バカみたいですね
三度目が俺の人生を好転させるか、転落させるか。
「え…?」
「その人」は目を細めて言う。
そう、結論は簡単だ。俺だけが幻想を抱いていたのだ。「その人」の思い出に俺はいなくて、俺だけが「その人」の幻想を追い続けていたのだ。
もはや二度目は本当に夢だったのかもしれない。
そんなことを1平方メートルで繰り広げていたら奇しくも人ごみに飲まれた。
完全に油断していたのでバランスを崩しながら人の雪崩に乗り、ぷはぁと吐き出されるように駅の外に飛び出した。
隣には同じく吐き出された「その人」がいて、相変わらずこちらを見ていて、目が点になっていた。
持っていた傘もどこかに吹き飛ばされ、吹き込む雨がモロに全身に掛かっていた。俺だけ。
窓の向こうなのかと思うほど難を逃れている「その人」は、なんと、手にはさっきのサラリーマンのハンカチを持ったままで、まるでそれを差し出すような体勢でそこに立っていた。
もう何もかもの状況がおかしくて、それが可笑しくて俺は笑ってしまった。なにせ、忘れられないあの日の「もしよかったら」を彷彿とするポーズだったから。
口をついて出たのは
「バカみたいですね」