猛毒の泉を超えていけ
フィリナの警告の声。エレノールも青色の瞳を曇らせる。グリューンは鼻を器用に両手で抑えて、くぐもった声を出している。
「へい相棒。これはやばい、やばいぜ」
そのままブワッと白い煙となって消えてしまう。
「おまえ逃げたんかい。ずるいぞ!」
広間内が独特の黄色い臭気とでもいうべき、小さな花粉状のようなものが舞っているのを感じた。そうあれだ。スギ花粉が漂っているようなそんな感覚だ。
エレノールの瞳が輝く。
「トラジ。この毒素は水の中から出てる!」
ベルガも口を塞ぎながら頷く。俺もその池の真っ青な色で染まった水を気味悪げに見やる。するとエレノールが大きな声を上げる!
「泉の中央! 雑草に隠れて小さく茶色のキノコが生えているのが見えない?」
確かに、俺たちの立っている場所から15メートルくらい先、毒池の中にある小島のような場所、赤黒く変色した草花の側に茶色く小さなキノコの姿が見える!そのキノコから立ち昇る微細な魔力を感じる。
エレノールの瞳の碧色が一層強く輝く!
「あれよ! あの茸こそがあたしの探し求めていたもの! 魔力茸よ!」
その時ベルガがゴホッと大きくせき込んだ! 縮こまるように肩を波立たせてむせ込みに堪えている。
「毒を吸い込んだのか! この場所にずっといるのもまずいんじゃないのか」
『毒性中和!』
フィリナが優しく俺たちに触れる。フィオナが触れたところから温かい力が全身を巡る感覚。少し息を楽そうにして、ゆっくりと深呼吸するベルガ。
「フィリナ。すまんな。ワシも無理が効かなくなってきたのかもしれん」
「ベルガにここで倒れられたら困るの。わたし達の誰が大きな貴方を運ぶっていうのよ」
結構辛辣な事をしれっと言うフィリナ。でも、と優しげな表情になり続ける。
「良かった。毒を少しでも中和できて。わたしの癒しの力はそれ程強く無いので、これ以上の強力な毒素だと太刀打ちできないわ」
「そん時はベルガの隊長さんは、俺の包丁の焔でなんとかしてやるさ」
俺が、拳を握りしめ力強く宣言する。
全くやり方は閃いてはいないんだけど、古代狼の毒素も中和することができたんだ、やり方しだいではなんとかなると楽観している。
その横で苦虫を嚙みつぶしたような表情のエレノールが頬を膨らます。
「この毒素の中じゃ、魔力茸を手に入れられない! 目の前にあるっていうのに……」
その時、突然俺の目の前に展開されるステータス画面。
【魔力茸またの名を輝き茸
『創生の火』から生まれた、太古より存在する魔力属性の高いキノコ。
魔の属性を持つものは近づくことさえできず、触れたところから腐っていきます。
光っている間に採取し、焔刃で炙って食べれば魔力が数日高まる効果有。
自己のレベルに+15することができます。
胞子を保存することでも一定の効果が望めますが、高い導術の技術と希少な保存方法が求められます。
毒の泉は竿化して突破しましょう! わたしも協力しますよ】
「来た! 女神さまからのアドバイスだ!」
俺は大声を上げながら、腰の包丁を引き抜いた。
念じるようにして力を込める!
『竿化!』
包丁は眩い光を纏い、瞬時にその姿を変化させる。
そう。魔法の釣竿という手があったじゃないか。
「焔刃が釣り竿に!? そんなこともできるのか!」
目を白黒させながら、ベルガがあわを食ったように大声で叫ぶ。
リールに手を掛け、竿を何度か振り狙いを定める。
針からキラキラと、星の欠片が降りしきるような魔力に包まれ、俺の目の前で楽しげに揺れていた。
あたかもこれから狙う獲物の軌跡を図るかのようだ。
「くううっ……竿化するの時の魔力の波動が気持ちいいの……」
「そうか。トラジの釣り竿で茸を引っかけて釣りあげようってことね!」
エレノールもフィリナも目を輝かせているんだが、不純な光が目に宿っているのがどっちかは言わないでおこう。
そのまま竿化された焔刃を力いっぱい振りかぶる!
放たれた糸と針は魔力を迸らせながら、まるで意志でもあるかのように的確にキノコの傘の部分に引っ掛かった!
「1発で引っ掛けたわ! よし、レンジ! 一気に引き寄せろぉ!」
エレノールの高い声が広間に反響する。
「投げた俺もびっくりだよ! ここまで意志どおりに動くなんて……すごいを通り越して怖すぎる。女神さまさまだな!」
一気に力強くリールを回した。
同時に糸が天井に向かって高く跳ね上がるようにイメージする。毒池に入ってしまったらせっかくの苦労が台無しだからな。
その想いを正確に反映するように、糸が引っ掛けたキノコと一緒に宙を舞う。キノコからの微細な魔力が弧を描くように空中に飛散し、周囲にあったスギ花粉のような毒素が中和されたようだ。
それは空中をゆっくりと飛翔するように手の中に引き寄せられる。
神々しいばかりの魔力の渦が、キノコから湧き上がってくるかのようだ。
(シャウザ・ニーク、ありがとう。女神さまの意志が竿や針を動かしてくれたんだろ?)
俺の言葉に、包丁の銘は静かに光り輝いていた。




