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異世界転生した寿司職人ですが、神の包丁で魔王の呪いごと捌いてやります ~女神様は俺の寿司の虜ですが何か?~  作者: 小宮めだか
2章 理を変える包丁

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ベルガ・シュトルムヴォルフ

王国騎士団、獣人隊長であるベルガ・シュトルムヴォルフの視点で少し話は進む。


 その雪は鳴るように、風は叫ぶように吹き続けていた。

 凍り付いた音ばかりの世界では、人の息遣いがやけに生々しいと感じる。


 ベルガ・シュトルムヴォルフの大斧を握る手は、もう感覚を失いかけていた。

 それでも離すわけにはいかなかった。

 守らなきゃならないんだ! このラベルクを!!


「ワシのいう事を聞け、粉砕(ふんさい)の大斧よ! くそっ……どうして手が震えるんだ」


 全身を白い狼のような毛に覆われた自分の肉体をかえりみる。

 狼獣人。

 エリュハルトにて、獣人という種族は珍しくはない。

 狼だけでなく、熊や兎や狐や……様々な細かい種が存在する。

 大別してフィーム族(人間)の奴らから獣人と呼ばれているだけだ。


「前衛! 盾を下げるな! アイスウルフが来るぞ!!」


 ガチガチと大きく鳴る歯を力任せに筋力で抑え込む。

 大きく自分を鼓舞するように怒鳴り散らした。

 前衛といっても先の戦いで王国騎士団三番隊はほぼ全滅していた。

 ここに残ってヒサメ軍に抵抗を続けているのは、それ以外の低いランクの者たちの集まりだ。

 つまりは寄せ集めの冒険者集団といったところ。


(くそっくそっ! この腹の底から沸き起こる恐怖感。ワシはいつからこんな臆病者になっちまったんだ……)


 いつから。

 そんなことはよく分かっていた。

 紫の長い髪が特徴的な、妖しいほどの美しさを称える奴の力。

 瞬く間に自分の部隊が全滅の憂き目にあったんだ。

 そう。魔王……レイカによって。


 目の前には十数体のアイスウルフ。

 雪原に獣の血走るような唸り声が、吹雪のように響きわたっている。

 ヒサメのもつ凍りの魔道具によって操られし、モンスターの軍団。

 奴らの吐くアイスブレスを喰らってしまえば、人は凍り付き動けなくなる。


「ここで、こんなところで! やられるわけにはいかないんだ!」


 ベルガはアイスウルフに負けるとも劣らぬ唸り声を張り上げる。

 腕の筋肉を大きく膨らませる!

 筋力移動。獣人の秘めたる力のひとつだ。

 それでも仲間は半分以上が既に倒れていた。

 盾は凍りつき、槍は折れ、剣は砕けていた。

 もう……戦線を保つには限界。


 それでも下がれないのが、王国騎士団の意地と矜持。

 村人を、そして子供たちをなんとしてでも守らなければならない。

 アイスウルフが大きく咆哮した。

 雪原が震え、背中に戦慄が走った。

 前衛の若い兵士が剣を投げ出すようにして腰を抜かした。


「ベルガ隊長! もう無理です!」


 ブルブルと震える手を強引に押さえ込み、粉砕の大斧は裂くような音を立て、飛びかかるアイスウルフを両断する!


「まだだ! まだ……踏ん張るんだ!」


 叫びながらも、自分でもよく分かっていた。

 既に限界点を超えていると。


 その時だった。

 雪を薙ぐように山羊蹄車(カーフ)を引くヤギの鳴き声が聞こえてきた。滑り込むようにして戦線に雪崩れ込んでくる!

 荷台の上には金髪のエルフ。魔導士か?

 真紅の派手なローブをはためかせ、滑り込んでくるなり、魔導の詠唱を始めている。

 肩の上に載る使い魔の黒猫が、誇らしげに雪原の先を見据えていた。


「ベルガさん! なんとか間に合って良かった!」


 荷台から飛び出てきたのは、両拳に魔力を纏わせた黒髪の女性神官。

 雪原に降り立つなり、襲い掛かるアイスウルフの嚙みつきをかわし、すばやく拳を叩きつけた。

 あの娘、確か聖アルベルト教会所属のフィリナという名前だった。


火球(ファイヤボール)!!』


 長い詠唱が終わると、短杖を掲げた先に燃え盛る炎の渦が出現する。

 それは今まさに崩壊しかけていた前線に襲い掛からんとする、アイスウルフに向けて発せられる熱の塊。

 炸裂したような爆発音。

 何匹かのアイスウルフが黒焦げになり、力なく横たわる。


 だが、ワシの目に留まったのは、三人目の男だった。

 短い黒髪にどこか幼さの残る横顔。滑々の白い衣がどこか異国風な装いを感じさせる。

 そこまで背は高くない。

 黒髪の上になにか二足歩行の生き物が乗って、わちゃわちゃと騒いでいる。

 あれはトカゲか? 奴の使い魔なのか。


 赤い光を放つ包丁を油断なく構えている。

 包丁だと!

 ここは戦場だぞ。冗談も大概にしろ。あんなもの、何の役に立つというんだ。


「戦うしかないならやるだけだ。師匠、この世界であんたを追いかけてみせる」


 大きく凍り付いた空気を吸い込んだ音が、ベルガの耳に響き渡った。

 刃が――真っ赤に燃え上がった。

 それはベルガが失ってしまったものを映しだす鏡のような輝き。

 戦場の空気が一瞬で、熱を帯びた。


(そんな……この凍てつく世界に熱だと!)


 アイスウルフは雪崩が起きるかと思われるような、大きな唸り声を上げた。

 黒髪の青年の周囲の雪が蒸発するような音がした。

 湿った空気がベルガの頬に伝わった。


「あんた、あぶない! 退くんだ。そんな包丁ひとつで何ができる!」


 ベルガが叫ぶよりも早く黒髪の青年は動いた。

 荷台より大きく飛び移り、アイスウルフの群れに自ら飛び込んでいく。

 獣の爪が大きく振り下ろされる。


焔化(フレーメン)


 焔が膨れ上がり、戦場を走り抜けたような感覚がした。

 それは斬撃というよりも、炎の軌跡。

 一瞬で獣の身体が真っ二つに割れ、燃え尽きた。

 左右に踊るように摺り足。

 それはまさに。炎舞とでもいうような由々しき舞のよう。


(料理。そうだよ、料理をしているようだ)


 刃の一振りごとに雪が解け、凍りが砕かれ、炎が美しく踊る。


「おい! そこのエルフの嬢ちゃん」


 ベルガは荷台に乗っている金髪の女に叫んでいた。


「いったいあの包丁は……魔道具なのか、それとも本当にあの時言っていた!」


 エレノールは瞳を輝かせながらベルガに振り向く。


「……神機、焔刃(えんじん)


 ベルガは耳を疑った。雪原に吹雪く風が聴かせた幻聴だと思ってしまった。


「本当にあったのよ。神の七包丁(しちほうちょう)のうち一本、魔王レイカへの切り札よ」



本日より2章がスタートします。ここまでお読みいただきありがとうございます。


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またリアクションして頂けると作者のテンションが爆上がりして執筆性能があがります。よろしくお願いします!

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