じろじろ見ないでください
「その人」はよく喋った。
海外ドラマはミステリーサスペンスで、誰が怪しいとか、今のは伏線だとか。
ジャンプスケアに飛び上がったり、推理を外したりしながら見続け、あっという間にシーズン1を見終えた。
「思ったより面白かった!結果は納得行かないけど」
「その人」はそう言いながらスマホをいじり始めた。
怒涛の一日の疲れか、我慢できずはぁと欠伸をしてしまう。
「あ、眠いですよね、すみません」
「あ、いや、なんか激動の一日って感じで、油断して」
意味不明な言い訳をする。
「その人」は元気そうな顔をしてこちらを見ている。
なんだかドキッとして目が醒める。
「今の会社、中途で入ったから同期とか無くて」
「その人」は宙を見つめ話し始める。
「あ、別に今に限った話じゃないんですけど、インドアだし部活とかもやってなかったからかな。友達も少なくて。」
あくまで明るい顔をして話し続ける。
「だから、なんか同級生とか同期とかと仲良く遊んでる気持ちを体感してました。実質3年の仲ですし」
「俺も楽しいです」
「その人」もふわぁと欠伸をした。
よーし、といってその人はシーズン2の再生ボタンをタップした。イヤホンから音が流れ始める。
シーズン2は1話の序盤で寝てしまい、一切記憶がない。
しばらくして目が覚めるとドラマの再生は続いており、「その人」も隣で寝ていた。
こんな機会が今までなかったので思わずまじまじと顔を見てしまう。
目、鼻、頬、唇、顎、首…。暗い茶色の長めの髪はパーマがかかっており、傾いた顔にかかっている。
すぅすぅと寝息を立てている。
アクセサリーを全く身につけていないことに気づく。指輪も一切していない。時計もつけていない。
カバンは小さく、PCも持ち歩いていないようだ。
ゆったりしたシルエットの服はボディラインを完全に隠しているが、袖から生えている腕は少し日焼けをしていて細い。
目線を顔に戻すと「その人」とぱちりと目があった。
うぉ、と思わず声が出る。
「じろじろ見ないでください」