思っていただけだ。
それは師匠にだけじゃない。氷雨さんに対してだってその気持ちはあったんだ。
高く隆く。
雪原に轟くかと思われるほどの冷たい魔力の潮流。
周囲にいるモンスターたちさえも氷雨兄さんには近寄れない。
憎しみ。叫び。否定。果たせなかった想い。
孤独。
兄さんの感情が一気に俺の心の中にまで迸るようだった。
「虎次に全力を尽くさせた上で、更にそれを凍てつかせる。それだけで私は満足だ」
それだけの為に魔王に魅入られたのか。自分の意志で。
俺のせいなのか。俺が居なかったらこんなことにはならなかったのか。
「詭弁ですヒサメ。その心こそ、創元様が見抜いていたのではないのですか?」
雪原に光を照らすような、凛とした声。
瞳の奥を黄金色に染め、どこか棘のある言葉を発するのはフィリナ。
口調が違う。
発する魔力も明らかに彼女のものではない。
これは――女神シャウザ・ニークの声か!
「相棒! まさかフィリナ嬢ちゃんに女神が乗り移っちまったのか!」
グリューンが俺の頭にしがみ付き、フィリナを見ながら口笛を吹く。
ニヤニヤしているところ見ると、おそらく事情を分かった上で言ってるな。
「トラジ。一時この娘の身体を借りました。わたしの力をお貸します!」




