笑い疲れました
不思議だ。摩訶不思議だ。
ずっと会いたいと思っていた人に再開したと思ったらその週末には一緒に江ノ島へ来ている。
現実は小説よりも奇なり。
「企画倒れでしたね」
「その人」は俺が小田急線に乗り込むとケラケラと笑いながらそう言った。
むしろ3年間なぜ会わなかったのかと思うほどに俺たちの人生の歯車はかちりと噛み合っているように感じる。
俺は俺自身のことがあまり好きではないのだが、この人の事は好きだ。この人も俺を好いてくれていそうだ。この人が見る俺を見てみたい。そうすれば俺は俺をもう少し愛せるかもしれない。
とりあえず、まず砂浜へ行くことにした。その方が混雑を避けれるだろうと。
しかし、思いの外海水浴客はたくさんいた。
「ネットで見たよりは少ないかもです」
確かに、ネットやニュースでは海水浴客が所狭しと砂浜を埋め尽くす写真や映像が出回っていた。
気づくと「その人」は波打ち際まで歩いて行き、靴が波に当たるか当たらないかの際を攻めていた。
「見てください、1センチ!」
言うや否や少し大きめの波が襲い、きゃあとこちらへ逃げ帰る。
よし、と意気込み、俺は靴を脱ぐ。
我先にと「その人」も靴を脱ぐ。
恐る恐る波打ち際に近づき、足を波に飲ませる。
「おー、冷たい」
「その人」は久々の感覚を楽しむ。
あんなに海水浴客で溢れていた砂浜が、今この瞬間は「その人」しか見えず、波がきらきらと輝き、雑音は消え、こちらを向いて笑う「その人」のシーンがスーパースローで一生続くような気がした。
と思ったのも束の間、急に強めの波が寄せ、うわぁとズボンの裾を飲み込まれた。
「ああ!」と焦ったような声をあげる「その人」を見やると浜の方を指差して慌てており、その指の先を見ると俺たちが脱ぎ置いた靴が波に攫われているところだった。
引き潮に乗る靴を2人で追いかけ、互い違いのペアを揃え、腹を抱えて笑った。
浸水した靴は一度履いてみたが中までしっかり濡れてしまっており、諦めて海の家でサンダルを買った。袋に靴を入れ、荷物の増えた俺たちは呆然と10分ほど海を眺めていたが、「よし」と決心をし、濡れた靴を2ペア揃えて海岸の陽の当たる場所へ放置し、水族館へ向かった。
「笑いつかれました」




