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異世界転生した寿司職人ですが、神の包丁で魔王の呪いごと捌いてやります ~女神様は俺の寿司の虜ですが何か?~  作者: 小宮めだか
4章 凍凪とドラゴンと春の精霊と

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破邪魔導~ディスペル・エルナ

『すまぬ。きゃつの、きゃつの力だ! 我を縛りし邪なる力。この地からきゃつが居なくなっても、この呪縛は我の身体を縛り付ける。人たちよ。すまぬ』


 苦し気に身じろぎするホワイトドラゴン。その霜に包まれし凍りついた体毛を苛立たしげに揺らす。

 俺は女神の言葉をかいつまんで皆に伝える。グリューンがぺちんと指を鳴らす。


「そうさ相棒、今のお前だったらたった一つ使える力があるんだぜ。お前の持っている焔刃ならば、それができる。やっちまいな」


「グリューン! お前はいっつもやり方とか教えてくれなくて、ぶっつけ本番のこっちの身にもなれって言うんだ!」


 更なる焔の力を巻き上げるような焔刃。

 俺の手の中でまるで踊るように爆ぜる。

 その神の包丁に貫くような視線を投げるホワイトドラゴン。少し苦しさが和らいだような柔和な光がその瞳に一瞬だけ宿った。


『今代の焔刃の使い手よ。お前の持つ神の包丁の一撃であれば、我とニルフを分かつことも可能であろう。しかしその為には課された呪縛を解き放つ必要がある』


 ホワイトドラゴンは俺の後ろに視線を移す。その視線の先には杖を構えたエレノール。


破邪魔導(ディスペル・エルナ)ね」


 彼女の全身から立ち上る魔力(エルナ)の渦が視認できる程に密度が濃い。

 特に導術を扱う術に長けているエレノールの戦闘能力上昇が大きいはず。


「今のあたしならかなり魔力消耗はするけど、結界を打ち破る『破邪魔導』を扱う事ができるわ! でも術が完成するまでにはだいぶ時間が掛かるの。その時間的余裕を……その鎖がさせてくれるとも思えないけど」


 太古のエルフの呪文の力。

 破邪と言うからには、それで呪縛を解き放つことができると理解していいんだよな。


「その呪文で鎖を消し去って、焔刃の力を使って竜と精霊を引き離すってことだな」


 エレノールが大きく頷く。


「あたしの破邪魔導の錬成時間は少し長くなってしまうわ。魔紋錬成が完成するまで何とかあたしを守って! 高度の集中を要する魔導だから、攻撃を避けることも別のことに対応することもできない。もしも集中が途切れたら、魔導の力が散り散りになってしまうの」


 強い力には高いリスクが伴うってやつか。

 エレノールが呪文を唱え始めたことで、ベルガとフィリナは全てを察する。


「相棒。オイラに任せろ。タイミングは一瞬だ。よっく見極めろよ」


 グリューンのどこかおどけたような声に俺は安心感を得る。

 焔刃を構える左手に力を込める。

 右手はゆっくりと添えるだけ。卵を包んで抱くようにして構える。

 吐く息は細く長く、それだけ集中力が増す。

 自分の吐き出す白い息がそのまま焔の勢いに火をくべるようだ。

 苦し気に首を捩り、のたうち回るように咆哮を上げ続けるホワイトドラゴン。威圧の力がフィリナの祝福の呪文のお陰でだいぶ弱まっているとはいえ、体に掛かる圧はそれでも大きい。


『きゃつの力がまた強まっているのを感じる。我の意識が持っていかれる……口惜しや!』


 その時グリューンが大きく叫ぶ!


「ニルフ、こんにゃろ! なんとか力をふり絞れ!」


 グリューンの言葉に頭の中に流れ込んでくる意識。

 淡い姿を持つ、小さな羽の生えた丸っこいボディの男の子。


「グリューン! オレっち頑張るよ!」


 泣きながら力をふり絞る春の精霊の声が、俺達の耳に確かに聞こえた。


『神の包丁の使い手、星流人よ。トラジというのか。我の意識はもう限界だ……このまま意識が黒い鎖に奪われれば、お主たちを全力で襲うのは間違いない。ニルフを頼んだぞ』


 ドラゴンの瞳が深く仄暗い灰色に沈む。

 俺は焔が具現化されている包丁を強く握りしめる。


「やってやるさ。ベルガ、フィリナ、そしてエレノールが居るんだ。俺は生きて帰って、また皆に寿司を握るんだ。王都にだって行ってみたい! まだまだ見た事のない食材がたんまりあるんだろう。こんなところで死んでたまるかって言うんだ」


 俺の決意表明に口笛を吹くグリューン。

 ベルガは戦闘突入間近だというのに、斧を担ぎあげ大笑いしながら叫ぶ。


「ふん。王都に行って寿司を握るのが目的だと! ばっかもんが。まずはこの場を生き残ることを考えないか」


「俺は大真面目だ。もっとこの世界の美味しい食材を探したい。色々な人たちに俺の作ったものを食べて笑顔になって欲しいんだ」


 その言葉に賛成でもするかのように、大きな焔となって舞い上がる焔刃。

 俺の身体を包み込むようにして、光り輝く。

 まるで女神そのものに守られているかのようだ。


「ええ、王都に行こう。もっとたくさんの美味しい物があるわ。わたしはトラジの作る寿司が好き。あんな美味しい物を知ってしまったら後には引けないんだから!」


 フィリナの気合の掛け声。

 この娘、こんな子だったか。そこまで食欲全開なイメージなかったんだけどな。

 グリューンがケタケタと俺の肩の上で、腹がよじれるようにして笑い転げている。


 しかし、その俺達の間で広がりつつあった春の息吹のような穏やかな時間。

 それは瞬時に塗り替えらえることになる。

 ドラゴンの意識が暗い氷雪の裂け目に向かって堕ちていく。その裂け目より漏れ出るは氷河を突き抜けるようにして吹き抜ける、一陣の凍える矢が射かけられているようだ。

 それは希望や期待といった熱情を冷やし尽くすような風。

 ホワイトドラゴンは青い光を瞳の中に新たに宿し、ゆるりと体を震わせる。

 さっきまでとはまた質の違う、冷たい――芯まで凍えるような大きな咆哮を上げる。

 それは周囲の空気がビキビキと引き裂かれるような竜の威圧。


 さぁ……戦闘開始だ!



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