二名で
隣にはいつの間にか「その人」が立っており、ビニール傘を掲げていた。
「え、マジですか」
相変わらず間抜けな応対しかできない。
「新宿経由ですもんね」
「あ、はい」
「じゃあ、一緒だ」
「その人」に誘われ、土砂降りの中へ繰り出す。
相合傘なんて何年振りだ。小っ恥ずかしいが、嬉しい気持ちもある。
「蕎麦屋に忘れましたよね?私も」
はは、と「その人」は笑う。
「会社にいっぱい置き傘あって、拝借しました」
「俺は気づかず降りちゃって、もういっそと思った時に声かけられました。助かりました。」
「どういたしまして」
肩が触れたりする。
「あ、持ちますよ、傘」
「いや、いいですよ」
「俺の方が背高いんで」
「高い方に合わせると低い方が濡れるので」
へへ、と「その人」は笑う
手が触れたりする。
ふと、この人には恋人がいたかもしれないということを思い出す。
喫茶店の連れ。
あの連れがどういう関係だったにせよ今は終わっている可能性もあるが。
「おなかすいたな」
「すきましたね」
「あ、独り言、すみません。」
「なんで謝るんですか」
「いや、なんか」
雨の音が強まる。側を走る車の音もうるさい。
10分ほど黙々と歩き、ようやく駅に辿り着く。
「靴やば」
インソールまでびちょびちょに濡れた靴が気持ち悪い。
「同じくです」
「その人」は膝あたりまで濡れていた。
「あ、」
「その人」が何かに気づいたように言う。
「運休ですね、事故かな」
電光掲示板を見ると赤く「運休」の文字。
見れば改札前には人だかりが。
不思議とツイてないとは思わなかった。
「その人」を見ると片方の口角をあげて何の感情か分からない顔をして電光掲示板を見上げていた。
その目がこちらを向く。
「せっかくなんで、この辺で時間潰しませんか?」
「いいですね、しばらく動かなそうだし」
そうするのが当たり前のように。
朝三度目に会った俺たちは昼に四度目に会い、夜五度目に会い、これから飲みに行こうとする。
急激すぎる変化が恐ろしくもあり、楽しくもある。
幸い俺だけじゃなく「その人」もそれを楽しんでいるようだ。
「じゃあ、今度は俺が」
昼は蕎麦屋に招待されたので、夜は俺のとっておきに招待するとする。
何度か行ったことのある居酒屋へ向かう。
「二名で」