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異世界転生した寿司職人ですが、神の包丁で魔王の呪いごと捌いてやります ~女神様は俺の寿司の虜ですが何か?~  作者: 小宮めだか
1章 凍てついた世界

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決意

美味しいものを食べたそのひと時。

なにごとにも代えがたい空気。

それはどの世界であっても一緒であった。


「すごく美味しい。トラジ、これはサシミ…って言うの?」


「うん、そうだ。俺の住んでいた世界ではこうやって食べるのが当たり前だったんだ」


 フィリナの大きな瞳から、一筋の涙がこぼれ落ちていた。


「噛むごとにあたたかい……なんて言えばいいのか分からないけど、トラジの相手を想う心が伝わってくるような、そんな素敵な味がするわ。この胸のあたりに優しさが広がるようなそんな気持ちよ」


 良かった。そう感じてくれて本当にうれしい。


「ありがとう」


 俺はいつも店で言っていたように、フィリナに向かって礼を言う。


「……ありがとうと言いたいのはわたしの方。どうしてトラジがありがとうと言うのよ。変じゃない?」


 確かに変なのかもしれない。

 もしかしたら、エリュハルトではそういう感覚ってないのだろう。

 感謝と敬意を持って寿司と客と向き合う。それが当たり前だったし、一つ一つに手を抜くなんて考えられない。

 そう、師匠に教わったことを思い出して苦笑いを浮かべる。


「気にしないでくれ」


 ぶっきらぼうにフィリナに言った。


「俺の住んでいた世界ではそういうしきたりだったってだけだ」


 手をビシッと上げてなにやら戦隊もののような決めポーズをとるグリューン。


「相棒、まずは一人目だな。奇跡を目の当たりにしたら、誰ももう以前のようには居られなくなるんだ。」


 俺とフィリナは顔を見合わせ、ふふふと笑いあう。

 その間に顔をガっと挟むようにして割り込んできたエレノール。


「神の包丁の奇跡が、毒を理ごと断ったのね。なんてこと! これが神機の力だというの。トラジ、やっぱり調べさせなさい!!」


 握っている包丁に手を伸ばしてくるので、そのまま金髪を押さえて目の前に刺身をチラつかせる。

「ヒッ……!」と言って、彼女の表情が凍り付く。尖った耳がピピン!と細くなり、すこし上を向いたまま固まっている。


「奇跡じゃねぇよ……ほらっエレノールも食ってみろ。旨いぞ! そうしたら包丁でも何でも調べさせてやるよ」


 焔刃の心地良い、淡い光が洞窟の中でゆらゆらと揺れている。

 その光が神託の泉の水面に映りこんで、まるで女神シャウザ・ニークが微笑んでいるように思えた。


 ✛ ✛ ✛


「なによ、何よ! 全く問題ないじゃない。誰よ。毒なんて言ったやつは!」


 もぐもぐと頬を膨らませて食べるエレノール。ミンミにも差し出すと嬉しそうに齧りついていた。

 香ばしい匂いが洞窟の中にまだ漂っている。

 俺以外はまだ信じられないといった雰囲気で、炙った刺身を口に運んでいた。

 刺身に改めて集中すると、目の前に展開するステータス画面。


【タッツィ――選択の女神シャウザ・ニークの泉に生息する淡水魚。見た目はかなり悪いが味は逸品。地球で言うならアジに似ています。毒なんてないから安心して】


 また俺の頭の中に響く、女神に似た声。隣でグリューンが含むように笑ったので、後ろからピンッと軽く小突かせてもらう。

 フィリナもだが、どうやらエレノールも特に反応を示していない。


(グリューンは何となく分かっているようだから、やはり『情報処理』の異能ってやつが関係しているんだろうな。俺にしか聞こえない女神からのアドバイスか)


 しかも地球でいうならアジに似ているとか、なんでそんな比較ができるんだ。

 考えれば考えるほど頭が痛くなりそうで、俺は軽く肩をすくめる。

 その時、刺身を食べ終わり真剣な表情を向けているフィリナに気付いた。

 彼女の顔は覚悟の色に濃く染まっていたが、その茶色の瞳には迷いの炎も垣間見える。


「エレノール。彼――トラジに託しましょう。神の包丁を受け継ぎし、星流人よ。わたしたちにその力を貸して欲しいの」


 拳を強く握りしめるフィリナ。

 彼女の両手が淡い光で包まれる。


「元々その包丁を探しに、わざわざ王都からラベルク戦線を通過してここまで来たんだしね」


 エレノールは包丁を見た時に驚きとともに、まさかという顔をしたのを覚えている。

 逆にフィリナは確信に似た、どこか秘めたものを背負っているように感じた。


「俺にどこまでできるのかは分からない。でもひとつだけ、どうしても確認しなきゃならないことがある。さっき言っていた魔王レイカの配下ってやつの名前だ。確か、ヒサメって俺にはそう聞こえたんだ」


 洞窟に入る前にエレノールが言った言葉に、俺は彼女に詰め寄った。

 それを思い出し、女性二人は意味ありげに目線を交差させる。

 凍りの魔道具使いヒサメと言っていた。

 そして、兄さんの名前も氷雨古廐(ひさめこうま)

 これを偶然というならそれでいい。だが確かめない訳にはいかない。


「ええ。ヒサメと確かに言ったわよ」


 エレノールが短く頷く。


「半年前、ラベルク村周辺が突然寒冷化し始めたのよ。それはホワイトドラゴンを従えたヒサメという青年が、持っていた凍りの魔道具を魔王の力によって暴走させたことによるものなの」


 エレノールが簡潔に話をまとめる。

 その後に、歯ぎしりをするようにフィリナが説明を重ねる。


「元々この地は温暖な気候で、ラベルク山脈の聖なる山から流れるナドゥ川沿いは王国にとって無くてはならない肥沃な土地だったわ。でもそれを魔王は狙ってきた」


 そのフィリナの説明に、エレノールが言葉を被せる。


「魔導協会の水晶球による探査魔導で分かったことだから、間違いはないわ」


 俺の手の中にある包丁がその話を聞いたからなのか、ゆらゆらと揺れるように熱く強い光を発し始める。


「それだけじゃあなぁ。相棒の兄弟子の氷雨と、そのヒサメってやつが同一人物とはわからねぇんじゃねぇか?」


 グリューンの言葉は一理ある。

 もしもヒサメが兄さんだとしたら、俺よりも前にこの世界に来ていることになる。

 それは流石におかしい……と考えるのが妥当なんだが。

 もっとも、このエリュハルトが地球と同じ時間軸で流れているとは限らない。


「わかった。この異世界で生き抜くために、こんな右も左も分からない俺で良ければ、力を貸せることは貸したい。その代わりこちらにも協力してくれないか。そのヒサメって奴が兄さんか確かめたいんだ」



✛ ✛ ✛


ここまでお読みいただきありがとうございます。


よろしければ、ブックマーク、下の☆☆☆☆☆から評価をお願いします!ランキングに影響致します。


またリアクションして頂けると作者のテンションが爆上がりして執筆性能があがります。よろしくお願いします!


フィリナは包丁の使い手に協力を願う。

トラジは兄弟子の行方を追う為に力を貸したいと申し出る。

エレノールは包丁自体に興味深々。

3人の立ち位置が交錯する。

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