じゃ、そういうことで
「バカみたいでしたよね。」
「その人」は続けた。
なんなんだこの人は。悪魔か何か、気がどうかしてるのか。
「バカみたいな社長に、バカみたいなグルディス。それに参加してる自分もバカみたい。なんか悲しくなっちゃって。」
「あ、はぁ、、?」
情けない声が出る。だんだん理解が追いついてきた。
「ああ、そういうこと…」
この人も心底ツラくて、俺にティッシュを渡したあの瞬間に心が折れたんだ。
それに気づくとなんだか笑えてきた。
「さっき、なんでティッシュくれたんですか?」
バカみたいな質問を投げかける。
「クシャミしてたから。何回も。」
「クシャミしてる人見てもティッシュ渡さなくないですか?」
「そうだね。」
笑いながら「その人」は続けた。
「たまたまポケットに手を入れてて、ポケットに入ってるポケットティッシュが手に触れてて、目の前にポケットティッシュを必要としてそうな人がいて、それで。」
ポケットポケットうるさいねと「その人」は笑う。
「タイミングですね。」
「ですね。」
「でもなんかその瞬間冷静になっちゃって。人に親切してる余裕なくない?って。なんか知らない人に急に物あげる謎の行動力も我ながら怖くなっちゃって、逃げちゃいました。」
「気づいたら居ませんでした。」
「はい、すみません。」
「いや、すみませんは違うと思いますけど。」
「で、ここでコーヒー啜りながら自分の未来を案じてたらアイスコーヒー一気飲みする変人と目が合って。」
「キモいですね。」
「キモくないですよ。気持ちのいい飲みっぷりでした。」
はは、と笑う。
「大学、どこですか?」
「その人」が話を続ける。
「聞きます?それ。」
大学を聞いたところで何の意味があるか。学歴なんて結局就活でも何の効力も持たないし、今聞いたところでどっちが上か下かみたいな感じになるじゃん。
「確かに、御法度か。」
「その人」は笑いながらもどこか憂を醸し出していた。
「なんなんですかね、就活って。」
「バカみたいですよね。」
「ほんと。自分より全然成績悪いし、授業も出ないし課題も人任せな人がポイポイ内定取っちゃって。4月から苦労すればいいのに。」
「まじで同じこと思ってました。ムカつく、ムカついてきた。」
はは、と「その人」笑う。
「内定、ゼロですか?」
「ストレートに聞きますね。ゼロではないですけど、給料超低いブラックそうな会社しかなくて、まあ、ゼロってことで。」
笑えない状況なのにあまりにストレートな質問に笑ってしまった。まあ、いま就活続けてるならゼロか、ゼロに近いよな。
「ということは?」
「はい、同じく。」
急に現実に引き戻されてか、沈黙がのしかかる。
「じゃ、そういうことで。」