いい飲みっぷりですね。
完全に心が折れた俺は最寄り駅まで通常の倍くらい時間をかけて歩き、靴擦れの痛みを感じながらよく見るチェーンのカフェに入った。
辺鄙な駅なので人もそう多くない。
MacBookでクリエイティブそうなことをしているクリエイター風の男。俺もあんなになりたいな。
でも、よく見るとYouTubeを開いてYouTuberの商品紹介の動画を見ている。MacBookの隣にはホイップが溶け切って層になった飲み物が結露してテーブルを濡らしている。この男もYouTuberも、どうやって生計がなりたっているのか謎だ。謎が謎を見ている。カオスだ。
「アイスコーヒーの、Mサイズで。」
思考停止で注文をすると「レギュラーサイズですね」と訂正された。もう、そんなことにもイライラしたりしない。俺も謎の仲間入りをしたい。
席に座り、アイスコーヒーを飲む。思いの外喉が渇いていた。中堅の中の下の会社め。就活生相手に水も配らないから水分なしでグルディスを乗り切ることになった。
気づいた時にはアイスコーヒーを飲み干していた。
ぷはぁと一息つく。なんだか気恥ずかしくなってグラスから目線をあげると正面でこちらを向いて座っている「その人」と目が合った。
折れた心が、折った当人を目の前に悲鳴をあげる。心拍数があがる。
「その人」はフッと笑って席を立ち、自分の荷物とグラスを持ってこちらへ近づいてきた。
「いい飲みっぷりですね。」