ひさしぶりですね
「あっ…!」
「その人」は思い出したぞ!という顔。
「グルディスの…」
あまりに懐かしいグルディスという言葉にクラッと来ながらも、「その人」が覚えていたことにグッと喜びを感じた。
でも、あくまで「今思い出した」のだ。
あの日からずっと想い続けていた俺とは全く違う。
少しのガッカリとともに自分が通勤中ということを思い出した。
「あ、あの、よかったら、連絡…」
鞄を漁り、名刺を取り出す。
「よかったら、連絡くれませんか。」
気は確かだ。SNSのアカウントや電話番号の交換だと時間がかかってしまうと思ったが、自分の連絡先が書かれた紙を持ち歩いてるのを思い出したのだ。
夢にまで見た人に連絡先を教えるのがこんなに形式ばったものになるとは。
「じゃ、そういうことで」
そう言い残して傘を拾い、俺は逃げるようにその場を後にした。
あんなに夢見た三度目を結局自分で不意にした。
がっかりとドキドキが止まらないまま会社へつき、朝一の会議を終え一息着くとブブ、とスマホが振動した。
見覚えのないメールアドレスから「3年前と先ほどの者です」という件名。
冷や汗が出る。鼓動が早くなる。
どんなに期待しても連絡はないと思った。
メールを開く。
件名:3年前と先ほどの者です
本文:
お世話になっております。
先ほどは失礼しました。驚きました。
でもさらに驚きです。どうやら同じビルで働いているようなのでランチでもどうでしょう。
11:50にエントランス集合で。
どれくらいだろう。1時間くらい。
スマホを握りしめたまま静止していたと思う。
「その人」とずっと同じ屋根の下働いていた?
確かに、署名にある社名には見覚えがあり、住所は自分の会社と同じ。「その人」は15階、俺は2階だ。
俺が出勤しているオフィスビルは低層と高層でエレベーターが分かれている。とはいえ…。
1時間の遅れ分超スピードで業務を進め、11:45にはエントランス前に来た。
11:50になると「その人」はどこからともなく現れた。
「ひさしぶりですね」