じゃあ、また
「あ、いや、え、すみません」
なかなかに動揺して心拍数があがる。
「あ、動揺してる」
けらけらと「その人」が笑う。
「ジャンプスケアだよ、今のは、完全に」
「その人」はニヤニヤしながら顔にかかった髪を指ではらう。
「すみません、自分も途中で寝ちゃいました。付き合わせたのに」
そう言ってAirPodsを外し、ドラマの再生を止める。
時間を確認する。
「始発まで1時間くらいですね。もうちょっと寝ようかな」
「そうですね」
狭い室内で左右の角にもたれかかり、再び俺たちは眠りにつく。
絶対的に快適じゃない環境で、これまでになく深い眠りについた。
1時間後、アラームで2人が同時に起きる。
「おはようございます」
明らかにイレギュラーな状況を寝起きで完全に理解し挨拶をする。
「出ますか」
ガサゴソと支度をし、会計を済ませて店を出る。
新宿の古いビルの隙間から早朝の空が見える。
「さすがに身体にきますなー」
「その人」が首に手を当て唸る。
「さすがにね。首とか90度で寝てましたもん」
「今日は前しか向けないかも」
笑いながら「その人」は続ける。
「朝飯でも食います?」
何の気なしに尋ねる。
「食べたい!んですけど、さすがに帰ろうかな。シャワー浴びたいし」
「ですよね」
ですよね、とは思ってないけど、そう言う。
「なんか、ただの平日なのにすごい楽しい1日でした。ありがとうございます」
「その人」がぺこりとお辞儀をする。
「いえ、こちらこそ」
ぺこりとお辞儀を返す。
あまりに怒涛の1日すぎて、もうそんな日は二度とない気がして、その場を離れたくない気持ちになる。
「じゃあ、また」