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異世界転生した寿司職人ですが、神の包丁で魔王の呪いごと捌いてやります ~女神様は俺の寿司の虜ですが何か?~  作者: 小宮めだか
5章 魔王と氷雨古廐・最終決戦

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海棠虎次と氷雨古廐

 この魔力――どこかで覚えがある。

 痺れたような思考の片隅で、沸き立つような熱を感じた。


 情熱。

 人としてのあたたかみ。

 ぬくもり。

 心を通わせる。

 絆。


「虫唾が走るわ」


 そう言って吐き捨てる。

 何を? いったいどこに?

 この世界に降り立った時に自分の目の前に立っていた紫色の髪をした綺麗な少年。

 彼が手を伸ばし、にこやかに笑ったんだ。

 でも目の奥に広がる深淵に、自分に近い物を感じた。

 私はそれだけで彼を信じた。

 ――同じ深淵を視てきたものだという実感だ。

 自分の手の中には冷たく、心の中さえも凍えさせるような包丁が握られていた。

 ナゼ ソコマデシテ トラジヲ オイモトメタノダロウカ


『もう何も考えなくてもいいよ。ボクに全て任せればいい。簡単だろう』


 包丁の声だったのか、それとも。

 今となってはどちらでも良かった。

 自分のことを信じてくれた弟弟子を、一時の感情とはいえ手にかけてしまった。


「氷雨兄さん!」


 虚ろな目を開いた。

 目を開けたのは何日ぶりなのかすら既に記憶には無い。

 固まった頭の中を駆け巡る、かつて自分が持っていた筈の感情。

 寿司に対するひたむきな想い。


 目の前に立っている弟は、初めは何をふざけているんだという印象しか持てなかった。

 しかし少し話すうちに、そのイメージはすぐに氷解した。

 誰彼もを楽しめる術を内に秘めた、それは自分にはない才を感じた。

 確かに技術や質は自分が上であったであろう。

 だが敵わないと直感した。


「虎次ですか。もう私はなにも――なにも覚えていない」


 ただ。そう……ただ。

 手の中の寒気がするような包丁の印象だけが心を支配していく。


「覚えてないわけあるか! 一緒に修行をしたんだ……笑いあって小突き合って、肩を並べて、一緒に師匠に怒られて。そんな時間すら否定するなんて言わせない。絶対に思い出させてやる!」


 ビキビキビキ。

 凍凪。

 我の過去すら全て誘い、凍らせよ。

 誰も立ち入ることは許されない。

 我の心さえも。

 そう私は願った。

 氷雨古廐として命ずる。

 私の願いを解かそうとする熱を排除せよ。

 そうでなければ……私は……


 自分の心とは裏腹に、全てを凍らせたいと願った兄と、自らの熱を持ってして相手を絆し、心を受け止めたいと願った弟。

 この物語はここから始まったのだ。


 ✛ ✛ ✛


『焔化!!!』


 もちろん魔力茸の影響は体内にまだ残っている。さっき食べた焼肉丼でMP残量も補充済みだ。

 自分の中の強い願いが、更なる力を生むことを。

 そして、俺が元居た世界での知識が焔刃の能力を高めることを。

 無意識のうちに悟っていた。


 雪原を真一文字に横に撫でる。

 焼き尽くすような焔が一気に出力される!

 それはこれまでの旅で扱ってきたような焔の勢いとは格が一段階上の力。

 まさにレベルが違った。


『ゴオオオオオ!!!』


 唸るような熱の風圧が、凍える軍勢すら溶かし尽くすような感覚だ。

 光り輝く帯状の焔の軌跡が、まるで焼き鏝を叩きつけるかのように雪原を焼き払った。

 ヒサメ軍の前方。

 アイスウルフや氷で創られたかのような動く獣の姿をした怪物の群れ。

 異形の影として呼びようがない、形の不安定なものたち。

 それらが自分の繰り出した苛烈なる意志の焔の前に、成す術もなく溶け崩れていく。


「なんて力なの! ドラゴン戦の時とは比較にならないじゃない……」


 エレノールの呆気に取られたような声が響く。

 ベルガはまだラベルク村の先を見定めている。

 フィリナが待ちきれずトラジを追いかけドラゴンの背から飛ぼうとした時だった。


「見えた! 遥か南方だ!! 一番隊だ。ジル……いや、団長殿が間に合った!!」


 ベルガの視線の先。雪煙があがる向こうに徐々に形を為し始める軍勢の影。

 総数二千ほどの王国騎士団最大勢力。ジルベニスタ団長率いる一番隊。

 機動力を誇る早山羊――ショルダーベント種の姿が彼方に確認できる。


「力の守護神ボーディ・マウラックよ! 我が斧と白き筋力に力を与え給え!!」


 高らかに神に祈り、魔力を大斧に込めていくベルガ。

 ドラゴンの背に乗ったまま短杖を前に振りかざし、エレノールが導術を奏で始める。

 フィリナの両拳の魔力が天井知らずに練りあがっていく。

 ホワイトドラゴン――エーデルヴァイスが全身を震わせ、大きく息を吸い込んだ。

 それは虚空を歪ませるほどの空気の圧が、エーデルヴァイスの牙と顎の間に生まれるようだ。

 次の瞬間、轟音が響き渡り竜の息吹がヒサメ軍に打ち付けられる!

 凍り付く異形のもの達。

 それと同時にドラゴンの背からベルガとフィリナも飛び降りる。


「聖アルベルト様の御力すら感じ取れるみたい! なんて魔力が練りだせるの」


「フィリナもか。ワシもだ! 短時間とはいえ少し前の自分とは比べ物にならん!」


 その時感じた威圧。

 竜の息吹に飲み込まれたはずの軍勢から発せられる大いなる神の力。

 長く真っ白い直毛。冷え切った瞳の奥から見据える冷涼なる視線。

 ――何か来る。

 それは頭の中で反芻していては間に合わない、それほどの短い時間。


『焔の大盾!!』


 長い……とんでもなく長い凍りの長剣が横に向かって薙ぎ払われた!

 そう、敵も味方も無い。

 全てのものを巻き込んで凍てつかせたんだ。


『ガチィイイイィィィン!!』


 俺の展開した焔の大盾に、凍凪の力が覆いかぶさるようにして飲み込まんとする。

 それは獲物に襲い掛かる獣そのものだった。

 氷雨古廐の持つ神の包丁――凍凪の力が牙を剥いた瞬間だった。


「死に戻るとは笑止といったところ。トラジ、もう一度引導を渡してやりましょう」


 兄弟子の言葉が雪原を空しく彩るかのようにまき散らされる。

 そう、決戦の火ぶたは切って落とされたのだ。




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