5−3 いい値
ペイミは椅子に座り、机に足を乗せた体勢で仮眠をとっていた。
何かの気配を感じてゆっくり目を開くと、目の前に魔法書簡が浮いていた。
「・・・こんな夜中に誰だ?」
ペイミは魔法書簡にそっと手を伸ばす。
めんどくさそうに手紙を開いたペイミは少し目を見開いた。
「第一王子が・・・?」
ペイミがぱちんと指を鳴らすと、黒服1号が瞬時に姿を現した。
「お呼びでしょうか」
「魔導石はどうなってる?」
「とある場所に保管してあります」
「すぐに持って来れる?」
「あれを・・・使うのですか?」
「買取先が見つかった」
「!!」
「俺はエンディーネとは縁があるようだね」
ペイミはにっこりと微笑んだ。
翌朝、ロバートが出発の準備をしていると、部屋にノックの音が響いた。
扉を開けると、そこにはペイミが立っていた。
「ペイミ殿、どうされたんです?」
ロバートが突然の訪問に目を丸くする。
「昨夜、ダグラス殿から魔法書簡が届いた」
「え?」
「ルーファス殿が意識不明だそうだ」
「え!?兄上が!?」
ロバートが持っていた肩当てを落としたが、気にせずにペイミは話を続ける。
「それで、ある物が欲しいと俺に頼んできた」
「ある物・・・?」
「魔導石」
「魔導石?」
「魔導石があれば、ルーファス殿を治せるかもしれないんだって」
「本当ですか!?」
ロバートは思わずペイミの肩を掴む。
「治せるかどうかは俺にはわからない。でも、これは緊急を要する」
「早く魔導石を届けないと・・・」
「そう。これには君の兄さんの命が掛かってるけど、どうする?」
ペイミが布袋に包まれた物を顔の横に上げて見せた。
「え・・・・」
「君が届けるか?ってこと」
「俺が・・・」
「仇を討つためにマナゾフのアジトに行くか、兄さんを助けるために戻るか、君が決めてよ」
「・・・・・」
「俺の部下たちはマナゾフの方に人員を割くからエンディーネには行けない。君たちの誰かがこれを持って戻るしかない」
ペイミは袋から出した黒い拳大の石をロバートに手渡した。
手に掴んだ魔導石をロバートは見下ろす。
「これがあれば兄上は・・・」
ロバートはグッと目を閉じた。
そして、ゆっくりと目を開く。
「わかりました。ラスールに戻ります」
「そう・・・」
「マナゾフのことは」
「それは問題ない。騎士を数人置いていってくれる?」
「はい。今から人選します」
ペイミがすぐに私室に戻ろうとしたので、ロバートが慌てて呼び止める。
「あ、あの!これは一体おいくらで譲っていただけるんですか?」
「ん〜そっちのいい値でいいよ」
「え?」
「国王と話し合って決めてよ」
「でも・・・」
「お兄さんの命の値段、俺にはわからないでしょ?」
と言ってペイミが口角を上げた。
「・・・・わかりました。父上と相談します」
「よろしく」
ペイミはひらひらと手を振って廊下を歩いて行った。
「ルーファス様が!?」
ジュードたちがソファから立ち上がった。
先程招集をかけられたジュードたちは、ロバートの部屋に集まっていた。
「それで、この魔導石をラスールに届けたい」
ロバートが皆に魔導石を見せた。
「これを?」
「これがあれば助かるかもしれないと、ダグラス殿が言っているそうだ」
「そうですか・・・では早く届けないとですね」
「それで誰が届けるかをここで決めたい」
「ロバート様は・・・」
「俺も戻る。兄上が心配だからな・・・」
「そうですね。あと二人護衛につけましょう」
しばらくの沈黙の後、神官のセシルが手を上げた。
「では、俺が戻ります」
「いいのか?」
「はい。神官も一人はいた方がいいかと」
「そうだな。頼んだ。あと一人は・・・」
ジュードが皆の顔を見回す。
「俺が行きます!」
ビッツが手を上げた。
「そうか・・・ビッツ頼んだぞ」
ジュードがビッツの肩に手を置いた。
「これでラスールに戻るのが、ロバート様とセシル殿とビッツの3人。マナゾフのアジトに向かうのが僕とマシューさん、ネフィ、パーチ殿の4人ですね」
ジュードは人選が済むと、すぐにペイミに報告に行った。
「わかった。俺たちと行くのは4人か」
ペイミはだるそうに机に肘を付いていた。
「はい。よろしくお願いします」
「俺の部下たちは8人程連れて行く」
「わかりました」
「30分後には出発するから」
「はい」
ジュードが執務室から出ていくと、黒服1号が呟いた。
「役に立ちますかね・・・」
大半が魔導士で構成されているベレズエット商団からすると、魔法を使えない騎士が使いものになるのかは疑問だった。
黒服1号の言葉が意外だったペイミが乾いた声で笑う。
「はは・・・騎士はそこにいるだけでいいんだよ。そこにいるだけでね」




