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異世界転生した寿司職人ですが、神の包丁で魔王の呪いごと捌いてやります ~女神様は俺の寿司の虜ですが何か?~  作者: 小宮めだか
3章 聖なる山に向けて

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味変には大根おろしはいかが?

「これはトラジ! ものすごく旨いな! 適度な霜降りと赤身のバランスが何とも言えん! お前らどんどん食って力を蓄えろ」


 ベルガの食べる勢いが凄まじい。

 兵士たちに声を掛ける感じも、以前のどこか卑屈な様子はどこにも見当たらない。

 彼らも自分たちの指揮官の突然の変容に戸惑いを感じてながらも、素直に受け入れているのが雰囲気を見ていれば分かる。

 そんなベルガの畏れはどこへ行ったのやら……あぁそうか。その畏れの原因を今俺達で食べているのか。

 ん? 待てよ。これってひょっとして……


「これはもしや! おっさん汁を食べてることに!! おふっ」


 後ろからエレノールの拳骨が飛んできた。

 フィリナが腹を抱えて笑っている。


「トラジ! あんたね。そういう食欲無くなるようなこと言わないでよね!」


「あはは。そうねエレノール。どちらかと言うなら、ベルガに取りついていた魔物を祓ったんだから。全然別ものよね」


 ほっぺを膨らませながらもぐもぐと頬張り続けているエルフ娘。

 その横で、串に刺さった古代狼肉を美味しそうに食べているフィリナ。

 ベルガも全く食欲が止まらないようだ。


「これ脂っぽさがあまり無いのよね。濃厚なやつもいいんだけど、肉本来のしっかりした旨味って言うの? それが味わえてすっごく美味しい」


「そうね。これなら量食べても飽きないかも。でもベルガにとってはもっと脂っぽい方がいいんじゃない?」


「いやいや。これはこれで肉感がしっかりしている。逆にワシはコテコテの脂肉よりこっちの方が好みかもしれん」


 周囲では既に宴会のような様相になってきていて、戦いの合間の束の間の安堵のひと時を皆が共有していて胸があたたかくなる。

 お酒こそ出ているわけでは無いが、お互いの無事を祝って肩を叩き合い、抱き合っている。

 よし。もうひとつ。

 盛り上がるネタを提供しますか。


「なになに。トラジ。またなんか美味しいもの出してくれんの?」


 さっそくエレノールが反応する。フィリナもその後ろからじっと見つめて興味津々だ。


「それは大根ではないか。それをどうするって言うんだ」


 ベルガが肉汁で溢れる口を袖でぬぐっている。せっかくの真っ白な毛並みが台無し。


「ふっふっふ。これを見ろ。『生成(ツォイゲン)』の魔法で作り出した……おろし器だ!!」


 大根自体はこの世界にも普通に存在したんだ。

 雪の中に保存用として埋まっていたのをしっかりとゲットしていたのさ。

 そしておろし器。

 これは普通のおろし器もこの世界には存在したんだけど、せっかくだからと昔ながらの木製の大根おろし器を作ってみたんだ。

 何事も雰囲気大事!

 これを焼いた狼肉と一緒に食べると……また違った味わいになるはず。

 更にさらに!


「トラジさん。これで全部ですよ!」


 宴会の場所に届けられたもの。それは俺の作り出した飯ごうで炊かれたご飯。

 この際だからと、食堂のお姉さまたちに作ってもらったんだ。

 狼肉に大根おろしをかけて、そのまま炊き立てのご飯の上に乗っける!


「よっしゃ! 出来上がりだ、簡単誰でもできる焼肉丼だ!!」


 ごくりと誰かが唾を盛大に飲み込んだ音がした。

 ふふふ。いくら脂が控えめなお肉といえども、ずっと同じ味を食べていてはやはり飽きるってもんだ。

 つまりは味変。

 これで口の中はさっぱりと、更に食欲が増すはず!

 更にどうやらあまり食べることのないと言われるお米――この異世界風に言うならばファーバン。

 これを組み合わせることで無限お替りが可能となる一品の出来上がりだ。


「ファーバンはな……ファルナート王国ではさほど人気のない穀物だが、獣人の国では元々広く流通しているモノなのだ」


 涎を垂らしながら焼肉丼を眺めるベルガ。

 そうだったのか。

 ということは、獣人の国とやらに行けば、他にもたくさん種類のお米に出会えるって訳だな。それは寿司職人としては行かない理由はない。


「この大根おろしとの調和がなんともいえん……ちょうど脂身に飽きてきた頃合いに、口の中が一度さっぱりと元に戻り、更なる食欲が湧いてくる。更にこのファーバンとの一体感がたまらん。遥か彼方の自分の故郷の味を思い出させてくれた。トラジ、感謝する!」


 ベルガの目に熱い涙が光っていた。

 その隣では食いしん坊上等のエレノールが、ものすごい勢いで焼肉丼を胃に流し込んでいた。その華奢な体型でどこに入っていくんだこの人。

 フィリナも頬についたご飯粒を取りながら、一粒残らず食べてくれていた。

 兵士たちや村人たちにも好評で、満面の笑顔がラベルク村を満たしていた。


(やっぱりどんな異世界でも、食べるということが原点なんだな。この世界で寿司を広めていく。創元師匠、そんなことが俺に本当にできるだろうか)


 俺は遠い世界の師匠の気難しい顔を思い浮かべる。

 ちょうど雪雲の間から顔を出した天星ダルバを眺めながら、これから起こる人知を超えた戦いを予感していたんだ。



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