5−10 ペイミの懸念
屋敷に着いたペイミたちは、地下牢にミケイトたちを連れて行った。
地下牢の石壁には古代文字がびっしりと彫られており、捕らえた者が魔法を発動出来ないように封印魔法が施されていた。
黒服たちが半殺し状態のミケイトたちを鎖に繋ぐと、黒服1号が後から地下牢に入って来た。
「マナゾフの拠点10ヶ所を掃滅せよと各支部に通達しました」
「そっか」
「お探しの男が見つかればいいですね」
「生きてれば18歳か」
「今回で見つかるかと・・・」
「どうだろうね。もう死んでるかもしれないよ」
「それならいいんですが・・・」
ペイミが一人で湯船に浮かんでいると、ジュードが湯殿に入ってきた。
ジュードはペイミと違ってしっかりとタオルで下半身を隠している。
「あれ?まだ寝てなかったんだ」
「はい・・・ご一緒してもいいでしょうか」
「好きにしたら?」
許可をもらったのでジュードが湯船に身を沈める。
ジュードはその暖かさにホッと息を吐いてから、ペイミに向き直った。
「今回は本当にありがとうございました」
「こちらこそ、君たちが来てくれたおかげで大義名分が立ったよ」
「そうですか・・・」
「じゃないと、後々遺恨が残るからね」
ペイミは感情がこもらない顔で湯殿の天井を眺めていた。
ペイミの左頬にある古傷に目がいったジュードがさっと視線を外すと、それに気付いたペイミが口角を上げる。
「この傷が気になる?」
「え?」
「今見てたでしょ?」
「いえ・・・」
「この傷は消えないんだよね」
「ペイミさんみたいに強い方が傷を負うなんて、信じられないなと思って・・・」
「この傷は魔力を発現する前、12歳の時の傷なんだよ」
「そうなんですか・・・」
「俺は元々奴隷でさ」
「・・・・・」
それを聞いたジュードが言葉に詰まる。
アシュファーレ国では昔から奴隷制度があることは知っていたが、まさかペイミが奴隷だったなんて思いもしなかった。
「12歳の時に俺を買った男が、人を痛ぶるのが趣味でね」
「・・・その傷はそいつに?」
「そう。気に食わないことがあるとステッキで俺をぶつんだよね。そいつは足が悪くて、いつもステッキを持ってた」
その光景を想像したジュードが眉を顰めた。
「でも14歳になって魔力を発現した時・・・俺はそいつを殺したんだ。そいつのステッキを使ってね」
「・・・・・」
「その時、そいつの息子にその現場を見られちゃってさ。俺はその場から逃げて、2年間あちこち放浪した・・・。その時にベレズエット商団に拾われて、18歳で団長にされちゃったわけ」
「18歳で・・・」
「それで3年前にあの男の息子がマナゾフに入ったって知ったんだよね・・・」
「え?」
「それからずっとそいつを探してるんだけど、見つからない」
「それで今回マナゾフを?」
「それもあるけど・・・ただ商売の邪魔だったってのもあるね」
と言ってペイミは微笑んだ。
「ペイミさんは、その息子が見つかったら、どうするんですか?」
「たぶん・・・殺すかな」
「!?」
「安心して暮らしたいからね。そいつはきっと俺の命を狙ってるだろうし」
ジュードにはそれを止める権利はなかった。
でも、ペイミの優しい部分を知っているからこそ、やるせない気持ちになってしまう。
「そんな顔しないでよ」
「!」
ジュードが顔を上げると、ペイミが微笑んだ。
「これは俺の問題で、君には関係のないことだ」
「・・・はい」
「優しすぎるのは自分を苦しめるだけだよ?他人の問題は他人の問題、君が気にすることじゃない」
ペイミはそう言ってジュードの肩に手を置くと、先に湯殿を出て行った。
その後ろ姿を見送ったジュードが小さく呟く。
「ペイミさんこそ、優しすぎますよ・・・」




