また来ようね
俺の恋人は俺に尋ねた。
あまりにぼうっとしていたからだろう。
「いや、なんでも。」
ありきたりな答えをして、俺はねじれの生活に戻った。
今席を立ち、「その人」の元へ行き、声をかけることだってできる。
連絡先を聞くこともできるかもしれない。
もしかしたら俺のことを覚えてないかもしれない。
覚えていたとして?「その人」も俺のところに来て話しかけては来ていない。
無限の距離が2人の間にはある。
でも今確かに、あの日の出会いは夢じゃなかったと思えた。幻じゃなかった。
いや、夢だったのかも。幻だったのかも。
本当は全て妄想なのかも。そう思われるほど「その人」は刹那だ。
先日、初めて友人の結婚式に参列した。
2人の人間の人生が交わる瞬間だと思った。結ばれた瞬間を原点として夫婦の人生は一本に収束するのだ。
俺と「その人」は…。
バラバラの人生が交わり、離れて、また交わって、二重螺旋のような構図を描いている。
つまり、なんだ。特異なのである。
その二重螺旋を想像するとまた出会える気がする。
今日出会うまでは大きなXのような構図だったから。
しばらくして俺たちはその喫茶店を後にした。
去り際「その人」がいた席をチラ見したが、もう姿を消していた。
初めて来たチェーンじゃない喫茶店。
「また来ようね。」




