3−19 二つの魂
「エミリーの魂を見る??」
執務椅子に座ったルーファスは突飛な話に目を丸くした。
「まぁ、とりあえず話を聞いてくれ」
レン王子はルーファスがこういう反応になることは想像していた。
「隣にいるデニス殿は魔法士なんだが、特別な魔力を持っていて、召喚魔法の適正があるんだ」
「召喚魔法?」
「この世界にいない存在をこちらの世界に呼べる魔法だ」
「!!」
驚きを隠せないルーファスにデニスが慌てて補足する。
「でも、私はそれほどの魔力は持ってないんです!私はただ、精霊が近くにいることがわかるくらいで」
「精霊・・・」
「精霊と魂は似た存在ですから、人の魂も感じることが出来るんです」
「そういう、ものなのか?」
「はい」
デニスの説明を聞いても魔法の知識に乏しいルーファスは、にわかには信じられない。
「それで、デニス殿にエミリー王女の魂を見てもらおうかと思う」
ルーファスはやっとレン王子が何を言いたいのかがわかってきた。
「意識が戻らないのは魂に原因があるのかもしれないと?」
「そうだ。体は完治していると聞いた。なら、試してみてもいいんじゃないか?」
「・・・・魂か」
ルーファスはしばらく考えた後、席を立った。
「わかった。エミリーのところへ行こう」
「いいのか?」
「あぁ。試してみよう」
ルーファスの黒い瞳には久しぶりに意欲が戻っていた。
エミリーの私室の前に行くと、廊下に控えている騎士にルーファスが声をかけた。
「レン王子が面会に来た。しばらく私たちだけにしてくれ」
「はい!伝えて来ます」
騎士がエミリーの部屋に入ると、神官と侍女を連れて部屋から出て来た。
「皆すまないな。しばらく席を外してくれ」
ルーファスが声をかけると、神官と侍女は深く頭を下げて廊下の端に並ぶ。
「行こう」
ルーファスがレン王子とデニスを部屋の中に招き入れた。
中に入ると、天蓋付きのベッドにエミリーが横たわっていた。
デニスは申し訳なさそうにベッドの側にあった椅子に腰を下ろす。
すると、エミリーの魂を見た途端に驚愕した。
「そんな!!」
「「!!」」
デニスの大声にルーファスとレン王子が肩をびくりと震わせる。
「ど、どうした?」
レン王子が胸を押さえながら尋ねる。
「ありえません!!」
「何がだ??」
ルーファスが焦ったそうに顔を歪めた。
「二つある・・・・二つあるんです」
「二つ?」
「魂が二つあるんです!!」
「「!?」」
ルーファスとレン王子がデニスの側に駆け寄る。
「どういうことだ?エミリーの魂が二つあるのか?」
ルーファスが信じられないという顔で尋ねる。
「はい。どちらもエミリー王女の体と繋がっています」
「・・・そんなことが、あり得るのか?」
「いえ、私も初めて見ました」
「目覚めないのはそれが原因か?」
「それは、わかりません」
そこでレン王子が当初の目的を思い出す。
「魂は体から抜け出しているか?」
「はい。二つとも体から抜け出しています」
「なら、魂を戻すことが出来れば目が覚めるかもしれないな」
「はい。どちらがエミリー王女の魂かわかりませんし、二つとも戻すしかないですね」
「そうだな。魂を戻す方法がわかればいいんだが・・・」
「召喚魔法の魔導書があれば、何か手掛かりがあるかもしれません」
「召喚魔法の魔導書か・・・また貴重な物を・・・」
レン王子が悩ましい顔で目を閉じる。
「まずは、ダグラス殿に聞いてみるか・・・」
ルーファスの呟きにレン王子が「それだ!」と目を見開いた。
「召喚魔法の魔導書じゃと・・・?」
「はい。お持ちではありませんか?」
ルーファスが身を乗り出してダグラスに尋ねる。
執務椅子に座るダグラスは、この珍しい2ショットを不思議そうに眺めながら口を開いた。
「ここにはないが・・・ルスル王国には保管されているらしいのぉ」
「ルスル王国ですか・・・」
「ルスル王国の国立図書館にあるそうじゃな」
「それは、私たちでも見ることが出来ますか?」
「無理じゃろうなぁ」
「では、どうすれば・・・」
「ルスル王国の者なら貸し出しが可能じゃろうな」
「・・・誰かに頼むしかないか」
「しかし、相当位の高い貴族でないと無理じゃぞ。それこそ王室に連なる者・・・」
そこでレン王子がハッとして口を開く。
「カナス幹部の!」
「そうじゃな。ニーナ・フェンコ殿なら召喚魔法の魔導書を持ち出すことは可能じゃろうな」
「ニーナ・フェンコ?」
ルーファスは一体誰のことを言っているのかがわからない。
「ニーナ殿はカナスの幹部で、ルスル王国の公爵家の次女なんじゃ」
「公爵家ですか・・・」
ルーファスは納得したように頷く。
「その、ニーナ殿に連絡を取ることは可能ですか?」
「魔法書簡を飛ばすことは出来るぞ」
「お願い出来ますか?」
「いいじゃろう。ルスル王国まで行く気か?」
ダグラスが目を細めながらルーファスに尋ねた。
「いえ、私は父上がいない間は城を離れることが出来ません」
それを聞いたレン王子がルーファスの肩に手を置く。
「俺が行く」
「!?」
「テヒトとデニス殿と行ってくる」
「・・・いいのか?」
「あぁ」
「レン王子は城を空けすぎな気がするが・・・」
ルーファスが呆れた顔でレン王子を見る。
「はは!俺は行きたい時に行きたい所へ行く」
明るく笑うレン王子にルーファスが再度尋ねる。
「本当に行ってくれるのか?」
「あぁ。行ってくる」
「ありがたい・・・よろしく頼む」
ルーファスもレン王子の肩に手を置いた。
それを見ていたダグラスが髭を撫でながら微笑む。
「若いっていいのぉ」
次回、第三章 最終話です




