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4 愛も雰囲気もない求婚




母レオナと兄のロバートがエミリーの部屋を訪れていた。

ドラゴンが現れた時、二人は城の北側にある騎士寮にいたという。

母はまたロバートの剣の稽古を見学していたのだろうとエミリーには察しがついた。


「ドラゴンが現れたって大騒ぎになってね」

「ジュードさんたちがそのまま騎士寮に匿ってくれたんだ。まさかエミリーがドラゴンと遭遇してたなんてな・・・」


ロバートが血の気の引いた顔でエミリーを見つめる。


「まぁ、エミリーが無事でよかったわ。ディナーまでゆっくり休んでちょうだい」

「ランチもここに置いてくから少しは食べろよ」

「はい」


エミリーは二人が部屋から出るのを見送ると、ベッドから這いずり出てテーブルに用意されたランチに手を伸ばした。


(よかった。私が魔法を使った事は知らないみたいね)




ランチを終えてベッドでゴロゴロしていると、ドアをノックする音が聞こえた。


「エミリー様、レン王子が面会にいらっしゃいました」

(ど、どうしてここに来るのよ?)

「・・・ま、待って!」


ナイトドレスだったのに気付いて慌てて壁に掛けてあったローブを羽織る。


「どうぞ、お通しして」


侍女の「どうぞ」という声がしてレン王子が姿を現す。


「すぐにお茶をお持ちします」

と言って侍女が満面の笑みを向けてきた。


(何よその表情!!)


レン王子は小さな小瓶をエミリーに渡すと、遠慮もなく椅子に座る。


「これは・・・?」


エミリーは緑色の液体が入った小瓶を振って尋ねる。


「魔力の自然回復を早めるポーションだ。あんな魔法を使っておいて何も知らないんだな」


レン王子は呆れた顔をして髪を掻き上げた。

シャワーを浴びてきたのか湿っている髪は結われておらず、リラックスした服装も相まって色気がだだ漏れである。


「あれだけ高密度な魔法を使ったら気絶してもおかしくないぞ」

「え?」

「魔法の色を見れば魔法の密度と威力が大体わかるんだよ。お前の防御障壁は見たこともない・・・虹色なんて」

「そうなんですか」


エミリーが思っているよりも魔法というのは奥が深そうだ。


「ルーファス王子もお前が魔法を使えること知らなかったんだな。会議に行く前に口止めされた」

「お兄様が・・・」

「なんで隠す必要があるのか理解出来ないけどな」

「・・・ラナ王国とは違います。この国では魔導士に自由はないんです」

「魔法士は神官として神殿に仕えるらしいな。詳しくは知らんが」

「魔導士と分かれば皆神殿に送られて育成、管理されます。公務以外での魔法の使用も禁止されています」

「へぇ・・・」


そこへ先ほどの侍女が来てテーブルにお茶とクッキーを置くと、そそくさと退出していく。

廊下からキャピキャピした声が聞こえるが、エミリーは聞こえないフリをして紅茶をすすった。

そんなエミリーをじっと見ていたレン王子がニンマリと口角を上げた。


「お前、嫁に来い」

「ブッフ!!!!」


エミリーは紅茶を吹いた。


「ラナでは国民の20%が魔法士だ。日常生活でも当たり前のように魔法が使われてる」


エミリーは吹いた紅茶をナフキンで必死に拭き取りながら尋ねる。


「わ、私と結婚して、あなたにメリットはあるんですか?」

「あぁ。ラナの王族は名のある魔法士の家系の中でも特に魔力が強いと言われていて、その魔力を未来永劫維持するために結婚相手にも強い魔力の者を選ぶんだ」

「魔力の強さで・・・」

「だから、お前に嫁に来てほしい」


レン王子の真面目な眼差しから、本気なのは伝わってくるが・・・。


(これってプロポーズなの?!プロポーズってもっとロマンティックだと思ってたんですけど!!)

「普通に魔法を使える生活だぞ?魅力的だと思わないか?」

(それは確かに魅力的だけど!?)


エミリーは魔法についてもっと知りたいし、自分の実力がどれくらいなのかも知りたいと常々思っていた。


「とは言っても、ラナでは男女とも18歳にならないと結婚は出来ないんだけどな」

(エンディーネと違うのね)


エンディーネでは男性が20歳、女性が18歳だ。


「だからまず、婚約者としてラナに来てほしい。表向きは留学するということにすれば、二年間は結婚を考える猶予になるだろ」

(王族でも他国に留学出来ると聞いたことはあるけど・・・)

「ラナには魔法士コースのある学園もあるぞ」

「え?そうなんですか?!」

「ハハ!やっと食いついたな」


エミリーは学園というものに通ったことがない。

幼い頃から学問ごとの家庭教師が付いていたので、同じ年頃の子と一緒に学んだことがないのだ。

侍女たちから街での暮らしや学園の話を聞いたことがあって、とても羨ましかった。

それが現実になるのなら。


(留学したいってお父様にお願いしようかしら)

「いきなり留学したいと言っても、ルーズベルト王は許可しないだろうな」

「え?」

「魔法士がうじゃうじゃいるラナに王女を留学させると思うか?」

「・・・確かにそうですね」

「だが、俺の婚約者ともなれば話は別だ。結婚の前にラナでの生活に慣れるためだと言えばいいし。宮殿で暮らせば24時間魔法士の護衛がつくからルーズベルト王も安心だろう」

「そこまで考えてたんですか・・・」

「まぁ、すぐに返事をくれとは言わない。俺は明後日帰国するから。次再会するまでに考えておいてくれ」

(また会う機会ってなかなか無いと思うけど)


レン王子は席を立つと、付けていたネックレスを外してエミリーに差し出した。

ヘッドに付いた赤い宝石は透明度が高く、一目で高級なのがわかる。


「わぁ・・・綺麗ですね」

「俺の気持ちだ」

(ん?)


レン王子がエミリーの手の中にそっとネックレスを置く。


(どうすればいいの?!)


エミリーは男性からこのような物をもらったことがないので、どういう反応をしていいのかわからない。


「あ、ありがとうございます」


ハンカチを差し出された時ぐらいの感じで受け取った。




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