7話 後輩の世話
(今日は新しい子が来るんだっけ。)
書類を見つめながらふと考える。あの卒業式のあと、私は、今最も激化している戦場、西の第四砦ミセーリア戦線に配属された。リーダーの私、ストゥルトゥス、他3人で構成された隊だったが、他3人が異動したため新しく一等兵、または上等兵の3人が来る。
「…そろそろか。」
懐中時計を確認すると、ちょうどやってきたのは3人の魔法兵を連れたルプス・ユースス大佐だ。健康的な見た目で、三十代半ばぐらいに見え、身長は180はあるだろう。
「ウィネーフィカ伍長。この3人が今日から君の隊に配属される者たちだ。よろしく頼むぞ。」
「お任せください、ユースス大佐。」
敬礼し、天幕を出たのを確認したあと連れてこられた3人を見る。
「今日から君たちの上司となるゼノ・ウィネーフィカだ。私の隊は厳しい故、励むように。」
「今日から君たちの同僚兼、先輩になるストゥルトゥス・エクルスだ。よろしく。」
「こちらの紹介は済んだので、右から順に自己紹介を。」
「…………します!」
「はい、次。」
「今日から入隊する、トゥリパ・フロースです!よろしくお願いします!」
トゥリパ・フロース。男性ばかりの軍の中では珍しい女性で、両親とも軍人ではなく一般家庭の出だ。その魔力量を買われて軍学校に入学、4年間在学した後ここに配属されたそうだ。在学中に敵兵数人を撃退した実力もあり、座学、実技ともにそれなりにいい成績を残している。階級は3人の中で唯一の上等兵だ。長い茶髪を下の方でまとめていて、可愛らしい顔立ちをしている。
「自己紹介ご苦労。それでは明日から戦場に出る。主に地上で戦う兵の補助、敵魔法兵の殲滅をするが戦力が減るのは困る故、死なぬように。では、明日の準備をしろ。解散。」
「「失礼します。」」
「……ふぅ。」
椅子に腰掛け、机に置いていたカフェオレを飲み息をつく。
(明日、あいつらはどんな行動をとるかね。)
見たところトゥリパは命令をしっかりと聞く真面目なタイプに見えるが、他2人は良くも悪くも自信がありすぎるように見えた。
(その自信が凶と出るか吉と出るか…。)
明日のことを少し心配して、その日は眠りについた。
次の日
「それでは諸君、これから私たちはミセーリア戦線の最前線へ向かう。任務の内容は昨日伝えたとおりだ。なにか質問はあるか?」
全員の顔を見渡すが、誰も質問はないらしい。
「それでは、離陸準備が完了したものから離陸し、私についてくるように。」
そう告げて高度3000m程度まで上昇し、後ろから付いてくる4人を後目に最前線へ飛翔する。
(いつも通り、速いな。)
ストゥルトゥス・エクルスは自分の前を飛翔するウィネーフィカを見て、いつも通りの速さに感心した。
(学生時代からだが、年齢に似合わず大人っぽい言動とその実力は、まるで何十年と戦ってきた歴戦の軍人を見ているようだ。)
そう。12歳にしては幼さが足りない。いや、足りないどころではない。欠片もないんだ。
(考えないようにしていたが、一体何者なんだ…?)
(この子、早すぎます…!)
トゥリパ・フロースは先頭を飛翔する少女を見て愕然とした。
(隊長だけじゃありません。エクルスさんも相当速いですし、さすが首席と次席のお二人です。神に愛されし者と忠実なる愚者の呼び名は伊達じゃないですね。)
神に愛されし者と忠実なる愚者の呼び名はミセーリア戦線に出るようになってからつけられたものだ。
ゼノ・ウィネーフィカの戦闘する姿を見たものは皆、口を揃えてこう話すそうだ。
「戦場を駆け、敵を殲滅していくその姿、12歳とは思えぬその才能、彼女はきっと神に愛されているんだ。」
故に人々は彼女を神に愛されし者と呼ぶ。そして、そのゼノに挑んだ"愚者"であり、今ではゼノに"忠実"な部下であるストゥルトゥス・エクルスへの称賛と少しの嘲笑を込めて忠実なる愚者と呼ぶのだ。
「地上に敵兵を確認。直ちに味方の補助、および敵兵の殲滅を開始せよ。」
『ハッ。』
全員が散開し、飛翔しながら地上に魔力弾を撃ち込んでいく。地上には悲鳴と共に小規模爆発が起きていた。
「標的確認。照準確定。穿て。」
自身も銃を構え、1発、2発と敵兵の密集している場所へ魔力弾を撃ち込む。
(これは戦争なんだ。悪く思うなよ。)
「任務は達成した。総員、直ちに戦闘を切り上げ集合せよ。帰還するぞ。」
『ハッ。』
1分もたたぬうちにストゥルトゥス、トゥリパの2人は集合したが、他2人は戦闘を継続していて、5分が経過しても集合しない。
「もう一度命令する。直ちに戦闘を切り上げ集合せよ。」
『ですが隊長!今できるだけ敵を殲滅したほうがいいと思います!』
『そうです!我が祖国を侵す敵をどうか殲滅させてください!』
「ならん!私の命令だ。直ちに集合せよ!」
(クソッ。あいつら、私の命令を聞かないなんて…!)
こうして私の心配は的中してしまったのだ。
「どうして私の命令に逆らった?」
あの後、私たちは拠点に戻り、今は命令違反を犯した2人の処罰を決めている。
「お言葉ですが隊長!こちら側に損害も出ていませんし、敵兵を予定より多く殲滅できました!間違ったことはしていません!」
「俺もそう思います。結果的には良かったじゃないで…」
「私はなぜ命令に逆らったのか聞いているんだ!!」
声を荒らげ、威圧すると2人は口を閉じた。
「軍というのは組織だ。組織には規則があり、それを守れない者はここには要らない。」
「ですが…!」
「黙れ。」
「ッチ。子供のくせに……。」
「あ゙?」
腰につけた短刀を抜き、2人へ向ける。
「罰として、今、切り捨ててもいいのだぞ?」
その刃先が喉元まで迫る。
「ウィ、ウィネーフィカ隊長!待ってください!流石に殺さなくても良いのでは!?」
そのとき、後ろに控えさせていたトゥリパが静止してきた。
「……最初から本当に殺しはしない予定だ。」
「そ、そうですか…。失礼しました。」
ほっとしたように大人しく後ろに下がったトゥリパを確認し、2人に向き直る。
「お前たちには別の処罰を下す。追って知らせる故、自身の天幕で待機しておけ。解散。」
「「ハッ。」」
「おはようございます!ウィネーフィカ隊長。」
翌朝、天幕を出るとトゥリパが敬礼をして待っていた。
「おはよう。昨日の2人のことか?」
「……!2人は、どうなりましたか…?」
「後方の通信用拠点の警備をしてもらっている。戦いたがっていたあいつらには十分だろう。」
「…?2人は後方に行ったのですね?」
「あぁ。」
「よかった…。」
2人が比較的安全な後方に行ったと知りトゥリパは安堵したようだった。そこが本当に安全だと疑いもせずに…。
数日後の夜、一つの知らせが来た。内容は後方の通信用拠点の一つが襲撃されたというものだ。
「失礼します。」
来るだろうと思っていたはが、やはりやってきたようだ。
「ウィネーフィカ隊長!」
「なんだ?フロース上等兵。」
「あの…。通信用拠点が襲撃されたと聞いたのですが、2人は無事ですか…?」
机の書類から目を離し、トゥリパの方を向く。
「2人は立派に戦い、戦死したそうだ。」
トゥリパが目を見開き、何かを言おうとして口を閉ざした。数秒の間、沈黙が流れる。
「……そう、ですか…。失礼、しました…。」
敬礼をして重い足取りで天幕から出ていった。
(まさか死んでしまうとはね。)
よほど戦いたかったのであろう2人にとって通信用拠点というのはこの上ないほど好条件な職場だ。何故なら通信用拠点という動かぬ獲物に襲いかかる獣を殲滅できるのだし、通信施設なだけあり、衣食住は最低限整っている。ならばあとは戦い、手柄を立て、昇級すればいいだけだ。
(基本的には有利な環境なのにね。)
本当に、馬鹿な奴らだ…。
こんにちは、またはこんばんは。どうも、古瑠璃です。「ある魔女が生まれ変わった日」、第7話になりました。小説を書いたことが全くと言っていいほどなかったので、まさか自分がここまで話を考えられるなんて驚きです。次回もよろしくお願いします。




