こうしてまた会えましたし
「生でいいですか?」
「あ、はい、ビールが一番」
店員に注文を済ませる。
お互いに自分の服のびちょびちょの部分を気にしながらビールを待つ。
「お酒、得意ですか?」
「んー、まあ、人並みに」
お待たせしました、とビールが到着する。
「じゃあ、再会に」
「乾杯」
かちん、とジョッキをぶつけ、ビールを胃に流し込む。
「かーっ」
「あれ、一気飲みしないんですね」
はは、と笑われる。
「アイスコーヒーね、ビールはさすがに」
俺たちの思い出は少ない。少ないが、少なくともこのシーンに寄り添ってくれてはいる。
「あの日から今日まで、どのようにお過ごしで?」
「その人」はにやにやしながら尋ねる。
「なにその大雑把な」
はは、と笑い続ける。
「あの時は就活に絶望してて、もう諦めようと思ってたんですけど、」
そこからトントン拍子に進んで今の仕事に就いたことを話す。
「楽しいですか?仕事」
「まあ、ぼちぼち」
こういうとき、自分のことをペラペラ喋るのが苦手だ。
「結局仕事はなんでも良くて、お金がもらえれば、それで。就活で語るような美談は…、ガラじゃないというか」
「夢とか、目標ね。キャリアプラン?志望動機とか、正直ないし」
「それじゃダメなんですかね、他の人が言ってること、わかるけど、本当かどうかはわからないし。ああいうモチベーションがないと真面目に働かないわけでもないし」
「ほんとそれ。モチベが最初からない分、下がることもないから良い社員ですよーって、思います」
「すごい意識低いこと言ってますね、俺たち」
思わず笑ってしまう。
「あの後…」
「その人」は徐に自分のことを話し始める。
新卒で入社した会社は超ブラック体質かつ上司のパワハラ、アルハラが酷かったこと。鬱になったわけじゃないと前置きをした上で、自主的に仕事を辞めたこと。実家で数ヶ月ニート生活をしたということ。
「ほんとー…にバカみたいでした。ダサいですよね」
「いや、そんなこと。」
「その人」はぐひぐびとビールを飲み干した。
ぷはぁと息を吐き、はぁとため息をつき、
「でも今いる会社は割と環境よくて、給料はそれなりですけど」
「ならよかったです」
「こうしてまた会えましたし」