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異世界転生した寿司職人ですが、神の包丁で魔王の呪いごと捌いてやります ~女神様は俺の寿司の虜ですが何か?~  作者: 小宮めだか
3章 聖なる山に向けて

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二面作戦

 村の広場での宴会も終わりを迎えつつあった。

 笑顔とひと時の勝どき、そして安堵の表情。

 一体感を感じる瞬間はまた格別だった。

 美味しい食事に酔いしれ、しばし時を忘れる。

 それはまた、次の困難へと立ち向かう必要な時間でもあった。


「みんな聞いてくれ」


 ベルガが冷たい風に立ち向かうように立ちあがり声を張り上げる。

 その声には覚悟が灯る。


「ワシはずっと後悔と失望の中にあった。今までのワシの行動は魔王レイカに操られてのものだったのかもしれない。しかし、それは我が心の弱さの露呈でもあった」


 兵士たちや村の人たち。厨房のお姉さま方。

 そして俺とグリューン。フィリナ、エレノール。

 ベルガの次の言葉に耳を研ぎ澄ます。

 彼の白く長い尻尾が大きく揺れた。


「三番隊全滅という現実。それを前にしてこれは夢なのではないか、悪夢であって欲しいという心の隙間。そこを魔王に付け込まれてしまった。ワシ自身が認めねばならない。どこか自分たちの力を過信していたのではないかと」


 うなだれるベルガ。

 誰も何も言わない。

 三番隊全滅という言葉はベルガにとって辛い痛ましい出来事。

 しかし彼はそれを振り切るために、自分の口から言葉を発したのだ。


「今までこの戦線を混乱させてしまい、すまなかった」


 ベルガが深く頭を下げる。

 この先、今の戦いにどう立ち向かうのかという決意を、皆が望んでいた。


「先程の戦いの最中、古代狼よりヒサメ軍がこちらに向けて進軍しつつあるという情報がもたらされた。それでもワシは今一度、ある賭けに出ようと思っている! 星流人トラジと焔刃。それがここにあるならば、ヒサメに一泡吹かせることができると信じている」


 焔刃が静かに笑みを漏らす。

 横でフィリナが強く頷く。

 エレノールは真顔でベルガを見つめている。その瞳には静かに冷たい影が宿る。


「これより反転攻勢に打って出る!」


 ベルガの強い決断。

 心が揺さぶられる。

 雪が彼の思いに炙られ、熱で溶けだすようだ。


 その時であった。

 吹雪に混じるような白いもの。パタパタという羽ばたきの音。

 鳩のような鳥がベルガの元に降り立つ。

 エレノールが小さく呟く。


「あれは『翼の手紙(レター・ニュース)』の魔導。王都からの伝令ね……」


 俺はエレノールを肘で突く。


「トラジは初めて見るのね。あれは、書いた手紙を遠くにいる相手に届けられるように、手紙自体をプルトという鳥に魔法で変化させて飛ばす魔導よ」


「王都からの伝書鳩ってことか。俺の元居た世界だと、飼いならされた鳥に手紙を括りつけて飛ばすんだけどな」


「それだと鳥が敵方に捕まったら情報を取られちゃうし、鳥自体が死んでしまう事もあるわよね。魔導の鳥だから死ぬことはないし、特定の魔力でしか開封できない細工が施されているから、敵方に知られることも少ないのよ」


 自慢げに話すエレノールが何だか面白い。

 するとベルガの手元でプルトが手紙に変化した。

 確かに、あれならそういったリスクが回避できそうだな。

 俺は、ふむふむと感心したような声を出す。


「この知らせを待っていたのだ」


 ベルガの瞳に強い光が宿る。


「みんな、朗報だ! たった今、王国騎士団一番隊から連絡が入った。あと三日ほどでこのラベルク村に援軍が到達する!」


 兵士たちや村人たちの顔に光が差し込む。


「一番隊が! ジルベニスタ団長の部隊だ」


「これで戦況が覆せるぞ……ヒサメの奴め、これで終わりだ」


「ザイール・ファルナート! ジルベニスタ団長に栄光あれ!」


 時の声があちこちから上がる。

 ジルベニスタか、どこかで聞いた気がする。どこだったか。


「相棒。ベルガを調べた時に出てきた名前だろ確か。義理の息子だとかなんとか」


 グリューンが囁く。


「そうだよ、思い出した。なんだかホント複雑な事情抱えてそうだよな、ベルガって」


 手紙を握りつぶし、ベルガは愛用の粉砕の大斧を右手に持つ。

 それを空に突き立てるように掲げた。


「ザイール・ファルナート!! 勝機はこちらにある! 我らには神の包丁と星流人トラジ、更には最強の一番隊が後方に控えてくれている。戦神ボーディ・マウラックの加護が我らの元にあると思え!」


 二面作戦。

 エレノールの提案していた話に乗るということだ。

 ベルガが作戦について語り始める。

 ヒサメ軍が行進してきている隙をつき、少数精鋭で空いた敵陣に突入し、貴重な魔力茸を奪取。反転し後方からの援軍である一番隊との挟撃を図る。


(そううまくいくのか。神の包丁である焔刃とエレノールの情報頼みのこの作戦。一抹の不安はどうしてもある)


 そうは思うが、やるしかない。

 ヒサメが兄弟子なのか。それすらまだ俺にはわからない。

 だが、なんだろう。

 この包丁から感じるもの。

 運命がつながっているという感覚。

 おそらく俺の勘が当たっている。


 ヒサメは間違いなく兄さんだ。

 蔵に火を付けて、創元師匠を断じた氷雨古廐(ひさめこうま)

 なぜそんなことをしたと問いただしたい。

 俺だけならいい。

 師匠の想いすら踏みにじった兄さんの真意を問いたいんだ。

 その為に、この戦いは避けて通れない。

 拳を固く握りしめ、俺は遥か彼方にそびえる聖なる山に向けて、視線を促した。



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