10話 初めての講義
「はじめまして、諸君。今日から特別教官としてお前たちの指導をする、イーオン隊長ゼノ・ウィネーフィカだ。これからの特別授業は私が担当するため、よろしく頼む。」
2年生魔法兵魔銃科の教室内に入った途端、ほぼ全ての生徒たちが驚き、ざわついた。まぁ、これだけ幼い軍人は珍しいのだから、しかたないだろう。だが、ゼノが教壇に立つとそれが静かだったと思えるほど教室内にざわめきが広がった。
「静粛に。」
いくら幼いとて目の前にいるのは教官。教室内には一瞬で静寂が戻ってきた。
「これより、補佐をする特別教官たちに自己紹介をしてもらう。静かに聞くように。まず、副隊長ストゥルトゥス・エクルス。」
「紹介に預かった、イーオン副隊長ストゥルトゥス・エクルスだ。以後よろしく。」
「次、トゥリパ・フロース。」
「ご紹介に預かりました、イーオン隊員トゥリパ・フロースです!これからよろしくお願いします!」
「最後、アーラ・フルークトゥス。」
「ご紹介に預かった、イーオン隊員アーラ・フルークトゥスよ。これからよろしくねぇ。」
それぞれ浅くお辞儀をしたり、敬礼をしたり、手を振ったりして自己紹介をした。定型文だが、各自の挨拶にそれぞれ個性が出ている。
「各々自己紹介も終わったことだ。質問のある奴は居るか?」
誰もが困惑する中、1人手を挙げた奴がいた。
「ゼノ先生はぁ〜」
「気安く名前を呼ぶな。ウィネーフィカ教官と呼ぶように。」
相手は態度の悪い、下卑た笑みを貼り付けたチャラそうな男だ。その喋り方や態度から見るに明らかにこちらを見下しており、とても腹立たしい。
「うい〜っす。えっと〜、ウィネーフィカ教官はぁ、何歳なんすかぁ〜?」
「12だ。」
「うへぇ〜。お若いすっねぇ〜。そんなンでマジでミセーリアの前線に行ってるんすかぁ〜?」
「ああ。」
「へぇ〜。じゃあ、俺にも楽勝っすね〜!」
取り巻きと共にゲラゲラと笑うその声が私の虫の居所を一層悪くさせる。
─嗚呼、本当に腹立たしい。
「─お前は自殺願望者が何かなのか?」
「…は?」
教室内に緊張が走る。
「聞こえないのか?ならば子供にも理解できるよう噛み砕いて説明する故、この私の御有難い話をその耳かっぽじってよーく聞くがいい。いいか?お前ではミセーリア戦線の前線はおろか、後方の警備もまともにできないだろう。何故か?それはお前が戦争というのを甘く見ているからだ」
「はぁ?甘く見てなんかっ─」
「いや、お前は戦争を甘く見ている。私の隊にもお前のような奴がいた。お前のように私を見下し、愚かにも上官である私の命令に逆らったんだ。罰として、そいつ等は後方の警備を担当することになったが、どうなったと思う?結果は簡単、戦死したんだ。敵兵からの攻撃であっけなく!戦争をなめた結果がこれだ。年下でもできるから、と勘違いした結果がこれだ。自分は強いと、自分だけは死なないと錯覚し、油断した結果がこれだ!いいか?これは何度でもやり直しがきくゲームじゃあない。死ねば次もなければ明日もない、"戦争"なのだよ。」
教室内は静まり返っている。そこで私は満面の笑顔を作って生徒たちへ一つの問いを投げかけた。
「では、諸君。これまでの話を踏まえ、まだ、お前らみたいなゴミ虫が前線でまともに戦えると?」
「─してみろよ。」
「もっと大きな声で。」
「偉そうに言うんだったら実力を示してみろよ!そんだけ言うんだったら強いんだろ!?」
「つまり私と勝負をしたいと?」
「ああ!」
「いいだろう。向上心のあるやつは嫌いじゃない。諸君、練習場に移動しろ。実技の時間だ。」
その時の私はどんな顔をしていたのだろう。般若のような顔をしていたのか、鬼のような顔をしていたのか、どのような顔をしていたのか定かではないが、イーオンの隊員たちの顔が青ざめ、焦り、諦めたのは確かだ。
「─それでは諸君。これより実技訓練を始める。ルールは簡単。10分間の戦闘で私に一つでも傷を負わせれば勝ち。戦闘を継続できなくなれば負けだ。分かったか?」
「「ハッ。」」
「よろしい。では、最初の挑戦者は誰だ?」
「俺が行く。」
皆が順番を押し付け合う中、1人前へと出てきたのは先ほどの生徒だ。
「よし。では、位置につけ。準備ができたらエクルスの合図で開始する。」
互いが位置につき、戦闘のための準備を整えていく。その間も常に向かい側からとても熱烈な視線を感じる。身体に穴でも空きそうだ。
「そうだ。お前の名前を聞いていなかったな。名は?」
「ウェーメンス・アッフェクトゥス。」
「ウェーメンスか。いい名だな。では、改めて名乗ろう。私の名はゼノ・ウィネーフィカ。"神に愛されし者"のゼノだ。」
「は?まて、それって─」
「始め!」
ウェーメンスが何か気づいたようだが、時既に遅し。ストゥルトゥスの合図で戦闘は始まってしまった。合図と共に両者が競い合うようにグングンと空高く上昇していく。この状況がまるでストゥルトゥスと最初に戦ったときのようで少し懐かしい。
「高度6000。標的確認。標準確定。穿て。」
銃を構え、スコープ越しにウェーメンスへと標準を定めると一切の躊躇なく数発の魔力弾を撃った。
「「おおっ─!?」」
ウェーメンスが煙に包まれ、地上で観戦している生徒たちにどよめきが広がる。大方、生徒側代表ともいえるウェーメンスが倒されていないかと心配なのだろう。だが、生徒たちの心配に反し、煙が消えるとそこには防御魔法を展開してこちらを睨んでいるウェーメンスが浮遊しており、今まさに銃を構えてこちらを撃とうとしていた。
「お返しだぜっ!」
私に向かって連射された魔力弾の数は目視でおよそ20強。連射する数が多ければ多いほど魔力を込めるのが難しくなるため、2年生で20強も連射できれば狙撃速度の実技では文句なしの満点を取れることだろう。だが、それだけでは勝つことはできない。当たらねば意味がないし、当たったところで防御魔法を破壊するほどの威力がなければ相手を倒すことはできない。
「カヌス。」
『なんでしょう?』
「10%、貸し出してくれる?」
『いいでしょう。代償は?』
「ん〜…、じゃ、指6本で。」
『症状は?』
「任せるよ。」
『わかりました。では、交渉成立です。』
「ありがと。─対魔法用防御魔法展開。」
目の前に現れたのは難解な術式が描かれた金色に輝く半透明の魔法陣。防御魔法にも種類があるが、これは魔法攻撃の防御に特化したタイプだ。私の魔力とカヌスの力で展開した魔法故、破壊するのは至難の業だ。
「よそ見してていいのかよ!?」
「ああ、問題ない。」
眼前に迫った魔法弾は私に届くこともなければ防御魔法を破壊することもなく、すべてが防がれてしまった。
(─痛ッ。)
魔法弾を防いだ直後、手の指と足の指に痛みが走った。カヌスによる代償だろう。ただ、気を使ってくれているのか手の指は左手薬指の突き指のみ、残りは両足の指がそれぞれ数本ずつ突き指、骨折といった症状にしてくれている。
「いい攻撃だったぞ、アッフェクトゥス。次は私の番だ。─魔力弾15発生成。」
──ストゥルトゥスは思った。
(あ、また無茶したな。)と。
何故ならゼノの綺麗な銀髪の先が僅かに金色に輝いているからだ。これは力を使った証拠である。何故知っているのかと言うと、イーオンの隊員たちの中で唯一ゼノが力の説明をしたのがストゥルトゥスだからだ。といっても、説明の際にゼノがカヌスデアのことは隠して"体質"ということにしているので全てを知っているわけではない。
(今度はどこを怪我したのだろうか。あまりひどくはないと思うが─。)
戦闘後のことを考えてストゥルトゥスはこっそりとため息をついたのだった。
──ウェーメンスは思った。
(なんなんだよあいつは!)
自身よりはるか高度を浮遊する少女を見て恐怖した。
「──高度6000。標的確認。標準確定。穿て。」
自身の防御魔法を容易く貫通する魔力弾の威力に恐怖した。
(おかしいだろ!神に愛されし者だなんて聞いてねぇよ!)
彼の意識はそこで途切れた。
どうも、古瑠璃です。ある魔女が生まれた変わった日、第10話ですね。1話をに投稿してから4ヶ月と少し。ようやく10話まで来ました。いろいろなことを書きたくてこの作品以外のものを仕上げているとついつい投稿が遅れてしまいます。
さて、前回の投稿からかなり経ってしまいましたが、これからも不定期的に投稿していこうと思います。読者の皆様にはご迷惑をおかけしますが、これからもよろしくお願い致します。




