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異世界転生した寿司職人ですが、神の包丁で魔王の呪いごと捌いてやります ~女神様は俺の寿司の虜ですが何か?~  作者: 小宮めだか
1章 凍てついた世界

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祈りと葛藤

「よし、相棒。腹に力込めろよ……そうだ、いい感じだ」


 グリューンがサングラスを揺らし、頭上で踊りながら言うもんだから、騒がしくて仕方がない。


情報処理(スフェア・バイト)ーー発動」


 洞窟の外の様子を探るために腹に力を入れるようにして、集中力を高める。

 腰にケースに入れられた包丁が、淡い温かみのある光を発しているような感覚。

 というか自分でやっている方法が合っているのか、かなり不安だ。


「集中のやり方は問題ないかな。あとはもう少し範囲を狭めたり、使う魔力(エルナ)の量を調整したりした方がいい。ま、ゆっくり教えてあげる。だって星流人さんだし」


 エレノールの目が怖い。

 エルフってこう、もっと柔らかいイメージというか、物静かな種族という印象が強いのだが、それがどうして。

 包丁を見ながらうっとりするし、話し方はどちらかというとギャルみたいだし。


 『情報処理』を使っても、洞窟の外に何か居るようには感じられない。

 しかしそれが安全という保障はない。

 自分の能力がどこまでの範囲で、どのような仕組みで発動しているのか、全く自覚無いからだが。


「相棒は心配し過ぎだ。使っていくうちに神の包丁の扱い方は慣れていくだろうさ」


 俺達は警戒しながら洞窟より顔を出す。

 雪自体は止んでいたが、周囲には倒れたケイブベアが2体。その傍にはフィリナのかつての仲間だった兵士たちの亡骸が冷たく横たわっている。

 ケイブベアと兵士たちの体に静かに雪が降り積もっている。どす黒く流れた血は雪に隠れてしまい、俺の目には確認することはできなかった。


「大丈夫そう。ヒサメやホワイトドラゴンの魔力の流れは感じられない」


 エレノールの言葉に俺やフィリナが大きく安堵する。


「おい、金髪エルフ娘! まさかここまで歩いてきたんじゃないよな」


「エレノールよ! このトカゲは礼儀がなってないわね」


 エレノールの上に飛び乗ったグリューンを威嚇するように、ミンミが抗議の鳴き声を響かせる。

 そのまま短杖(ワンド)を取り出し、匂いを嗅ぐようにして何かに集中している。羽織っている真紅のローブが雪原に映えるようだ。

 フィリナは前に進み出ると、柔らかい胸の谷間からペンダントを取り出し、強くそれを手に握る。祈るようにして片膝をつく。

 ペンダントは蛇を抱えた女神があしらわれたもの。今ならそれが女神シャウザ・ニークを示していると分かる。

 俺もフィリナの隣で両手を合わせる。

 もちろん祈るものは違う。しかし心の在り方は一緒だろう。


「トラジも祈ってくれたのね。ありがとう」


「でもフィリナの信じている神に祈ったわけじゃない。できるだけ安らかにと。魂というものがあるなら平穏であって欲しいってね」


 フィリナが澄み切った笑顔になる。それはこの凍り付いた世界でも、小さく花が咲き誇るような、優しさの溢れるもの。

 初めてフィリナと会った時とは、俺の中でだいぶ彼女に対する印象は変わってきていた。

 その時、フィリナの瞳に迷いが生じる。

 優しい光が陰り、目を閉じ、目の前の俺から顔を逸らす。


「やはり黙っていることはできないわ。トラジ」


 もう一度こちらを振り向いた表情には、多大なる決意が感じられた。


「はじめわたしは貴方を消し、その神の包丁――焔刃(えんじん)を奪い取ろうと考えていたの」


 フィリナの心の葛藤。

 自分の本心ではない。別の何者かの思惑によって歪められた目的。

 彼女の手の中で、女神が助けを求めているようだ。


「協力を申し出て、できぬような消せと。そう、わたしの師匠に命じられてきたの。聖アルベルト教会において、師弟の言葉は絶対」


 フィリナの瞳に悲壮感が溢れる。


「なんか事情があるんだろうなって事は分かっていたよ。寿司職人を……いや、料理人をやっていたんだ。客の心の動きは見ていればなんとなく分かる」


 創元師匠の言っていた、客のことを考えて寿司を握れという言葉が頭の中で巡る。


「お互いに生きていて良かったじゃないか。秘密にしていたことはフィリナの本心じゃないんだろう。だったらどうでもいいことだ。それに」


「それに?」


「俺はフィリナたちに協力するんだから、消されて包丁が奪い取られることは少なくとも今はないはずだ。違うか」


 俺が笑いながら言う言葉に、フィオナの呆れたような表情が返ってくる。

 腰の包丁が細かく震え、穏やかに笑顔を浮かべたのを感じた。


「あんた達突っ立ってないで手伝ってよ。山羊蹄車(カーフ)が生き残っていたの。これでラベルク村まで走って帰れる」


 ゴトゴトとなにか大きなものが動いて近づいてくる音。

「メェエエ」と聞いたことがある動物の鳴き声が雪原に響き渡る。

 びっくりして振り向くと、大きなキャビンのようなものを引いているのは、簡易な皮の装備を着込んだガタイのでかい……これはヤギか!

 明らかに地球で見るようなヤギじゃない。もっとずっと大きくて体の幅が広い。


「あら、星流人さんはヤギも知らないのかな」


 エレノールが上から目線で俺に告げる。そんな彼女の服の首元あたりからグリューンがバサッと顔を出す。


「相棒。もう寒くてよ。この金髪エルフのちっちゃな胸じゃあ、まったく暖かくなくて」


 グリューン。それはかなり失礼だぞ。

 確かにフィリナに比べれば、貧相……いやいや。華奢で小柄な体格はしているけどな。


『ビィィィン!!』


 いきなり腰の包丁から高い、金属音のような悲鳴が上がった!

 俺が見つめる先に展開される赤い点滅。

 いくつかの背の低い、角が生えたような影が雪原に見え隠れしている。

 その途端「シュ!」という音がして、小さく尖ったものが山羊蹄車のキャビン部分に突き刺さる。それは射かけられた矢のようなもの。


「ゴブリンよ! 気を付けて! 奴ら1匹見たら10匹は出てくると思った方がいいわ」


 エレノールの高い声に、「ミャアミャア!」というミンミの警戒の鳴き声が重なった。


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