スプーン
これは涼弥とスプーンの壮絶な戦闘を描いた、激戦の記録である…。
その戦闘はバイト中唐突に起きた。大きな音を立てて。
ラーメン屋でバイト中の涼弥は、洗浄機に挟まったスプーンと壮絶な死闘を繰り広げていた。
時は2分前に遡る…。
「あー、きっちぃ」
洗い場で丼ぶりを洗っていた涼弥は、愚痴を言いながら山積みになっている食器を素早く乱暴に洗っていた。
この職場では一度洗った物を洗浄機に掛ける為、籠に丼ぶり等を入れて洗浄機へと流す必要がある。
洗浄機は上と下の両方から熱湯を掛けて洗う為、籠の底面は大きなひし形の穴が無数に空いていた。
そう、その籠がこの戦闘の発端であった。
ガチャン!!
辺りに鳴り響く騒音…とまでは行かないが少々耳に来る音を立てて、スプーンが洗浄機と洗い場の隙間に挟まっていた。
落ちればそこは地獄と言えよう、決して救出は不可能ではないが相当手間がかかる。
足元に隙間が空いては居るが、手を入れれば泥まみれになるのは簡単に想像がつく。
しかも、涼弥は飲食店のバイトをやっているにも関わらず爪が少し長い。
汚れるのが嫌いという彼の特性を考慮すれば、隙間に堕ちたスプーンを救うのは絶望的と見えた。
「くっ…スプーン如きが…なめんじゃねえぞ…」
如き…そう人間にしてみればそれはスプーン如きかも知れない。
だが、こういう厄介な場面では妙な底力を発揮するものだ。
スプーンを始め、箸・フォーク・ナイフなど細く長い食器は隙間に挟まりやすい。
更に後はない状況、少し力を抜けば堕ちてしまうだろう、助けを呼ぶ事もままならない。
しかし長く戦闘を続ければ気の緩みに際しスプーンは地の底へと堕ちてしまうだろう。
スプーンを高速で引き抜く以外救う方法はないのだ。
かくして、涼弥とスプーンの激戦は始まったのである。
その壮絶な死闘は、30秒間もの時を経て勝敗を分けた。
「…っしゃぁ」
30秒…傍から見れば短いその時間は、本人達からすれば無限とも思える時間を闘っていたのも同じである。
戦闘開始から25秒後に涼弥がスプーンの挟まった角度を90°変える事で、鍔迫り合いとなっていたスプーンの隙を突き、見事にスプーンを洗浄機の隙間から救出したのである。
しかも、洗い場で洗った直後であったため、手は洗剤の泡まみれである。まさにライオンとゴキブリのようなハンデをくらいながらも、壮絶な忍耐で見事な救出を果たしたと言えよう。
【完】
まさに30分程度で書き終った超短編であります。
相当な短い時間で読んで頂けた事を存じます。
しかし短い故に中々の出来栄えで自己満足している作者であります。
この超阿呆な激戦を読んでくださった皆さんに感謝の意を込めて。




