3話 戦場へ
(どうしよう……。)
入学早々、やってしまった。いくら怒っていたとはいえ、何かしら注意を受けるのは免れないだろう。そう思っていたのに……。
「ウィネーフィカさん。あんなに魔力弾を撃って大丈夫?それに、どうしてあんなにエクルスさんに容赦なかったの?何か理由があると思うんだけど…。」
ドゥクス教官は、まず責めるのではなく、ちゃんと話を聞いてくれた。おかげで少し安心して事情を話すことができた。
「うんうん、なるほどね。そりゃあ、怒っても仕方ないね。でもね、ウィネーフィカさん。これからは、どれだけ理不尽なことがあっても耐えなきゃいけない時がある。もちろん、大切な人のために怒れることは大事だ。でも、今回のようにするのではなく、僕に言ってくれれば対処はできたと思うんだ。だから、もっと自分に被害が出ないように立ち回りなさい。」
それは、ただ我慢しろというわけでもなく、綺麗事を言うわけでもない、心からの言葉だった。
「ありがとうございます、ドゥクス教官。次からはもっと上手くやります。」
「うん。そうしなさい。ところで、さすがに何かしらのペナルティを与えなきゃいけないのだけど…。」
「承知の上です。どうぞ、ペナルティを科してください。」
するとドゥクス教官はにやっと悪い笑みを浮かべて告げた。
「じゃあ、ペナルティを科す。明日から1週間、朝練をすること。」
「そんなことでいいのですか。」
「じゃあ、これよりも重いやつにする?」
「いえ、このままで十分です。ありがとうございます。」
そう頭を下げた私をドゥクス教官はニコニコと見つめていた。
「それじゃあ、エクルスさんにも同じことをしてもらうから、明日からよろしくね。それじゃあ、また明日ね。」
最後に爆弾を落としてニコニコと去っていく背中を見つめて、私は肩を落としたのだった。
次の日、いつもより1時間早い朝5時、私は訓練場で朝練をしていた。
(朝は頭がスッキリしていて集中しやすいな。)
空中に浮きながら銃のスコープをのぞき、的を定める。数十から数百メートル先の的を射抜き、段々と距離を伸ばしていく。
(次は……。)
「よぉ、昨日はドーモ。」
後ろからぶっきらぼうに声をかけてきたのはあのストゥルトゥス・エクルスだ。
「やぁ、エクルス殿。昨日は世話になった。私の大切な人たちを侮辱してくれたお陰でお前を殺すのを我慢するので大変だった。」
嫌味たっぷりの言葉を放ち、殺意で満ちた満面の笑みで笑いかけてあげると、ストゥルトゥスは引きつった笑みを浮かべて冷や汗をかいていた。
「冗談だ。私も怒られたくはないのでね。」
安心した表情を浮かべたストゥルトゥスだったが、私は表情一変させ、真顔で告げた。
「ただ、次は無い。」
本気なのが伝わったのか必死に首を縦に振る姿は実に滑稽だった。
「私の意思が伝わったようで何よりだ。それでは、私は練習に戻るよ。」
牽制もできたし、十分満足して練習に戻った私はいつもより調子が良かった。
それから1週間、毎日朝に顔を合わせ、時にアドバイスを求められ、朝練をこなしていると、ペナルティの1週間が終わる頃には何故かストゥルトゥスに懐かれていた。といっても、馴れ馴れしい感じではなく、部下のような感じだ。
「ウィネーフィカさん、今日の朝ご飯はどうしますか?」
「いつもの。」
それだけ言うとパン、スープ、サラダを一皿ずつ銀のプレートに乗せて持ってきた。
「ごくろう。」
「いえ!」
うれしそうに進んで私に尽くすこいつの考えが私にはわからなかったが、私としては楽なので良しとしている。
それと、一つ問題なのが、あの模擬戦の後から私に呼び名がついてしまったことだ。その名も「金色のゼノ」。なんとも安直な呼び名だが、問題はそこではない。魔法兵魔銃科だけでなく、魔法兵剣術科にまで噂が広がっているらしい。そして、私たち78期生だけでなく、まだ在学中の77期生から74期生まで噂が伝わっているとか。曰く、「7歳の幼女が18の青年をボコボコにした。」、「倒した相手を奴隷のように扱っている。」、「血も涙もない悪逆非道な奴だ。」と噂されているようで、後半からはストゥルトゥスのせいでもある噂が広がっているらしい。
(まぁ、これで絡んでくる輩も減るだろうし、いいことでもあるだろうけど…、それにしても酷くない?)
そんな事を考えながら、私は今日も講義を受けに行くのだった。
そんなこんなで季節は冬、入学してから9ヶ月がたったある日、戦場へ行く機会は唐突にやってきた。
「これから3日後、野外実習を行います。後方で奇襲に備えての警備、および敵を見つけ次第撃退します。皆さんそのつもりで、今日から3日間、準備をしてください。なので、出発当日まで講義は休みにします。それでは講義を終わります。」
「号令!ありがとうございました!」
いつもの講義を受けていた私達に唐突に言い渡されたその言葉に皆それぞれ違った反応を見せた。ある者は喜び、ある者は怖がり、ある者は不安そうにしていた。当の私は緊張と喜びの入り混じった気持ちで部屋に戻った。
(ついに戦場に出ることができる。ここで何かしら結果を残せば訓練兵から昇進できるよ。)
その日、私は期待に胸を躍らせながら眠った。
「やぁ、皆。久しぶりだね。」
次の日、私は孤児院に顔を出しに来ていた。
「まぁ、見ないうちに大きくなりましたね、ゼノ。あなたはもう8歳になったのね。」
目を潤ませたシスターが私のことを痛いぐらいにぎゅっと抱きしめてくれた。
「うん。私も大きくなったんだよ、シスター。今日は休みが取れたからみんなに会いに来たんだ。」
「そうなんですね。じゃあ、あの子たちと遊んであげてください。きっと喜びます。」
シスターと話している間に孤児院の子たちがだんだん集まってきた。
「ゼノお姉ちゃん、今日は遊んでくれるの?」
「うん。一緒に遊ぼう!」
それから私は夕方までみんなと一緒に遊んだ。鬼ごっこやかくれんぼ、縄跳びに絵本の読み聞かせをして、疲れた子どもたちはみんな寝てしまった。
「シスター。実は今日、伝えたいことがってここに来たんだ。」
「そうなのですか?」
「うん。私、戦場に行くことになったんだ。」
私の言葉を聞いたシスターはすごく心配そうな顔をした。
「でも、安心して。後方で奇襲に備えて警備してるだけだから、そこまで危なくないよ。」
シスターは少し表情が和らいだが、それでもまだ心配そうな顔をしていた。そして、シスターは固く閉じた口をゆっくりと開いて、私に告げた。
「ゼノ。それはきっと嬉しいことなのでしょうけれど、私はまだ心配です。今でもあなたを送り出したのはあっていたのかわかりません。だから、どうか無事に戻ってきたくださいね。」
「うん、シスター。ちゃんと元気に戻って来るからね。じゃあ私はそろそろ行くよ。また遊びに来るね。」
「ええ。また遊びに来てくださいね。」
名残惜しいが、ずっとは居られない。孤児院を出て、後ろを振り返らずに寮に戻った。
野外実習当日、練習場には戦闘用の服を着て、魔導浮遊装置と銃を装備した私たち第78期生、魔術兵魔銃科の者たちが整列していた。
「これより、西の第三砦、アルマ戦線後方警備に向かう。飛行して向かうので各々が決めたパートナーと安全の確認をしながら飛行するように。それでは総員、離陸準備!」
装備の最終確認をして、イヤリングと装備を接続する。
「離陸!」
全員が一斉に空へ浮き、ドゥクス教官を先頭に4列で総員28名が飛行する。皆、真剣な目をしていて、その空気はいつものように賑やかなものではなく、緊迫したものだった。
(これから向かうのは戦場だ。いつもより気を引き締めないとね。)
自身の中でも覚悟を決め、アルマ戦線へ飛行を続けた。
皆様こんにちは、あるいはこんばんは。古瑠璃です。3話を読んでいただき、誠にありがとうございます。これからもどうぞよろしくお願いします。




