2話 入学、そして戦闘
「ウィネーフィカ訓練兵、そこまで!」
教官に止められてようやく相手をしっかり見ると、鼻血が出て、顔は腫れた、元の顔も分からない見るも無残な姿になっていた。
(あぁ、やってしまった……。)
どうしてこうなったのか、少し時をさかのぼる。
「着いたぞ。」
ゆっくりと止まった馬車を降りた私の目の前には、いかにもな雰囲気を醸し出す建物が建っていて、ただでさえ緊張しているのに、その見た目のせいで私は余計に緊張していた。
「ゼノ・ウィネーフィカ。ついてこい。」
そう告げてスタスタと歩いて行く背中を私は駆け足で追いかけた。どうやらここは軍本部の敷地内に併設している軍学校のようで、校舎や宿舎と思われる建物の窓から訓練兵らしき者たちが不思議そうに見ているのが分かった。
(そりゃあ、この年齢で軍服着てる子がいたら気になるよね。)
そんな事を考えながらついていくと案内をしていた軍人が急に立ち止まり、私の方を向いた。
「ゼノ・ウィネーフィカ。これからお前はここで訓練兵として過ごしてもらう。最低4年間在学してもらい、実技、座学ともにいい成績を取れれば卒業して戦場に出ることができる。励むが良い。私の案内はここまでだ。校舎、宿舎の案内はこちらのドゥクス教官にしてもらうように。」
テキパキと説明を終えて、案内をしてくれていた軍人は去っていった。そして、残された私の目の前には軍人にしては優しそうな顔つきで、男性、見た感じ五十代ぐらいのドゥクス教官と呼ばれた人がが立っていた。
「ウィネーフィカさん。はじめまして。僕はポルタ・ドゥクス。ドゥクス教官と呼んでね。これからよろしく。」
「よろしくお願いします。」
話した感じもとても優しそうな人だ。これは当たりかもしれないな。
「うん。よろしくね。それじゃあ、これから校舎と寮の案内をするよ。ついてきてね。」
くるっと背を向けて、ゆっくり、堂々と歩いていく背中をてくてくと歩いて追いかけて、最初に着いたのは私の部屋だった。
「ここはウィネーフィカさんの部屋だから、好きに使っていいからね。でも、抜き打ちで部屋の確認をするから、あまり見られたくないものなんかは持たないほうがいいよ。」
案内された部屋は簡易的なキッチンとベッド、空の本棚とクローゼットが置いてあった。なかなかにいい待遇だ。
「次は校舎の案内をするよ。」
校舎と寮は渡り廊下で各階がつながれていて、渡り廊下を通ればすぐに校舎に着いた。
「窓から見えるあの広いところが練習場で、各教室で選んだ講義を受けることができるよ。ウィネーフィカさんは魔法訓練兵として受けてもらうんだけど、後で武器は銃か剣のどちらかを選んでね。説明はこんなところだけど、後はなにかある?」
「銃と剣はどのように戦うのかを教えてください。」
魔法兵の戦い方は一般兵と違うだろうし、知っておいたほうが無難だろう。
「いい質問だね。銃を使う場合は専用の機器を装着してもらって空中で戦ってもらうことになるよ。剣を使う場合は地上で一般兵を魔法でサポートしながら戦ってもらうよ。ただ、どちらもデメリットがあって、銃の場合は、その専用の機器というのが扱いがものすごく難しいから途中でリタイアする人が三分の一で、剣の場合は体力と周りを見る力が必要になるよ。ただ、在学中に模擬戦や戦場で野外実習もするから心配いらないよ。」
「ご説明ありがとうございます。」
「うん。全然いいよ。それじゃあ今日はいろいろな手続きと、荷解きをしてね。じゃあまた授業で。」
「はい。今日はありがとうございました。」
「ふぅ。」
少し息をついて椅子に座ったまま伸びをした。その後、色々な手続きをすませて、孤児院から持ってきた少ない荷物をクローゼットにしまい、渡された資料に目を通した。その中に衣食住の保証もちゃんと書いてあった。
「これで衣食住は確保できたね。後は早くいい成績を取って卒業、できれば在学中に何らかの手柄を立てられれば上出来だよね。」
資料の中には、在学中の野外実習などで手柄を立てれば二等兵から昇進できる、と記載されていた。上級兵から伍長になるには試験があるみたいだが、それでも、在学中に上等兵、もしくは伍長ぐらいにはなっておきたい。
「とりあえず、今日は遅いし寝るか。」
極上とまでは言えないが、孤児院より厚みのあるマットレスで眠りについた。
朝6時、鐘がなって目が覚めた。孤児院でも早起きは普通だったから二度寝することもなかった。
「お腹すいたな。」
起きて軍服に着替えてると、お腹が鳴った。
「食堂に行くか。」
宿舎の一階には食堂があって、お腹が空いたらみんなそこに行く。
「ドゥクス教官、おはようございます。昨日はありがとうございました。」
食堂には他の学生たちがいたが、一箇所だけ全く人のいない場所があって、その中心にドゥクス教官が座っていた。
「うん。おはよう、ウィネーフィカさん。昨日はよく眠れた?」
「おかげさまでよく寝れました。お気遣いありがとうございます。相席してもよろしいですか?」
孤児院で子どもたちとおしゃべりしながら楽しく食べていた私としては、一人で食べるのはとても寂しそうだ。実際、転生前の魔女時代はとても寂しかった。
「全然いいよ。座って、座って。」
「ありがとうございます。では、いただきます。」
銀のプレートに取ってきたパンやサラダ、スープは孤児院のものと全然違かった。パンはやや硬いがそれでも少しふわふわしていて、サラダはしなしなじゃない、新鮮な野菜がたくさん入っているし、スープにはちゃんと具が入っていて味付けもしてある。
「おいしいですね。」
そう、おいしいのだ。おいしいはずなのに、ご飯がちゃんと食べられて幸せなはずなのに、頭の中には孤児院の子たちやシスターの顔が浮かんできて、懐かしさと、申し訳なさと、悲しさが浮かんできた。
「どうしたの、ウィネーフィカさん。なぜ泣いているの?おいしくなかった?」
「え?」
ドゥクス教官が心配そうに顔をのぞいてくる。自分の頬を触ってみると確かに濡れていた。
「すみません。おいしくないわけじゃなくて、とてもおいしいんですけど、…少し孤児院がさみしくなってしまっただけなんです。」
「そうだったんだね。まだ7歳だもの、仕方がないよ。少しずつ慣れていってね。」
「はい。」
涙を拭いて、残りのご飯を全て食べると私のお腹はいっぱいになった。
「……は………で……を………すると………。」
食堂でご飯を食べ終わり、今、私は講義を受けている。1時間目は自己紹介や学校の校則の説明、そして今、2時間目は銃と空中に浮くための機器の扱い方を学んでいる。
「では、外に出て実際に使って練習を行う。4時間目には一対一の模擬戦も行うから、そのつもりで練習するように。では諸君、練習場に移動だ。」
今話していたのはラティオー・ピロソピア教官だ。魔法兵の実技はドゥクス教官が、座学はピロソピア教官が行うようになっているようだ。
軍服から外での戦闘用の服に着替え、練習場に向かうとドゥクス教官が待っていた。
「それでは諸君、まずは銃の扱い方を教える。通常の銃とは異なる故、しっかりと話を聞くように。」
いつもより教官らしい振る舞いをするドゥクス教官に驚きつつ、説明を聞いてみたところ、一人ひとつ、検診の際に使っていたあの宝石のアクセサリーが配られるそうで、耳飾りや首飾り、指輪などを選べるが、そのアクセサリーに魔力を込め、銃と耳飾りを連携させることで魔力弾が撃てるそうで、実弾を撃つことも可能。魔力弾は自身の魔力がある限り撃つことが可能だが、実弾は個数に限りがあるため使い所には気をつけるように、など。
「質問はないな?それでは、あの的のを目標にして練習開始!」
練習を始めても軍人の子供が多いからなのか説明を聞いてすぐに的の中心を撃てるものが多かった。かくいう私も魔女時代に動物を狩るため銃を使っていたのでこんなの朝飯前だ。軽い準備運動に的の中心を10回、狙って撃ってみたが、当たったのは7回だ。
(腕がなまったね。)
追加で5回、10回と何回も撃つとやっと感覚が戻ってきた。
(うんうん、いい調子だね。)
すると、
カーンカーン
やっと感覚が戻ってきたところで、鐘がなってしまった。
「そこまで!銃を置き、集合!次は空中に浮くための機器、魔導浮遊機の扱い方を教える。」
説明を聞くと、魔導浮遊機は背中にエネルギータンクを背負い、足に装着することで使うことができる。なぜ銃のように宝石を使わないのかというと、銃と違い、魔力消費量が半端ないため、事前に魔力を込めておいたエネルギータンクを背負う方が効率がいい。また、アクセサリーと連携することで通信装置になり、防御魔法発動も可能、というような内容だった。
「では、総員、離陸準備!離陸できる者から宣言して飛ぶように!」
装備はできてる。魔女時代に飛んだ経験もある。
「ゼノ・ウィネーフィカ!離陸します!」
体が浮く感覚がして、地上が遠のいていく。
(ああ、久しぶりの感覚だね。)
風を全身に受けて気持ちよく飛んでいるとドゥクス教官から通信が来た。
『こちらポルタ・ドゥクス。聞こえているか、応答願う。』
「こちらゼノ・ウィネーフィカ。問題なく聞こえています。」
あの宝石で出来たアクセサリー、私はイヤリング型のものをつけているが、そこから聞こえる声は少し心配そうに聞こえた。
『それでは今から高度を測る。無理をせず、できる限り上に飛ぶように。』
「了解しました。上昇します。」
(魔法よりもずっと早く、楽に飛ぶことができる。今なら……。)
『高度2000、3200、4700、6300、8000、9800、10000……!』
上だけを目指して飛ぶと、どんどん高度が上昇していき、10000まで到達した。
「限界まで上昇しました。墜落する前に着陸します。」
『ああ……。気をつけて戻ってくるように。』
先程とは違い、段々と地上が近づいてきて、ついに地上に足がついた。
「ゼノ・ウィネーフィカ、無事着陸しました。」
報告すると同時に、ワッと人が集まってきた。
「お前すげーな!」
「チビのくせにすげー!」
「よく無事だったなぁ!」
「あんな高くまでよく行けたな!」
そんな称賛の声が飛び交う。
「ありがとうございます。」
私以外の学生のほとんどは18才を超えている。故に舐められないようにするため出来るだけ顔を動かさず、声に感情が出るのを抑えるので精一杯だった。
「そこまで!総員、元の位置に戻れ!ゼノ・ウィネーフィカ訓練兵、きみはこちらに来るように。」
ドゥクス教官の声で皆、元の位置に戻っていった。
「ウィネーフィカさん、すごいよ君!」
いつも通りの声音で興奮気味に褒められ、少し嬉しい。
「そんなにすごいのですか?」
「うん!本当にすごいことでね、君の魔力量のおかげでもあるのだろうけれど、高度10000まで到達できる人は今、この国の中に十数人しかいないんだよ。その中のほとんどが引退した人、または指導者になった人だから、実質片手で数えるぐらいしかいないんだよ。」
「そうなのですね…。」
(そんなの初耳だ。まさかそこまで高い所にいると思わなかったから、これぐらいの高度が普通だと思ったのに…。)
意外とすごいことをしでかしてしまったようで、少し動揺していた。すると何を勘違いしたのか、ドゥクス教官がこう告げた。
「そうだよね、疲れたよね。これから4時間目まで見学していていいからね。ベンチでゆっくりしててね。」
(なんだか勘違いされてるが、まぁいいか。)
「ありがとうございます。それではお言葉に甘えさせていただきます。」
それから4時間目までは水を飲み、ゆっくりと他の学生を眺めて過ごした。そう、妬ましく思っているものが少なからずいることを知らずに。
「なんであんな奴が………!」
4時間目、ついに模擬戦をする。
「それでは諸君、これから模擬戦を始める。相手を選びなさい。」
皆が模擬戦の相手に同い年の子を選ぶのに、一人私にまっすぐと向かってきたものがいた。
「よぉ、俺の名はストゥルトゥス・エクルス。お相手願うぜ、ゼノ・ウィネーフィカ。」
ストゥルトゥス・エクルスと名乗ったこの人は自己紹介の時に父親が軍人だと言っていて、少し態度が大きい人だ。身長も170後半はありそうだし、器量の良い顔をしているのにもったいない奴だ。
「あぁ、こちらこそお相手願う、ストゥルトゥス・エクルス殿。」
「あぁ、そうこなくちゃな。孤児院育ちのチビちゃん?孤児院のシスターも子供もお前みたいに小汚い野郎なんだろうなぁ?なぁ、ウィネーフィカ。」
ストゥルトゥスの煽りは私だけでなく、孤児院のみんなも馬鹿にしたものだった。
(殺す。)
そんな殺意をむき出しにしながら順番が来るのをじっと待ち構えていると、ついに私の順番が来た。
「次、ゼノ・ウィネーフィカ、ストゥルトゥス・エクルスのペア、練習場の中心に移動、準備ができたら両者手を挙げるように。」
移動し終わり、ストゥルトゥスを睨みつけながら手を挙げた。
「それでは、戦闘開始!」
ドゥクス教官の合図とともにどんどん上昇していく。(孤児院のみんなを侮辱したあいつだけは殺す。)
ストゥルトゥスも私に負けじと上昇するが、途中でついてこれなくなった。
「高度10000。標的確認。照準確定。穿て。」
銃とイヤリングが金色に輝き、狙いを定めたストゥルトゥスへ魔力弾が一直線に飛んでいく。
「んなっ……!」
防御魔法を発動したが、魔力弾が被弾した瞬間爆発して、勢いに耐えられず落下していき、地面スレスレで体勢を立て直した。
「あんの野郎!ぶっ飛ばす!」
咆哮をあげて魔力弾を撃ってくるが、ほとんどは私に当たらず、横を通り過ぎていく。まれに私に当たることもあるが、魔力量の差か私の防御魔法でいとも簡単に防がれてしまった。
(なーんだ。こんなもんか。)
再び私に向かってきたストゥルトゥスへ魔力弾を再度撃ち込む。それでもしぶとく向かってくるストゥルトゥスへ多数の魔力弾を構える。
「終わりだ。」
空中に何十という魔力弾を待機させ、標準を合わせ
る。
「標的確認。照準確定。穿て!」
ストゥルトゥスへ金色に輝く多数の魔力弾が一斉に降り注ぐ。
「うわあぁぁ!」
悲鳴を上げて逃げるがその時にはもう遅く、容赦なく地面に叩きつけられた後、残りの魔力弾の雨が降り注ごうとしたその瞬間、ドゥクス教官に止められ、冒頭に戻る。
(ああ、やってしまった……。)
「ストゥルトゥスを治療室へ、ウィネーフィカ訓練兵は話があるから残りなさい。他の訓練兵は解散!」
「号令!ありがとうございました!」
皆それぞれ散っていく中、私一人、ドゥクス教官と残されてしまった。
(どうしよう……。)
2話も読んでくれてありがとうございます。どうも、古瑠璃です。書きたいことがたくさんあって、つい、長くなってしまいましたが、ご了承ください。これからもよろしくお願いします。
※階級の設定は本作独自のものになります。




