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異世界転生した寿司職人ですが、神の包丁で魔王の呪いごと捌いてやります ~女神様は俺の寿司の虜ですが何か?~  作者: 小宮めだか
1章 凍てついた世界

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ヒサメ

フィリナ視点が続きます。

 倒れた黒髪の青年の背中から這い出すように出てきたのは、奇妙な服を着たトカゲ。

 そういえば青年の肩に乗りながら、ぎゃいぎゃいと騒ぎ立てていた。

 やけに真っ黒い眼鏡がずれて外れかけている。

 それがサングラスというのだとは、後でトラジに教えてもらった。


「使い魔なのかな? 使い魔が王国共通(フィーム)語を喋るなんて。うそ!」


 エレノールが驚くのも無理はない。使い魔と聞いて、彼女のカバンの中からミンミが興味深げに顔を出した。

 わたしだって信じられない。

 使い魔は術者と意思疎通はできるけど、他の人と言葉を交わすことは不可能。それは小さい頃、教会の初等科で習ったこと。


「まさか、魔族! 魔王レイカの眷属じゃないわよね」


 エレノールの言葉に、両手の拳に力が自然と入ってしまう。

 いずこから現れ、エリュハルトを少しずつ浸食し始めている紫の髪色の少年。

 レイカ・ヴィルカス。

 それが恐怖とどこまでも続く深淵の名を冠した、魔王の名前だった。


「ま、魔王? をいをい、そんな物騒なもんじゃねぇよ! 相棒のマスコット兼、胃袋警報装置ってところだ!」


「胃袋警報装置?」


 不信感たっぷりの目線を一身に集めているトカゲ。


「どこからどう見てもトカゲね。トカゲにしてはだいぶ大きいけど」


 それが変な派手な服を着て、大袈裟な立ち回りで話しかけてくる。

 ふてぶてしいという言葉がぴったりと合う。

 腕組みをしながら睨みつけるわたしと、面白そうに目を光らせるエレノール。


「オイラはトカゲなんかじゃない! 神の包丁から生み出されし高次生命体ってやつさ! 名前はグリューン・ヒエン。覚えておけぇ!!」


 その小さな胸を精一杯突き出した姿に、エレノールがたまらず噴き出す。

 ミンミが主の笑った声にビクッと反応を示した。

 わたしも目を丸くして、全身の緊張が解ける。

 そのままもう一度、倒れている黒髪の青年に意識を戻す。


「まっさか、気を失ってるトラジから神器を奪うなんて、そんな野蛮なことしねぇよな?」


 グリューンの声に小さくうなづく。

 エレノールは目を逸らすようにして、両手を上に向かって広げる。

 雪の冷気の中でも、焔刃の光はまだ淡く明滅していた。

 きらめく鼓動のように。


「……ん……んん」


 トラジと呼ばれた青年が目を覚まそうとしていた。

 ボーっとした、まだまどろみの中にいるとでもいうような。

 くっきりとした茶色い瞳が印象的。

 年は同じくらいなのかもしれない。


「腹が……」


 腹が? 腹がどうしたんだろう。

 どこか、さっきのケイブベアとの戦いで傷を負ったかもしれない。

 心配をよそに――彼、トラジは一気に身体を起こして大声で叫んだ!


「腹が減った!!! なんか食わせてくれ!」


 起き上がるなり、予想外の一言を放った。

 目が点になる。

 グリューンが彼の肩に飛び乗り、意気揚々と口上を述べる。


「相棒! 低血糖とMP不足だ。まずは座れぇ、静まれぇ!」


「グリューン。さっきからお前のテンションは一体何なんだ。いきなりこんな訳のわからない世界に飛び込んで、殆ど説明すらない俺の気持を考えろ! ってか、なんでこんなにいきなり腹が減っているんだ!」


 目が回りそうになる。

 星流人って、もっとこう厳かというか、カリスマ性というか。

 そういったイメージを持っていたのに。


 その時、遠くの山々が鳴るような音が響き渡った。


 ギャアアアアアアアアアア――!!


 耳をつんざく咆哮。

 これはホワイトドラゴン!

 白き凍りの息を吐き出し、周囲を雪原と化してしまう、魔王眷属の竜。

 地面が震え、雪が崩れ落ちる。

 エレノールが瞳を唸らせ、顔を上げた。


「ヤバい。あの猛々しい凍りの魔力! ヒサメだよ!」


「凍りの魔導具使い! あれが……確かにほとばしる魔力(エルナ)を感じる」


「半年ほど前に突然現れた魔王の配下のひとり、この地域を寒冷化させた力! はわわぁ……あっちの魔力も素敵」


 敵だっていうのに、エレノールは魔力というものに対する頓着がまるでない。

 突然トラジがエレノールの真紅のローブを掴み、その細い体を揺さぶった。


「今、ヒサメって言わなかったか? なんで(あに)さんの名前が……」


 トラジの顔からは明らかに血の気が引いている。

 でも今は、それに構っている暇はない。

 ヒサメに見つかれば、今のわたしたちでは一瞬で全滅の憂き目に合う。

 即座に判断を下す。


「神託の洞窟の中へ! ヒサメに見つかる前に駆けこまないと!」


 エレノールが頷きトラジの腕を取り、三人と一匹は洞窟の奥へと走った。

 だんだんと強くなっていく雪の向こうで、巨大な白い影が空を覆う。

 逃げていくわたしの瞳の端に白いドラゴンが映り、それが大きく口を開けたのがはっきと見えた。

 口内から迸る光線のような竜の息吹(ドラゴンブレス)によって、ビキビキと地面が凍り付いた。


 焔と凍り。

 それは、いずれ再会を果たす、運命の兄弟弟子同士の衝突を予感させるものだった。


次回でフィリナ視点は終り、トラジ視点に戻ります。

もう少し彼女の視点からエリュハルトをお楽しみください。

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― 新着の感想 ―
レイカさま……! イラストを見たときから、もしやと思ってましたが……!! この先が超楽しみです!!
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