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異世界転生した寿司職人ですが、神の包丁で魔王の呪いごと捌いてやります ~女神様は俺の寿司の虜ですが何か?~  作者: 小宮めだか
3章 聖なる山に向けて

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エレノール・アストリアの邂逅

 凍てつく風に、輝くような金髪が揺れている。

 それは彼女の心の迷いが表出しているのか。

 細い眉毛がギュッと中央に寄った。


「あたしの、あ・た・しの魔導が効かない? ふっざけんじゃない!」


 短杖(ワンド)を握りしめ、次の詠唱の文言が沸騰した頭の中を駆け巡る。


「おい! エレノール、落ち着けって! 古代狼には魔法が効きづらいって、聞こえているのか!」


 うっるさいわね、黙ってなさい!

 寿司とかいう異世界の料理を持ち込んで、この世界の理すら握り変えようとしている星流人トラジ。

 そんなエリュハルトの新参者に指摘されるほど、こっちは短い命やってんじゃないのよ!


「トラジ! 黙ってな。あたしがこの世界で何年魔導扱っているか、あの狼の身に分からせてやるんだから!」


 古代狼は紫の触手を震わせながら、どぉぉぉん! と大きな音を立てラベルク村のど真ん中に完全なる実体化を果たしていた。

 どよめく村人たち。

 剣を抜く兵士がそれらを庇うように展開する。


「エレノールを守れトラジ! 詠唱中、魔導師は完全な無防備になるぞ」


 ベルガの指示が飛ぶ。

 フィリナが即座に、それに遅れるようにしてトラジがあたふたと反応する。

 それすらまるで違う世界で起こっているかのような感覚。

 ふわふわと夢の中を浮遊しながらも、意識だけは地を踏みしめている。

 その狭間に立つことがあたしは大好きだった。

 快感だった。


「ギシャアアアアアア!」


 身の毛もよだつような金切り声を上げる古代狼。

 鞭のように触手がエレノール目掛けて飛び込んでくる。


「ハァァァァァ!」


 全身の息を吐き切るようにしてフィリナが跳躍する。

 両拳に光り輝く魔力(エルナ)が集中。

 雪原に轟くようにして、的確な殴打で迫る触手を防ぎきる!


「アルベルト拳聖流――拳壁(けんへき)(げき)


 ありがとうフィリナ。

 はじめ貴方に出会った時、その愚直に輝く瞳がある意味羨ましいと思った。

 まだ誰かを信じられるんだねって。

 あたしは、もうそんな感情……とっくに捨て去ってしまっていたから。

 その矢先。魔導が完成した。

 自分の深い翠の瞳の奥に魔法陣が描かれる。


「燃え盛れ! 火球(ファイアボール)!!」


 アイスウルフを一瞬で消し炭に変えた魔導だ。

 魔力を練りに練ったから、あの時より威力は上がっているからね!!

 短杖の先に紡がれる火力の渦。それは周囲に降りしきる雪を一瞬で溶かしながら、空気自体を熱するようにして古代狼の頭上から降り注ぐ。

 大きな爆発音が村中に響きわたった。


「……いや、だめだ。エレノール」


 トラジの力の無い声があたしの耳にも聞こえてきた。

 だからうっさいっての。あんたの数千倍あたしの方が魔力には長けているのよ。

 エルフなめんなって!


「ふしゅるるる……エルフの小娘か。無策よの。レイカ様より賜った硬き表皮には愚かな魔力なぞ通じはせぬわ」


 自分の目に映った極採色の光景。

 古代狼を包むようにして、霧のような魔力の壁が魔導自体を拒んでいるかのようだ。

 魔力を色として判別し、その特性を見分けられる。

 それがあたしの異能。


「エレノール下がれ! 元々古代種には魔導自体が効きづらい。ワシやトラジに任せるんだ!」


 大急ぎでケリーが持ってきたんだろう。ベルガの元に彼の愛用の大斧が届けられる。

 なんて素敵な大斧。込められた魔力が重層なる音楽を奏でるようだわ。


「エレノール! 集中して……貴方、また魔力を感じると目の前で起きていることそっちのけになるんだから」


 その言葉に我に返る。

 いけないいけない。あたしの悪い癖。

 しょうがないじゃない。だって高い魔力を感じると、体の奥底が疼くように震えるんだもん。気持ちいいんだもん。


「分かったわよ。下がればいいんでしょ、下がれば」


 あたしはそう言いながらも、突き刺さるような魔力の視線を感じる。

 それはもちろん、目の前の古代狼から発せられるものじゃない。

 あんな低級な化け物よりもずっと恐ろしいモノ。

 ラベルク村を旋回するように常に視線を送っている――あいつの魔力の軌跡。

 魔導協会ギルドマスター、ザックマーニャ。


(もう、イライラする! この絶えず監視されている感覚は溜まったもんじゃないわね)


 自分の今の蝙蝠のようなどっちつかずな位置取りがキライ。

 焔刃を見守ること。

 教会の意のままに扱わせないこと。

 神の包丁側について、得られた情報を流すこと。

 それがあたしに与えられた任務。

 冒険者の、魔導師としての興味ってことはもちろんあったけど。

 それだけじゃない。


「愛しのアストリア。お主の両親がどうなったのか知りたくはないかえ」


 ザックマーニャはそう言ったんだ。

 あたしの記憶から完全に消えてしまっている部分。

 この杖に込められた両親の魔力の軌跡。それがどこから来るものなのか知りたい。

 ぴょこんと腰のカバンから顔を出す使い魔ミンミ。

 あたしは毛並みの柔らかい、その顔をゆっくりと撫でる。


(あたしは失った記憶を取り戻したいの。何に変えても。その先にある真理に触れて破滅する事になったとしても!)


 エレノール・アストリアがこの世界を駆け抜ける意味。

 それは自身の持っている短杖に込められた大いなる魔力の正体を探ること。

 長きに渡り生きてきたはずの、長命のエルフはその人生の前半部分の記憶を失っていた。そこをザックマーニャに付け込まれたのだ。


「アイツとあたしは、同じ……ハーフエルフ。この事実だけは変えられないのよ!」


 声は誰にも届かない。自分が生まれた意味を探す旅。

 それは……彼女が自ら望んだことでもあったのだった。


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