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5話 忘れ去られた女神との契約

(ここは…?)

体の痛みで目が覚めた。

(無事…なのか?)

頭だけを動かし周りとキョロキョロと見るとどうやら私はベット上に横たわっていて、かなりのところを包帯で巻かれているらしい。

(誰か呼べないか…?)

横を見るとサイドテーブルに呼び鈴のような物が置いてある。


チリンチリン


音を鳴らした直後、ドタバタと人が駆けてくる音が聞こえ、部屋まで音の主が入ってくると仕切りのカーテンが開けられた。

「ゼノ・ウィネーフィカさん?自分のことがわかりますか?」

「わかります。」

質問を投げかけてきたこの男は白衣を着て、眼鏡をかけた、いかにも医者らしい姿をしていた。


「はぁぁ。よかったぁ。今、ポルタ・ドゥクスさんを呼んできますからね。」

そう言って医者らしき男はパタパタと駆けて部屋を出ていった。

「…………ハァー……。」

ようやく安堵のため息をつき、目を閉じる。

(死んだかと思ったね。)

そう。本当に"死んだ"と思っていたのだ。何故なら、空中戦で受けた致命傷、そして、上空から落下したことで大きな怪我を負った私は確かに"死んだ"はずなのだ。


(それがなぜ、致命傷で済んでいるのかね…。)

その時、ふと気づく。

(目が開かない……?)

他にも何か様子がおかしい。先ほどまで聞こえたいた雑音が何も聞こえず、そう、まるで"時が止まった"かのようだ。


『正解です。』


誰?


『酷いですね。助けてあげたでしょう。』


あぁ、あの時の人ね。私になんの用?


『あなた、前世は魔女だったでしょう?』


何故知っているの?


『私は"忘れ去られた神"ですからね。私と契約してほしいのですよ。』


契約?それに、忘れ去られた神?


『私は忘れ去られた神、すなわち信仰するものがいなくなった神なのですよ。信仰のなくなった神は消滅するしかないのですが、私はあなたと契約し、信仰してもらうことで存在できる。あなたは私と契約し、信仰することで力を得ることができる。いいでしょう?』


ふーん。まぁ、契約自体はいいよ。でも、私は神なんてもの大っ嫌いなんだよね。


『何故ですか?』


まず、私を転生させてくれたことには感謝しているよ。でも、魔女が迫害され続けていたあの世界で、私は神に何度も祈ったんだよ。助けてください、私たち魔女がもっと住みやすい世の中にしてくださいってね。でも、助けてはくれなかった。幾人という同胞が倒れても、あなた達は助けてはくれなかった。だから、感謝もしているけど、それと同じかそれ以上に憎んでもいる。だから、私はあなたのことは"神"ではなく、"友達"として接するよ。それでもいい?


『ええ。神を前に、恐れず、意見をするその姿は称賛に値します。ですから、私は神ではなく、あなたの友達として接しましょう、ゼノ。』


ありがとう。ちなみに、あなたの名前は?


『私は忘れ去られた存在。名前など、遥か昔になくなってしまいましたよ。もしよければ、ゼノ、あなたがつけてはくれませんか?』


いいの?


『ええ。お願いします。』


じゃあ、…あなたの名前は「カヌスデア」。意味は〈灰色女神〉。この国の名前にも入ってる"灰色"を使わせてもらったよ。


『カヌスデア……。いい名前ですね。ありがとうございます。』


どうおたしまして。


『それではゼノ。契約は成立したということでいいですね?』


うん。


『では、ここに女神カヌスデアとゼノ・ウィネーフィカの契約が成立しました。女神カヌスデアは信仰を受ける代わりに自身の力を貸し出し、ゼノ・ウィネーフィカは女神カヌスデアの力を借りる代わりに信仰することが契約内容となります。よろしいですね?』


はい。


『それではゼノ、それからよろしくお願いしますね。』


うん。よろしくね。


『では、他になにか聞きたいことはありますか?』


うん。私ってさ、なんで"致命傷"で済んでるの?死んだと思ったんだけど。


『それは貴方が私の力を使ったからですよ。』


というと?


『力を使うとき"重症を負うとしても"と問いかけたのは覚えていますか?』


うん。


『実際は力を使うと必ず重傷を負うのではなく、限界まで使った場合は重傷を負うことになるのです。しかし、言い換えれば限界まで使ったとしても、どれだけひどい怪我を負ったとしても、"重傷"で済むのです。意味がわかりますか?』


うん。つまり、力を使っている最中はどんなに怪我を負おうとも"重傷"で済むから、死なないってことね。


『正解です。他に質問はありますか?』


大丈夫。


『では、時間をもとに戻します。ごきげんよう、ゼノ。』


その声と共に周りの音が戻ってきた。目も開けられる。

「……面倒なことになりそうだなぁ。」

ポツリと呟いたとき、近くから人がくる音が聞こえて、先程の医者らしき男、ドゥクス教官、そして初めて見る、階級の高そうな男が部屋に来た。


「ウィネーフィカさん。無事でよかったよ。」

ホッとしたような顔をしているドゥクス教官とは対照的に、その軍人は眉間にしわを寄せ、難しい顔をしていた。


「お前がゼノ・ウィネーフィカだな?」

「はい。」

「では、ゼノ・ウィネーフィカ。今回の多大なる貢献を評し、銀星章を授ける。」

そっと枕元に置かれたそれは、銀色の、星の形をした、勲章だった。

「そして、今回の件で二等兵から一等兵に昇進した。次に手柄を立てれば上等兵に昇進可能だ。励むように。」

それだけ告げると男は去っていった。


あとから聞いた話だが、貰った勲章、銀星章は危険をかえりみず敵兵への特攻、または敵兵との戦闘を続けた者、つまり、命知らずに授けられる勲章だったそう。そして、その勲章を私に授けたあの男はアルマ戦線で指揮官を務めているシレオ・オクリース少将で、医者らしき男はこの軍学校専属軍医、モリス・メディケ軍医だそうだ。アルマ戦線の警備中に戦闘し、気絶した後、援軍に来た数名の一等兵が撃破された敵兵を確認し、私の着けている装備から出る電波を頼りに捜索してくれたそうだ。その後、拠点で応急処置をした後、軍用車に乗せられここに運び込まれたらしい。

「本当に心配したよ。エクルス君なんてずっとソワソワしているんだよ。」

微笑みをたたえた顔でそんな事を教えてもらった。

どうも。古瑠璃です。「ある魔女が生まれ替わった日」、第5話になりました。今回も楽しんでいただけたら幸いです。次回もよろしくお願いします。

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